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朝森久弥流・ホンネの高校選び3「高校でどんなことを学ぶの?」

誰でも自分に合った高校が選べる!

高校受験事情に異常に詳しい朝森久弥が、日本の高校受験を考えている中学生やその保護者の方に向けて高校選びの基本を語ります。

第2回では「高校は必ず自分で選ぶべし」という話をしました。

ただ、いきなり「選べ」と言われても、そもそも高校で何を学ぶのかがわからないと選びようがないと思うのです。そこで第3回では、高校で何をやるのか、どんなことが学べるのかという話をしていきます。

普通教科と専門教科

これから高校受験をするみなさんは、中学校でどのような教科を学んだでしょうか?基本的には、次の9教科ですよね。

国語 数学 社会 理科 外国語(多くの中学校では英語
保健体育 音楽 美術 技術・家庭

このような、学校に通うすべての人が学ぶ教科を普通教科と言います。これに対し、何らかの専門を選んだ人が学ぶ教科を専門教科と言います。中学校までは原則として普通教科しかありませんが、高校からは普通教科に加えて専門教科が登場します。高校の専門教科には次のようなものがあります。

農業 工業 商業 水産 看護 福祉 家庭 情報
理数 英語 体育 芸術

中学校までは全員が同じ教科を学んでいましたが、高校からは一人ひとりが別々のことを学びます。学ぶ内容によって、高校やクラスが分かれるわけです。高校では、学ぶ内容の違いで分けたクラスのことを学科と呼びます。普通教科を中心に学ぶ学科を普通科、普通教科だけでなく専門教科を多めに学ぶ学科を専門学科と言います。

普通科と専門学科の授業の違い。コースを持つ普通科などで例外があります。

普通科では2年生または3年生から、国語や社会を多めに学ぶ文系コースと、数学や理科を多めに学ぶ理系コースに分かれることが多いです。仮に2年生から文系・理系コースに分かれる場合、1年生の秋ごろにどちらのコースに進みたいかを選ぶことになります。また、「スポーツコース」や「商業コース」のように、普通科だけれども専門教科の授業をするクラスを持つ高校もあります。
なお、「特別進学コース」とか「アドバンスコース」といったクラスを持つ高校がありますが、これらはその高校の中でも学力が高い、あるいはいわゆる難関大学を目指す生徒を集めたクラスです。同じ高校にある普通科のほかのクラスに比べて、授業の時間数が多かったり授業の難易度が高かったりします。

専門学科は、専門教科のうちどの教科を多く学ぶかによって学科の名前が変わります。工業を多く学ぶ学科なら「工業科」、商業を多く学ぶ学科なら「商業科」、専門教科としての芸術のうち音楽を多く学ぶ学科なら「音楽科」…のようになるわけです。
高校によって多少のバラツキはありますが、専門学科では週に10時間くらいが専門教科の授業になります。残りの授業の多くは普通教科です。1日6時間授業で週5日通う標準的な高校を想定すると、1週間の授業は6×5=30時間ですから、専門学科といえども普通教科の授業の方が多いことは覚えておいた方がよいでしょう。

ちなみに、高校には普通科と専門学科のほかに、総合学科という学科があります。総合学科では一般的に、1年生で普通教科を中心に学び、2年生からは普通教科と専門教科の両方から自分の好きな授業を選んで学びます。ただし、総合学科で選べる授業の中身は学校によって違いがあります。普通教科に偏っていてほとんど普通科と同じだったり、専門教科に偏っていたりする総合学科もあるので、受験前にきちんと調べておきましょう。

普通教科はこう変わる!

中学校までの授業は教科ごとに分かれていましたが、高校の授業はさらに、科目によって分かれます。1つの教科の中にいくつかの科目があり、定期テストも科目ごとに行われるのがふつうです。
ここでは、高校で学ぶ普通教科にそれぞれどのような科目があるのかを紹介します(2024年現在。学校が独自に設定している科目は省略します)。

国語

国語という教科には、次の科目があります。

現代の国語 言語文化 論理国語 文学国語 国語表現 古典探究

このうち「現代の国語」「言語文化」はすべての高校で学びます。
「現代の国語」は説明的文章(評論文など)を、「言語文化」は文学的文章(小説など)や古典を主に扱います。どちらも中学校で学んだことをさらに深める内容ですが、中学校に比べて古典を学ぶ時間が増えます。古典はさらに古文と漢文に分かれますが、とくに古文の文法や単語を覚えるのに時間がかかるでしょう。英語を学ぶときも文法や単語を覚えると思いますが、それと同じです。

