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行ってよかった美術展 2019

 今年度もほぼ昨年と同水準、52の美術展に行きましたが、その中で行ってよかったな、という展示会をお届けいたします。ちなみに昨年2018年の1位は国立新美術館の「生誕110年 東山魁夷展」、2017年の1位は西美の「北斎とジャポニスム」でした。


第3位「顔真卿 王羲之を超えた名筆」東京国立博物館

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 中国の書の巨人・顔真卿の書、普段は台湾の故宮博物院に保管されていながらなかなか現地でも表立って展示されていないというものが奇跡の来日ということで、中国からもこれを見るために来日した人も多かったらしいですね。見るとなんだか素人目には普通にうまい字くらいに感じてしまうのですが、よくよく聞くと顔真卿の書体が明朝体の元になったとかで、「普通」を作った人というその偉大さを感じることができた展示でした。目玉の「祭姪文稿」もあまりの長蛇の列でスタッフに急かされつつ一瞬見るというカンジではありましたが、激しい思いが伝わってきた……と思います。はい。

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顔真卿「祭姪文稿」


第2位「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」府中市美術館

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 こちら、都美の「奇譚の系譜」、三井記念美術館の「日本の素朴絵」とシリーズというカンジでもありますが、こちらを選んだのは「ピヨピヨ鳳凰」などが話題となった徳川家光画伯の絵のインパクトからですね。泣く子も黙る将軍が描いたゆるふわ絵画を現代の人が楽しんでいる、その状況から悠久の歴史の継続性を感じてしまいます、というのは大げさでしょうか。

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ピヨピヨ鳳凰こと「鳳凰図」


第1位「松方コレクション」国立西洋美術館

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 今年の一位は西美の松方コレクション。要は西美の常設展が松方コレクションなんじゃないの? と思っていたのですが、フランスが戦後返してくれなかったことで有名なゴッホ「アルルの寝室」のほかにも現在西美以外の美術館で飾られている松方コレクションが数多くあったんですね。それらが一堂に会する今回の美術館、これ全部西美の常設展にあったらよかったのに、と思わせる充実の展示でした。今からこの時代のものをこれだけ買い付けるのは実際不可能なわけで、松方氏の存在がいかに日本における西洋美術の在り方に影響を与えたか、ということを感じずにはいられない展示でした。

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ゴッホ「アルルの寝室」オルセー美術館


特別賞「IMPOSSIBLE ARCHITECTURE」埼玉県立近代美術館

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 旧共産諸国のディストピア感あふれる建築群に大変グッときました。冷戦下に建築物で国威発揚をしようとすると、そらムチャなことになりますよね。こちらは埼玉県立近代美術館のあと新潟市美術館→広島県現代美術館と巡回し、更に年明けからは国立国際美術館で展示されるそうですので大阪の方はぜひ。


特別賞「小原古邨」太田記念美術館

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 もふもふ感のある浮世絵にグッときましたです。特にこのポスターの、シャンプーハットのようなものをかぶって踊るキツネに。


特別賞「目[mé] 非常にはっきりとわからない」千葉市美術館

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 絵画との比較は難しくて特別賞にしましたが、大変印象的な内容でした。内容としては、こんな展示でした。
・千葉市美術館は現在リニューアル工事中で外に足場が組まれたりしている状況
・内部もあちこち養生されているなど、展示フロア含め工事中の様相、が、これはどうも「そういう展示」である模様。そのことに、メインの7・8階に上がってしばらくすると気づく
・7・8階ではそれぞれ同様に製作途中のインスタレーションや移設しかけの絵画があったり、足場の上で寝ている人がいたりするのだけれど、よくよく見ると両フロア完全に同じになっている。似ているのじゃなくて完コピだと気づいて、これは完全に展示物だと気づくところがアハ体験
・つまり、全く同じ移設しかけの絵画や屏風があったり、全く同じように寝ている人がいたり、はたまたペンキの汚れや割れたガラスのひびなどもよく見たらまったく同じ。確認のためにエレベーターで7階と8階を何度も行き来するうちに、自分が何階にいるか分からなくなってくる
・混乱は千葉市美術館の7階と8階が元々まったくおなじフロアの構造になっているという点が理由の一つ
・定期的に、作業をする人が出てきて、「移設作業のような作業」を行うイベントタイムがある。いろいろなものを移動させたりするのだけれど、最後には元の位置に戻して終わる。なので結局7階と8階の同一性は保たれる。本当に作業をしているようなのだけど、最終的に変化がないことから展示としての作業だと理解できる
・お客さんはみな服に「オーディター」のシールを付けているのだけど、作業をする人(「スケーパー」というらしい)はそのシールを付けていないので展示側の人だとわかる。どことなく皆つまらなそうに作業をしているけど、スケーパーへのインタビュー記事によるとそういう指示だったとか
・一度チケットを買うと、期間中何度も入場できる券をもらえるので、展示は毎日少しずつ変化していっているのかもしれない。ここは未確認
・ということで、現在リニューアル工事中で、上下同じ構造のフロアとなっている千葉市美術館ならではという、いま・ここだけの、今後再現できないであろう展示だったのだと思われる
・それで結局何なのか、非常にはっきりとわからない


 ということで、来年も数多くの印象的な美術展に出会えればと思っています!

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