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もろくてよわい家族

この前、ある女性が入院してきた。

今までは元気だったのに自転車で転んで骨折
そして、緊急入院、緊急手術。

夫と定食屋さんをしていて娘がふたり。
と、ここまではよくある話。


ちょっと違うケースなのには理由がある。
この娘さんのうちの1人が、知的障害のある人。

娘といっても40代。
ただ、中身はまだ10代のようにみずみずしい。

もうこれだけで、彼女の骨折だけの問題だけではなく
その家族全体の問題になってしまう。


娘を作業所まで送り迎えする人がいない。
洗濯して掃除する人がいない。
娘の薬を管理できる人がいない。
お店の勘定と接客できる人がいない。

家事の分業がさけばれて久しいけれど
女性主体の家事、そして女性中心の家族システムは
いまだに根強い。特に、高齢者の家庭は。

父親はお店のことばかりで
娘のことはよくわかっていない。

愛していないわけではないけれど
どうケアしていいかわからない状態だ。

母親である患者さんも
リハビリでどこまで回復するかわからない。
寝たきりにはならないにしろ
階段の上り下りは厳しそう。

ということは、お店にたてるかどうかわからないのだ。

そうすると、家族全員の暮らしの質そのものにも関わってくる。


きっと、このケースまでいかないにしても
母親が入院するとそれだけで家族システムが崩壊する。

家計をまわす父親の収入がなくなるのも困りものだけど
回す主体がいなくなる方が、家庭としての打撃が厳しい。

だって、お金がないよりも
明日着ていく下着がない方が困るもの。


そんな彼女、昨晩

私たちもいい歳だし
そろそろ今後の身の振り方とか
娘の施設や引受先のこととか
いろいろ考えなきゃって思ってたところだったの。

それがこんなかたちでくるなんて…

娘が先に逝ってくれて
次の日に私たちが逝くほうが
誰にも迷惑かけないし、みんな幸せよね。

って話していた。

もう、何も言えなかった。
うんうんって話を聞くしかできなかった。


続けて、彼女は

ただでさえ娘は、人とちょっと違うから周りから好奇の目で見られるのに、格好まで汚くておかしいと、誰とも友達になれないまま一生が終わってしまう。そんな思いはさせないと服装も髪型も気をつけて、この40年近く頑張ってきた。今、あの子はどんな格好して外出してるのかしら。お父さん、全然わかんないだろうけど、そうさせてしまった理由は私にもあるのよね。

と、話す。


現在、娘さんはお母さんが家にいないことで不安が助長し、通っていた作業所に通えない状態。お父さんは、仕事と家事でてんてこ舞いで、お見舞いにも来られない状態だ。

3人の暮らしを、2人で担うって
仕事に置き換えて考えるとかなりしんどい。



この患者さんのお宅の年末年始は
家族それぞれが思考をめぐらせ
現実と向き合わなくてはならない期間になりそう。

毎年、お店でおせちを仕込んでいたから
寝正月なんてはじめてと苦笑する患者さん。


私たち医療者は、たぶん
それを見守っていることしかできない。

ならば、できるだけ
あたたかい眼差しで見つめていたいと思う。

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