数学

数学という教科には、次の科目があります。

数学Ⅰ 数学Ⅱ 数学Ⅲ 数学A 数学B 数学C

このうち「数学Ⅰ」はすべての高校で学びます。
基本的には単元によって科目が分かれていますが、「数学Ⅰ」よりも「数学Ⅱ」の方が、「数学Ⅱ」よりも「数学Ⅲ」の方が難しいとされています。普通科の場合、文系コースでは「数学Ⅰ」「数学Ⅱ」「数学A」「数学B」を学ぶことが多く、理系コースではさらに「数学Ⅲ」「数学C」も学ぶことが多いです。とくに理学部や工学部といった理系学部の大学進学を目指す人は「数学Ⅲ」を学ぶことが必要です。

地理歴史・公民

中学校では社会という教科でしたが、高校ではこれが地理歴史公民の2教科に分かれます。さらに、地理歴史と公民にはそれぞれ次の科目があります。

【地理歴史】地理総合 地理探究 歴史総合 日本史探究 世界史探究
【公民】公共 倫理 政治・経済

このうち「地理総合」「歴史総合」「公共」はすべての高校で学びます。
中学校の社会でも地理分野・歴史分野・公民分野を学びましたが、これらをそれぞれ発展させたのが「地理総合」「歴史総合」「公共」です。「地理総合」をさらに発展させたのが「地理探究」、「歴史総合」をさらに発展させたのが「日本史探究」と「世界史探究」、「公共」をさらに発展させたのが「倫理」「政治・経済」と考えてよいです。「倫理」は中学生にはなじみが薄いと思いますが、これは現代人としてよく生きるために哲学や宗教・思想などを学ぶ、ある意味歴史っぽい科目です。
普通科であっても「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「倫理」「政治・経済」を全部学ぶことはほぼなく、1~2科目を選択するのが一般的です。

理科

理科という教科には、次の科目があります。

科学と人間生活 物理基礎 化学基礎 生物基礎 地学基礎
物理 化学 生物 地学

中学校の理科も物理分野・化学分野・生物分野・地学分野に分かれていましたが、これらをそれぞれ発展させた科目が並んでいますね。「科学と人間生活」は科学が生活にどう生かされているかを学ぶ科目ですが、大学入試の入試科目としてはほぼ使いません。大学受験を視野に入れる場合、"基礎"が付いた科目から3科目を選んで学ぶのが一般的です。さらに理系学部の大学進学を目指す人は"基礎"が付いていない科目、つまり「物理」「化学」「生物」「地学」から2科目を選んで学ぶことが多く、とくに「化学」が事実上の必修となっていることが多いです。
なお、高校の地学の先生は全国的に少ないので、「地学基礎」や「地学」を選択できないことがよくあります。

英語

学習指導要領では「外国語」で、英語以外の外国語の授業をしている高校もありますが、ここでは英語について説明します。英語という教科には、次の科目があります。

英語コミュニケーションⅠ 英語コミュニケーションⅡ 英語コミュニケーションⅢ
論理・表現Ⅰ 論理・表現Ⅱ 論理・表現Ⅲ

このうち「英語コミュニケーションⅠ」はすべての高校で学びます。
数学と同様、ⅠよりもⅡ、ⅡよりもⅢの方が難しくなります。大学受験を希望する生徒が多い高校なら、「英語コミュニケーションⅢ」「論理・表現Ⅲ」まで授業があるでしょう。高校では覚えるべき英単語の数が一気に増えるので、少なくとも大学受験を視野に入れるならば、教科書と同じくらいかそれ以上に英単語帳を使うことになります。
「英語コミュニケーション」は中学校の英語の授業を発展させたものと考えて構いません。「論理・表現」は、とくにスピーキング(話すこと)とライティング(書くこと)に重点を入れた英語の授業です。

保健体育

保健体育という教科は、高校では「体育」「保健」という科目に分かれます。どの高校でも「体育」は週2~3時間、「保健」は3年間のどこかで週2時間学びます。内容は中学校の授業と基本的に同じですが、水泳の授業がない高校が結構あります。
大学受験対策に時間をかけたい人は運動をおろそかにしがちですが、受験は体力勝負の側面があるので、運動習慣を維持した方がよいと私は思います(「体育」の授業がなくなる浪人生は注意)。

芸術

芸術という教科には、次の科目があります。

音楽Ⅰ 音楽Ⅱ 音楽Ⅲ
美術Ⅰ 美術Ⅱ 美術Ⅲ
書道Ⅰ 書道Ⅱ 書道Ⅲ
工芸Ⅰ 工芸Ⅱ 工芸Ⅲ

高校では少なくとも、「音楽Ⅰ」「美術Ⅰ」「書道Ⅰ」「工芸Ⅰ」のどれか1科目を選んで学びます。高校入学時にどの科目を選ぶかアンケートがあり、1年生で週に2時間学ぶパターンが多いです。音楽科や美術科の専門学科や芸術系のコースであれば、ⅡやⅢを学ぶこともあります。

