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真・地獄めぐり〜正しい地獄の楽しみ方〜

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MEは何しに大分へ?


帰ってきた……。

大分トリニータが6年振りにJ1の舞台に帰ってきた。

2012シーズン、年間6位の成績でJ1昇格プレーオフに進出したトリニータは、京都サンガジェフ千葉との死闘を制して、晴れてJ1昇格の切符を手に入れた。

ちなみにこのJ1昇格プレーオフの決勝は、友人たちがこぞってジェフの勝利を信じて疑わない中、わたしだけはトリニータの勝利を願って国立競技場のトリニータ側の席で観戦していた。

しかし、満を持して迎えたJ1での2013シーズンは非常に厳しいものとなり、年間勝ち点14で最下位に終わった。

そして再び来季はJ2での戦いを強いられることとなった。

その後はまさかのJ3への降格もあり、トリニータのサポーターにとっては長く険しく苦しい道のりだったのだろうと思う。

そんなトリニータがついに帰ってきたのだ。

わたしは2013年に対戦したときのことを思い出していた。

2013年7月10日 大分銀行ドーム(J1 第15節)

アウェイでの対戦があった7月10日は平日ど真ん中の水曜日で、ベガルタのサポーターは遠い大分の地までは限られた人しか来ることができなかった。

そんな中わたしは当時応援していた角田誠選手(現在はV・ファーレン長崎所属)の30回目の誕生日ということもあり、こんな浮かれたゲーフラを作成して大分銀行ドーム(現・昭和電工ドーム)に乗り込んだ。 

結果は1-0での勝利。

楽な試合ではなかったが、こんなふざけたゲーフラで恥をかかずに済んだことは、素直に嬉しかった。

ホームでトリニータを迎え撃った9月14日は、このシーズンのベストゲームと言っても過言ではないくらい完璧な試合だった。

角田選手の2得点をはじめ、梁選手・柳沢選手・石川大徳選手・ウイルソン選手と攻撃力が爆発し、試合を終えてみると

大量得点をしクリーンシートで完勝した。

余談だが、プリクラの進化とやらは恐ろしい。

勝手に本人の原型を留めないほど加工を加えてくる。

実物はこんなに細くないし、足も長くないことをしっかり記しておきたい。

そんな2戦2勝の良いイメージを持って、わたしは意気揚々と再び大分へと向かった。


ビールはわたしを裏切らない


4月14日の朝、羽田空港発大分空港行きの飛行機に乗るため、わたしはほぼ不眠の状態で羽田空港にいた。

試合の前日、特にアウェイのときはよく眠れないことが多い。

遠足前日の小学生のようなテンションになっているからだ。

飛行機の中で眠れればいいのだが、海外遠征と違って大分まではたったの1時間半ほどである。

わたしは潔く睡眠を諦め、機内でその日の予定や交通手段などの確認をして時間を潰した。

ちなみに今回はJALでの移動を選んだが、それはマイルが貯まっていたからであり、羽田〜大分は他にANAやソラシドエアという航空会社がある。

また九州旅行を楽しむ時間がある人は、福岡を経由して特急ソニックで大分に向かうのもいいかもしれない。

わたしはなんとなく特急ソニックを使って福岡経由で帰ってきたのだが、硬すぎず柔らかすぎない絶妙な座席に感動した。

言わずもがなだが、飛行機も特急ソニックも早く予約すればするほど安くお得に乗ることができる。


大分空港に着くと、このような看板が出迎えてくれた。

様々なクラブや地域が試みていることではあるが、やはりこのようなおもてなしの心を目の当たりにすると、とても温かい気持ちになる。

試合中は敵対していても、それ以外の時間はノーサイドで気持ちよくありたいものだ。

空港からスタジアムのある大分市内へはバスで約1時間。

今回わたしは早めに到着し時間に余裕があったこともあり、宿泊先である別府の旅館に荷物を預かってもらうことにし、大分市内ではなく別府で下車をした。

別府駅前は今年大分でも試合が行われるラグビーワールドカップ2019日本大会のモニュメントで華やかだった。

恥ずかしながらわたしはこのモニュメントを見るまで、大分でラグビーワールドカップの試合があることを知らなかったのだが……。

別府駅からバスに揺られること約20分、今回の宿泊先である旅館に到着。

緑との調和の取れた趣のある良い外観だ。

今回この旅館を宿泊先に決めた理由は、翌日観光する予定の地獄めぐりが目と鼻の先だったこと、そして夕食のラストオーダー(スタート時刻)が一番遅かったことだ。

特に二つ目の理由は非常に大きい。

16時KOの今節の場合、終了するのは18時頃だ。

スタジアムから大分駅までのシャトルバスは通常約30分の乗車時間だが、少しでも渋滞に巻き込まれると、1時間近くも乗車しなければならないことがある。

Jリーグの試合では滅多にないかもしれないが、先日日本代表の試合で渋滞により選手の到着が遅れたのは記憶に新しいだろう。

大分駅から別府駅までは電車で約15分だが、別府駅から旅館までの移動時間も考えると、シャトルバスへの乗車が上手くいっても旅館に着くのは19時を過ぎてしまう。

大体の別府の旅館の食事のスタート時間が19時までとなっている中、この旅館は19時半までと記載されていたのだ。

もちろんわざわざ別府に宿泊せず、大分駅近くのホテルを取ることもできたし、あるいは別府に泊まるとしても、食事なしの素泊まりという方法もあった。

しかし、わたしにそれらは選べなかった。

誰にも気兼ねせず夜中まで、また朝から別府の湯に浸かりたかったのだ。

そして美味しい大分の懐石料理を、豊後牛のしゃぶしゃぶを食べたかったのだ。

念のため旅館の従業員の方に、食事のスタート時間ギリギリでの到着になってしまうかもしれないと伝えた。

「もし過ぎてしまう場合はお電話をください。その場合は通常の懐石料理のように1品ずつお出しすることは難しくなりますが、全て召し上がっていただけるように準備をいたします。」

