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中学生が100人いる村

日本には、約325万人の中学生がいます。

もしこれを100人に縮めると、どうなるのでしょう?

とくに言及がない限り、この記事における数字の根拠は文部科学省が公表している「学校基本調査」のうち、最新の「令和5年度 学校基本調査」にあります。この調査は2023年5月1日時点のものです。
また、この記事の末尾に各文章の補足をまとめました。中学生を取り巻く教育事情を詳しく学びたい人は、[※○](○には数字が入る)を目印にご参照ください。

100人のうち、中学校にいるのは98人です。[※1]
中学生だからと言って、全員が「中学校」に通っているわけではありません。

残り2人のうち、1人は中等教育学校または義務教育学校にいます。[※2]

あと1人は、特別支援学校中学部にいます。[※3]


中学生100人のうち91人は公立、1人は国立、7人は私立の学校に通っています。
私立の学校に通う7人のうち、4人は首都圏の学校にいます。[※4]
私立の学校は概して、都会に集中しているのです。

日本の公立・国立中学校は無償ですが、実際には、給食費や教材費、制服代、修学旅行費などを支払う必要があります。
これらを支払うだけのお金がないと認められ、就学援助という補助金をもらっている世帯の中学生が、公立の学校に14人います。[※5]


中学生のうち1人は、外国人生徒です。[※6]

中学生のうち3人は特別支援学級に通っていて、1人は通級による指導を受けています。[※7]

2010年ごろ、不登校の中学生は3人くらいだと言われていましたが、2016年ごろから増え続け、2022年には6人になっています。[※8]


2024年春、日本では約110万人の中学生が卒業を迎えました。

彼らは卒業した後、どのような進路を歩むのでしょうか?100人に縮めて考えてみましょう。

とくに言及がない限り、2023年春に卒業した生徒のデータを基に議論しています。

平日は毎日、朝から夕方まで高校に3年間通う…そんな将来が待っている人は、100人のうち89人に過ぎません。[※9]

その89人のうち6人は併設の高校に進学、または中等教育学校に引き続き在籍するため、高校受験をしませんでした。[※10]

残り11人のうち、2人は定時制高校に進学します。朝から通う人も夕方から通う人もいますが、4年間かけて高校を卒業するようです。[※11]

最近は通信制高校を選ぶ人が増えており、5人が通信制高校に進学します。彼らは週に1~2回程度、あるいは年に数回だけ高校に通学するようです。[※12]

1人は高等専門学校、いわゆる高専に進学します。[※13]

2人は特別支援学校高等部に進学します。この2人のうち1人は特別支援学校中等部出身、もう1人は中学校・義務教育学校出身です。[※14]

これで99人の進路がわかりました。あと1人は就職するのでしょうか?いいえ、高等専修学校というところに進学するようです。[※15]
あるいは、インターナショナルスクール海外の学校に進学するのかもしれません。[※16]


全日制・定時制高校に進学する91人のうち、67人が普通科、16人が職業学科、5人が総合学科に進学します。
おや、これだと88人しかいませんね…。残り3人は、理数科や外国語科、音楽科、美術科、体育科などといった「その他の専門学科」に進学します。[※17]

公立・国立高校に進学する59人のうち普通科は39人に過ぎませんが、私立高校に進学する32人のうち普通科は28人にもなります。私立高校は普通科に偏っているのですね。[※18]

16人いる職業学科のうち、一番多いのが工業科で6人くらい。次に多いのが商業科で5人。農業科が2人、家庭科が1人、それ以外が1人です。[※19]


普通科や「その他の専門学科」からは、大学進学を目指す人が多いです。
先輩方の状況を踏まえると、普通科の67人からは45人ほどが、高校を卒業した後すぐに大学に進学するでしょう。残る22人のうち、2人は短大、12人は専修学校、4人が就職、4人が浪人などですぐには就職も進学もしないでしょう。「その他の専門学科」の内訳も普通科に近いです。[※20]

職業学科からは、高校卒業後すぐに就職する人が多いです。
しかし、先輩方の状況を踏まえると、16人のうち就職するのは半分の8人程度。大学・短大等に4人、専修学校に4人が進学するでしょう。[※21]

総合学科は普通科と職業学科の中間的存在です。
5人のうち2人が大学・短大に進学、2人が専修学校に進学し、1人が就職するでしょう。


ところで、中学生100人のうち将来的に大学に進学する人は55人くらいになりそうですが、大学入学共通テストを受験することになるのは38人くらいになる見込みです。[※22]

もしあなたが、12人分の席しかない国公立大学への進学を目指すなら、大学入学共通テストの受験が原則必要です。一方、私立大学への進学しか考えていないなら、必ずしも受験する必要はありません。[※23]