「音楽」「美術」は中学校にもありましたね。「書道」は中学では国語の授業の一部でしたが、高校では芸術の一部なので鑑賞の機会も出てきます。「工芸」は、木や金属、土などから作る工芸品を扱う科目で、中学校の美術の一部と、技術・家庭の技術分野に通ずるものがあります。ただ、「工芸」の授業が受けられる高校は少ないです。

家庭

普通教科としての家庭には「家庭基礎」(週2時間)と「家庭総合」(週4時間)という科目があり、すべての高校でどちらかを学びます。
中学校の技術・家庭の家庭分野を発展させた授業ですが、衣食住や子育てだけでなく、社会保障制度や、投資による資産形成を含むお金の話も扱うようになっています。大学入試の入試科目になることはほぼないにせよ、「大人」になる上で最も大切な教科と言えます。

情報

普通教科としての情報には「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」があり、「情報Ⅰ」はすべての高校で学びます。
中学校の技術・家庭の技術分野でも扱う情報の授業を発展させた科目と言えます。2025年から大学入学共通テストで「情報Ⅰ」が出題されるため、近年注目が集まっていますね。多くの高校では1年生で「情報Ⅰ」を学びますが、共通テスト対策という点では3年生で復習する必要が出てきそうです。

専門教科ってどんなもの?

専門教科は大きく分けて、特定の職業に直結する技能を身に付ける教科と、普通教科をさらに発展させた教科の2種類があります。

農業や工業、商業、水産、看護、福祉は、特定の職業に直結する技能を身に付ける教科と言えるでしょう。学習指導要領では、それぞれ次のような科目が定められています。

【農業】農業と環境 食品製造 草花 農業機械 畜産 など
【工業】製図 工業情報数理 機械工作1 電気回路1 測量 など
【商業】簿記 ビジネス基礎 マーケティング 情報処理 など
【水産】漁業 船舶運用 航海・計器 ダイビング など
【看護】人体の構造と機能 小児看護 老年看護 など
【福祉】社会福祉基礎 介護福祉基礎 生活支援技術 など

こうした教科を設けている学科では「総合実習」や「課題研究」といった科目を設けて、その職業について体を動かして学ぶことがよくあります。ですので、授業に毎回きちんと出席できるかどうかが普通教科以上に大事になってきます。

一方、専門教科としての家庭や情報、理数、英語、体育、芸術は、普通教科をさらに発展させた教科と言えるでしょう。たとえば「体育」はどこの高校でも週に2~3時間は学びますが、体育科であれば週に10時間くらい学び、扱う種目も増えるといったように(大学進学に力を入れている高校では、もう少し「体育」の授業が少ない体育科もあります)。
ちなみに「理数」の専門教科として学ぶ理科・数学の内容は、基本的には普通教科で学ぶ理科・数学と同じです。では普通科で理系コースを選ぶのと何が違うのかというと、
・理数科だけが取り組む実験や課題研究の授業がある
・1年生の時点から理科や数学の授業数が普通科に比べて多い(2年生から理数科になる学校もあります)
・(理数科が高校に1クラスしかない場合は)3年間クラス替えがない
といったことが挙げられます。

専門教科は、その専門を活かして働く上で役に立ちます。ところが、高校で特定の専門教科を学ばないと就けない職業は基本的にありません
例をいくつか挙げましょう。

  • 高校で農業科や工業科を卒業していなくても、大学で農学部や工学部といった学部を卒業すれば、それぞれの専門の職業に就くチャンスが高まります。そもそも農業科や工業科を卒業したとしても、全員が農業や工業の仕事に就くわけではありません。

  • 高校で看護科(5年制)を卒業すると看護師国家試験の受験資格が得られますが、看護科以外の学科を卒業したのちに大学の看護学部や看護専門学校を卒業しても同じように、看護師国家試験の受験資格が得られます。

  • 高校の保育科は家庭のうち保育に関する専門教科を多く学ぶ学科ですが、高校を卒業しただけでは保育士の資格は得られず、大学や短大、専門学校の指定養成施設を卒業する必要があります。一方、保育科以外の学科を卒業したのちに同じ指定養成施設に進学して卒業しても、保育士の資格が得られます。