神だ。

神が別府にいた。

わたしは試合とは別の、時間という強敵との絶対に負けられない戦いに必ず勝利することを誓って旅館を後にした。


大分駅に到着する頃には小雨が降っていた。

当日の天気予報には傘マークがついていなかったので、わたしは雨具の類は一切持ち合わせていなかった。

仕方なく駅構内の飲食店で、大分名物とり天を食す。

とり天おろし定食(720円)

ジューシーで柔らかなとり天にたっぷりと大根おろしを乗せて、かぼすポン酢をこれでもかとかける。

無限に食べられそうなほど美味しい。

こんなものがそこらじゅうで食べられるだなんて、わたしは心から大分県民に嫉妬した。

空腹を満たすとバスに乗り込み、いざ昭和電工ドームへ。

雨に濡れながらスタジアムの周りをぐるっと回り、ビジター側の入場口へ向かうと、コンコースの途中に人だかりが見えた。

ニータンだ。

わたしははやる気持ちを抑えて入場すると、一目散に先程ニータンを見かけた場所へ急いだ。

ニータンは確かにニータンであったが、ニータンではない何者かの姿になっていた。

正しくはウサギの姿になっていた。

これは後で知ったことなのだが、どうやらイースターの変装をしていたようだ。

でもそんなことはどうでもいい。

カメだろうとウサギだろうと、ニータンは紛れもなくニータンであり、それ以上でも以下でもないのだ。

カワイイの化身、カワイイの申し子、カワイイを具現化した存在。

容赦なくわたしの戦意を奪っていくニータン。

この世の中の100人に1人の割合でもニータンがいれば、きっと戦争なんて不毛なものはなくなるだろう。

余談だが、わたしがベガルタ仙台のマスコット・ベガッ太さん以外で持っているクラブマスコットのグッズは、ジュビロ磐田のジュビィちゃんと大分トリニータのニータンだけである。

それほどにわたしを惹きつけてやまない存在のニータン。

思えばこのとき既に勝負がついていたのかもしれない。

そう、負けたのだ。

大分トリニータの組織力に、ニータンの可愛さに。

「藤本さえ抑えときゃ勝てるって言ってたのどこのどいつだよ!?」

理不尽な怒りがわたしの中で湧いてくる。

「藤本に決められてないから実質負けてない」

わけのわからないルールがわたしを慰めようとする。

「大分に負けて、おー痛……。」

笑いにもならない。

仕方ない、わたしは手倉森チルドレンだから……。


いや、どう足掻こうと間違いなく負けたのだ。

トリニータは本当に強かった。

本当に良いチームだった。

しかし悲しみに打ちひしがれる間もなく、わたしはシャトルバスの乗り場へと急いだ。

そう、試合には負けても、旅館到着までの時間という強敵との戦いには絶対に負けられないのだ。

幸いにもバスを待つ人の列はさほど長くなかった。

渋滞もほとんどなかった。

スムーズすぎるほどスムーズに大分駅に到着し、19時10分頃には旅館に到着することができた。

従業員の方が気を遣って尋ねてくる。

「サッカーはどうでしたか?」

わたしは、あぁそういえばさっき負けたんだったな、と遠い昔のことのように思い出し、

「負けました。トリニータが勝ちました。」

と笑いながら答えた。

彼は非常に気まずそうに、しどろもどろになりながら

「サッカーは…勝ったり負けたりですから。」

とフォローをしてくれた。

こんなことを言わせてしまって、少し胸が痛んだ。

でもその通りなのだ。

勝つこともあれば、負けることもある。

それの繰り返しだ。

まぁ今期のベガルタに限って言えば、ほとんど負けているのだけれど……。(第8節終了時、1勝1分6敗の勝ち点4で17位。)


待ちに待った夕食の時間。

スタジアムで既に2杯ビールを飲んでいたが、ここでも迷わずビールを頼んだ。

ビールはわたしを裏切らない。

次々と運ばれてくる料理に舌鼓を打ち、疲労感をかき消すようにビールを流し込む。

何度でも言おう。

ビールはわたしを裏切らない。


膨れたお腹を抱えて、今度は楽しみにしていた温泉へ。

この旅館は鉄輪温泉(かんなわおんせん)と呼ばれる別府八湯の一つに数えられている温泉地にあり、源泉掛け流しのナトリウム塩化物泉を楽しめる。

残念ながら温泉の写真を撮ることはできなかったが、湯上りの肌はつるつる・もちもちで本当に夢心地だった。

こんな温泉に日常的に入れるだなんて、わたしは再び大分県民に心から嫉妬した。

この日の夜は睡眠不足だったこともあり、23時過ぎには布団に入って深い眠りにつくことができた。


翌日の朝食もまた素晴らしかった。

さらには大分名物のだんご汁までいただくことができて、朝から大分の食を堪能することができた。

無論、朝食前に温泉にも入って、この旅館の全てを味わい尽くした気分だ。

控えめに言って最高、若者言葉で言えば最&高だった。


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