また、55人のうち28人は、学校推薦型選抜・総合型選抜を経て大学に進学することになりそうです。これらの選抜では、高校で良い成績を保つことがとても重要です。
もしあなたが一般選抜、つまりペーパーテスト1本で大学受験をするのなら、100人のうち27人しか進まない道を歩むことになることを覚えておいてください。[※24]

日本の中学生100人の進路をまとめた表


人は、自分が歩む道以外のことはよく分からないものです。

もしあなたがこの記事を読んだならば、自分とは違った道を歩む人がいることを思い出してください。

あなたがこれから歩む道を愛するのと同じように、誰かが歩む道をその誰かが愛していることを忘れないでください。

この村にいるすべての皆さんの歩む道を、心から応援しています。


[※1] 中学校は全国に約1万校あります。1校平均300人余り、1学年平均100人余りの生徒がいるということです。実際には、全校で100人以下の小規模校が全体の2割弱を占めます。

[※2] 中等教育学校は6年間の中高一貫教育を前提とした学校で、前期課程の3年間(中学校に相当)と後期課程の3年間(高等学校に相当)からなります。ほぼ全員が同じ学校の後期課程に進みますが、ごくわずかに他の高等学校に進学する生徒もいます。中等教育学校は全国に57校あり、前期課程の生徒数は約18000人。大学進学意欲が高い生徒が集まる傾向があります。
義務教育学校は小学校と中学校を一体化させた9年制の学校です。7~9年生が中学校に相当します。2016年に新設された学校種で、全国に207校あり、7~9年生の生徒数は約25000人。少子化に伴い、小学校と中学校が統合された結果、設置されることが多いです。

[※3] 特別支援学校は「視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体不自由者又は病弱者」に「幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施す」教育機関(学校教育法第72条)です。全国に1178校あり、中学部の生徒数は約33000人。特別支援学校には幼稚部・小学部・中学部・高等部があり、それぞれ幼稚園・小学校・中学校・高等学校に対応しています。

[※4] この記事で言う首都圏とは、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県のことです。首都圏の中でも、神奈川県・埼玉県・千葉県の全中学生に占める私立学校生の割合の10%弱(首都圏以外も同程度)ですが、東京都に限ると25.1%と突出して高いです。

[※5] 日本国憲法第26条によれば義務教育は無償のはずですが、公立中学校に通う場合でも、給食費や教材費、制服代、修学旅行費などで一人につき年間に約17万円かかっているのが現状です(文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」による)。こうした費用が支払えない世帯に対して市町村が補助を行うのが就学援助という制度で、学校教育法第19条によって定められています。
参考:文部科学省就学援助ポータルサイト

[※6] 日本国憲法第26条によれば外国人は日本の義務教育の対象外ですが、国際人権規約等を踏まえ、希望すれば公立学校に無償で就学できます。しかし、日本に住んでいながら学校に在籍できていない外国人の子どもが、日本人に比べて遥かに高いことが指摘されています。詳細はNHKの記事をご参照ください。

[※7] 障碍を持った生徒に対する教育は、特別支援学校だけでなく中学校でも行われています。通常の学級とクラスを分けて教育を受けるのが特別支援学級です。一方、ふだんは通常の学級にいて、一部の授業を別で受けるものを通級による指導と言います。2012年から2022年の10年間で、特別支援学級の生徒数と通級による指導を受けている生徒数はそれぞれ2倍以上に増加しました(文部科学省「特別支援教育の充実について」による)。

[※8] 文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」によれば、中学校の生徒に占める文部科学省が定義する不登校児童生徒の割合は、2022年度に5.98%に達しました。2020年度は4.0%だったので、コロナ禍の間に一気に増えたと言えますが、実は2016年ごろから増加傾向が始まっていました。

[※9] 日本の高等学校は、通学形態の違いから全日制・定時制・通信制の3種類に分けることができます。ここで言う「平日は毎日、朝から夕方まで高校に3年間通う」人とは、全日制の高等学校(中等教育学校も含む)に通う人を指します。

[※10] 中高一貫教育のため高等学校進学に際し受験がない学校は私立学校に多いですが、近年は公立の中高一貫教育校も増えています。

[※11] 定時制の高等学校はもともと、日中に働いている人が夜に通う高等学校として整備されました。近年は昼間に通える定時制の高等学校が増えており、どの時間帯に通うにせよ1日あたりの授業が少なめの高等学校という位置づけになっています。修業年限は4年が一般的ですが、より多くの授業を受けることで3年で卒業できる場合もあります。
(2024/03/31追記:昼間に通える定時制について)