  • 美術大学の入学者には、高校の美術科に在籍していた人だけでなく、普通科に在籍しながら美術予備校に通っていた人が大勢います。

また、最終的に取得する資格や就職先が同じでも、高校を卒業してすぐに就職する場合と、大学や短大、専門学校などに進学した後に就職する場合とでは、仕事内容や給料に違いが出ることがあります。

中学生の時点で何らかの専門や職業に興味を持つことはよいことですが、だからと言って高校でその専門学科を選ぶ必要はなく、ほかのルートから目当ての専門や職業に進むこともできると覚えておきましょう。

同じ科目でも難易度が違う

同じ科目でも、高校によってその科目の難易度は違います。とくに国語・数学・地理歴史・公民・理科・英語では、難易度の違いが顕著です。

日本の学校で使う教科書は複数の民間企業が作っていて、その中から教育委員会の人や学校の先生がどの会社が作った教科書を使うかを選んでいます。小学校や中学校の教科書は、どの会社が作った教科書も難易度は同じですが、高校の教科書は、教科書によって難易度に差があります。1つの会社が難易度を変えた同じ科目の複数の教科書を発行することもあります。

たとえば同じ「数学Ⅰ」の授業でも、ある高校では大学入試で出てもおかしくないような難しい問題を解くのに対し、別の高校ではそうした問題は扱わずに中学校の復習から始まる、といったことが起こります。高校ごとに使っている教科書がそもそも違うからです。これは、普通科と専門学科との間だけでなく、普通科どうしの場合でも起こることです。
一般論としては、学力が高い生徒が多い高校・学科ほど難易度が高い教科書を使う傾向があります。詳しく知りたい人は、私が書いた別の記事も読んでみてください。

高校や学科、コースを選ぶときは、そこでどんな教科・科目の授業をするのかを確認するだけでなく、その授業がどのような難易度なのかを把握することが大切です。個人的には、自分にとってあまりに難易度が低い授業をする高校を選ぶのは慎重になった方がいいと思います。そうした高校を選んだ人が「授業が退屈すぎて高校を辞めたい」と言っているのを毎年よく聞くからです。

学校行事も"必修"

ここまで高校で学ぶ授業の話をしてきましたが、高校には学校行事というものがあります。具体的には次のようなものです。

【儀式的行事】入学式 卒業式 始業式 終業式 など
【文化的行事】文化祭 講演会 音楽鑑賞会 など
【健康安全・体育的行事】健康診断 避難訓練 体育祭 など
【旅行・集団宿泊的行事】修学旅行 野外活動 など
【勤労生産・奉仕的行事】就業体験 ボランティア活動 など 

学校行事は中学校にもありましたが、高校の方が大規模に行われることが多いので、これを目当てに高校を選ぶ人もいるかもしれません。一方、学校行事は面倒なので正直出たくない、という人もいると思います。

ここでおさえておきたいのは、学校行事は高校の卒業条件に含まれる教育活動のひとつだということです。
日本の高校の卒業条件は法令および学習指導要領によって決められています。それは「3年以上在学」「一定数以上の科目に合格(単位を修得)」「特別活動の成果を校長に認められる」の3点です。学校行事は、ここで言う特別活動に含まれる教育活動なのです。特別活動の目的は学習指導要領に詳しく書かれていますが、一言で言うと社会性を身に付けることです。

実は、高卒認定試験(正式名称:高等学校卒業程度認定試験)というペーパーテストに合格しさえすれば、高等学校卒業者と同等以上の学力がある者として認定され、大学などの受験資格が得られます。大学に行きたいだけなら、高校に通う必要はありません。
けれども高卒認定試験に合格しても、最終学歴は高卒にはなりません。前述の条件を満たしていないからというのはもちろんですが、高校の特別活動をクリアする程度の社会性が身に付いていない人を高卒と認めるわけにはいかないという認識が文部科学省、もっと言うと日本社会全体にあります。知識を身に付けるだけが高校ではないのです

そういうわけで、高校の学校行事は授業と同様に、原則として出席するものと考えてください(華々しく活躍することまでは求められていないので、ご安心を)。具体的な学校行事の中身は高校によってまちまちなので、受験前に確認しておくとよいでしょう。


少し長い記事になってしまいましたが、ここまでのことが頭に入っていれば、いろいろな高校のWebサイトやパンフレットを読んだときに、そこに書かれていることがだいぶ分かるようになるはずです。あるいは、もし高校について調べるときに分からないことがあれば、この記事を読み返してみてください!

最後まで読んでいただきありがとうございます。もしサポートいただければ、記事執筆に伴う文献調査や現地取材のためにありがたく使わせていただきます。 もちろん、スキ♡やシェア、コメントも大歓迎です!