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アンティーク着物と古裂と私 vol.3 リズム

続きになります。

「売るリズムが無い。」

オーナーに言われた言葉です。

私は販売員でありながら、ものを売ることが大の苦手でした。
当然のことながら、店は商品を売ることでまわっていきます。
売れなければ意味がありません。
店舗業務の柱である〝販売”に関して、勤めていた8年間のあいだ役に立ったとは思えず、そのことに関しては申し訳なさをいまだに感じています。

お客様に購入意思があっての場合、店員はそっと寄り添うことでいいと思います。
会話しながら、こんなものもありますとお薦めしたり、こちらもいいですよと新たな提案をしたり、スムーズに進んでいけます。

なかには「余計な口挟まないでね、今、真剣に選んでいるから」という方もいらっしゃり、それだけ集中したお買い物は素敵だと思いました。

オーナーと旧知の仲だったり、通う教室の先生が薦めてくれたからとご来店のお客様は、「ここには欲しいものがある、購入したい」というお気持ちがつよく、私でも売ることが出来ました。

しかし多くの場合は「何かいいものあるかしら?」とご来店されます。

その時に、この方はどんなものを欲しそうで、どんなものが好きそうで、どんな風にアプローチすればいいのかを瞬時に感じ取り、行動に移していけるのが理想の販売員だとするならば、私はかけ離れたものでした。

まず第一に、これはどうですか?こんなのもありますよと自分から積極的におすすめすることが苦手でした。

私の場合、「どうぞお好きに自由にご覧になってください」と声をかけることから始まり、少し時間をおいてから「何か気になるもの、ございましたか?」と再度声をかけます。

ここまではおそらく大きく間違っていないと思うのですが(笑)その先の〝お買い上げ”にむけてお客様を誘導していくことがうまく出来ず、さんざんお話して「楽しかった!また来ますね~」と笑顔でお帰りになっていく姿をお見送りするのが常。

「とにかく何でもいいから買っていただかなくては」という気持ちが自分になかなか芽生えず、これは販売員としてあるまじきことだったと反省しています。
お客様側からしたら「無理に売りつけられることもないし、その方が気楽」ということでも、店舗にとっては売り上げは死活問題です。
新規のお客様をどんどん増やしお買い上げいただく、更にはリピートしていただくことを常に念頭に置かねばなりません。

◇◇◇◇◇◇

オーナーは言います。

「私は気に入った店員さんがおすすめしてくれるものはぜったい買う。」

「売ることへの執着がないのが問題。売るリズム、ぽん、ぽん、ぽん、と売っていくリズムを身に着けてもらわないと、本当に困る。

私は購入するかどうかを迷っているお客様に対して、

「ゆっくりお考えになってでいいですよ。」

とすぐに言ってしまい、ここ一番のところでグイグイ押せないのです。
店の商品に愛情や自信がないのかというと、そうではありません。
どれも、オーナーの鍛え抜かれた眼で選ばれた商品だと思っていました。
お買い上げいただきたいと心底思っていました。

いい子ぶるわけではないのですが、選ぶのはお客様自身であり、そこに購入を促す言葉をたたみこんでいく事に非常に抵抗がありました。
思い返すと、プロ意識が無かった、ものを売る意識が相当甘かったのだと思います。
とはいえこのままではいけないと思い、武者修行をすることにしました。

◇◇◇◇◇◇

路面店はKさんと私で交代し、定休日なく営業。
一方で、オーナーは骨董市やデパート催事に出店していました。

骨董市はオーナーひとりで出店することが多かったのですが、デパート催事には人数が必要で、〝デパート催事の時だけお呼びがかかるスタッフ”が数名存在しました。

デパートの催事会場で5~6日間の期間限定で催されるイベントは、
「手仕事と和小物、着物フェア」
「手づくり和の布市」
「リサイクルきもの市」
「アンティーク、和と洋の世界」
のようなタイトルで、都内や都内近郊のデパートにて多い時は1〜2ヶ月毎に開催されていました。

出店が決まると、店舗ごとに割り当てられた会場スペース内に什器(商品を置く台や飾り棚やガラスケースなど)をどう配置するか考え、必要な什器をデパート側に発注、そのイベントにふさわしい(=売れるであろう)商品構成を考え準備していく、開催前日の夜に商品搬入作業を行う、開催終了後に撤収作業という一連の流れがありました。

オーナーは、開催期間中に会場販売に必要な人数のスタッフを集めていました。
デパート催事に呼ばれるスタッフは、オーナーの指示をいち早く理解して臨機応変に動き、販売に能力に長けている方々でした。

路面店スタッフのKさんと私は、催事に必要な準備には多少関わるものの、実際のデパート販売とは無縁でした。
デパート催事スタッフさんと話をすると、お客様が多く食事休憩をとる間もないほどの忙しさだと聞きました。

「私もデパート催事の販売に参加させてください。」

売ることが出来るようになりたい、販売経験を増やして勉強したいとオーナーにお願いしたところ、路面店勤務がない日に、夜の搬入からの参加を許可してもらえることになりました。


次回「vol.4 デパート催事」に続きます。
お読みいただき、ありがとうございました。

※見出し画像は帯です。店で商品として出ていたのを買わせてもらいました。このような柄はアールヌーボー、アールデコを連想させる柄行や色づかいであることから「デコ柄」と呼ばれています。

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