[※12] 通信制の高等学校は毎日登校する必要がなく、主にレポートを提出して単位取得を目指します。修業年限は最短で3年。通学を全くせずに卒業することはできず、年に数回かは登校して授業を受ける必要があります。逆に、毎日登校できる通信制の高等学校もあります。
ちなみに、いわゆるサポート校は主に通信制の高等学校に通う生徒を対象にした学習塾のことで、学校教育法に規定された学校ではありません。

[※13] 高等専門学校は、技術者養成を目的にした5年制の高等教育機関です。卒業すると一般的には短大卒扱いになります。詳しくは私が以前書いた記事「高専進学を勧められたときに考えるべきこと」をご参照ください。

[※14] 特別支援学校中等部の卒業生の大多数は特別支援学校高等部に進学します。一方、中学校・義務教育学校から特別支援学校高等部への進学を考えるのは、主に特別支援学級に在籍していた生徒です。
中学校・義務教育学校の特別支援学級の卒業生に限定すると、特別支援学校高等部に進学するのは4割弱です(障碍の種類によって差があります)。残り5割強は高等学校等に進学していますが、学校基本調査にはその内訳が公表されていません。東京都の公立学校統計調査報告書によれば、東京都の中学校・義務教育学校特別支援学級から全日制の高等学校への進学は特別支援学級卒業生のうち2割程度約12%で、あとは定時制・通信制の高等学校に進学しています。
(2024/03/31修正:特別支援学校卒業生のうち全日制の高等学校への進学率について)

[※15] 2023年春の中学校卒業者のうち、就職者は1700人、割合にして0.2%未満です。厚生労働省の発表によれば、令和5年度の中卒の求人倍率は1.04倍と、就職氷河期の大卒並み。高等学校に進学するよりもいばらの道です。
高等専修学校は専修学校高等課程とも言い、中卒を入学資格とした職業教育機関です。高等"専門"学校と間違えないように注意しましょう。修業年限は1年以上。毎年約3000人が進学しており、高等学校の職業学科よりもさらに職業系の授業が多いです。高等専修学校を卒業しても「高卒」にはなりませんが、追加で学ぶことで高卒資格を取る技能連携校という仕組みを設けている学校もあります。

[※16] インターナショナルスクールのうち学校教育法第一条に規定されていない学校は「各種学校」に分類されることが多いです。また、海外の学校に進学する人は、学校基本調査では「左記以外の者(進学も就職もしていない者)」に分類されます。

[※17] 2024年の高等学校入学者数データはまだないので、2023年の高等学校入学者数データを基に議論しています。
「その他の専門学科」は職業学科とは異なり、上級学校への進学を主眼にしている所が多いです。

[※18] 普通科の公立・私立の比率は3:2程度になります。一方、職業学科は公立:私立=17:3と圧倒的に公立が多いです。職業学科は施設や設備、教員が多めに必要なので、私立では採算が取りづらいのでしょう。

[※19] 「それ以外」の職業学科には、看護科、水産科、福祉科、情報科が含まれます。

[※20] 「先輩方の状況」とは、2023年に高等学校を卒業した人のデータによるものです。これから高等学校に入学して卒業する人については変化する可能性があります。また、進路の内訳は全国の普通科を平均したもので、実際には高等学校によって大幅に異なります。
ここで言う「専修学校」には専修学校専門課程(入学に高卒資格が必要)と専修学校一般課程(入学に高卒資格が不要)が含まれます。専修学校専門課程のことを一般に専門学校と呼びます。

[※21] 職業学科のうち看護科は卒業生の大多数が併設の高等学校専攻科(2年制)に進学しており、これが「大学・短大等」に含まれます。看護科を卒業するだけでは、看護師国家試験の受験資格を得られないのです。
なお、職業学科の中でも学科によって進路の内訳は大きく異なります。たとえば工業科では6割余りが就職しますが、商業科では3割強に留まります。
参考:高等学校卒業者の学科別進路状況

[※22] 2024年度の大学入学共通テスト志願者のうち、高等学校等卒業見込者は約42万人でした。これは18歳人口の約38%に相当します。
参考:大学入試センター「令和6年度試験」

[※23] 2024年度の国公立大学の定員は12万8899人でした。これを、現役生と浪人生で取り合う構図となります。
参考:文部科学省「令和6年度入学者選抜について」

[※24] 大学入試には一般選抜・学校推薦型選抜・総合型選抜の3種類があります。一般選抜を経て大学に進学した人の割合は、2022年度入試では49.0%となり、過半数を割りました。一般選抜は、もはや「一般的な」入試ではないのです。詳しくは私が以前書いた記事「指定校推薦ってそんなにオトクじゃない」をご参照ください。

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