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コップ飲み問題

次男が生まれる前の私は、常に何かに戸惑い、悩み続けていた。

「そろそろコップ飲みの練習をしましょう」

育児書に書いてあるその月齢に長男が達したとき、私が渡したメラミンの割れないコップは彼にすぐさま叩かれて、床に落ちた。

コップを替えてみたり、両手持ちのものにしたり、スパウトマグを試したりしたけれど、長男の口にコップが触れることはなかった。イヤイヤと叩かれて、ためらいなくストローマグで飲む。

そうだ、ストローだって、彼は大変だったじゃないか。
それが今は飲めているのだもの、焦ることはない。

自分で自分に言い聞かせたのだけれど、誰かの家に行って、そこで
「はい、どうぞ」
とコップで出されるとき。
ごめんなさい、うちの子、まだコップが苦手だから、このマグに入れ替えさせてもらってもいいかな?と言うと
「えっ?!そうなのーー」
想像以上の相手のリアクションに勝手にグサッとくる私がいて、これが親戚の家だったりすると

「まだコップで飲めないの?やっぱり保育園行ってないからなのかねぇ」

と言われてグサグサッときたりした。

今考えると、何でこんなこと気にしたのか…たかがコップに初々しいな、ふふふと思わなくもないのだが、その当時、がっつり傷ついていた自分も労わりたいと思う。そのくらい一生懸命に長男に向き合っていた私よ、えらい。


助産院の催しに参加する
うちから近い場所に保育園があり、保育園には助産院が併設されていた。その保育園にお子さんを通わせていた私の友人から

「助産院の建物のなかで、未就園児の子ども達を遊ばせながら、保育園の先生たちが育児相談にのってくれる催しがあるみたいだよ」

と教えてもらい、長男と足を運んでみた。

ハイハイの赤ちゃんから、あちこち走り回るちびっ子まで、さまざまな月齢の子ども達とお母さん達がいた。
月1回のペースで開催され、開催時間での出入りは自由。
保育園で使っているのと同じ木のおもちゃがたくさんあって、自由に遊ぶことができる。保育士さんの読み聞かせやリズム遊びタイムもある。
保育園の先生たちが3名ほど会場に在中し、相談がある場合は気軽に話しかけてくださいね、というスタイルだった。


他の子どもがいるところに行くのを嫌がる長男。
公園でも視線の先に子どもがいると、別の場所に行きたがった。
幼稚園入園にむけて、少しでも「子どもがいる環境」に慣れてくれたらと思った。

最初は私から離れなかった長男も、うちにはないおもちゃに興味をしめし、笑顔で遊ぶようになった。
他のお子さんにいきなりおもちゃを奪い取られたときは、「え、いま、何が起きたの?」とぽかん。
うちで一人のときは、こういうやり取りが皆無なので、ここでの「とった」「とられた」「貸して」「いいよ」は彼にとっても私にとっても、すごくいい機会だったと思う。

読み聞かせやリズム遊びは嫌だったようで、その時間になると部屋の隅っこに行ったり、カーテンの中にひたすら隠れていた。

私の育児相談に乗ってくれたのは、保育園の園長先生だった。

「コップ飲み、そんなに急がなくてもいいんじゃない?」
必死で状況を訴える私に、先生は笑顔でおっしゃった。

「それよりも、息子くん、ものすごくしっかり歩けるようになって!先月来た時はまだ危なっかしかったわよねぇ」

え?見ていてくださったのですか?
憶えていてくださったのですか?うちの子を。

家族以外の、こういう保育園の先生が〝見ていてくれていた、成長に気づいてくれた”というのが、私には初めてのことで、本当に嬉しかった。
コップ、コップ、ずっと言っている自分が恥ずかしくなった。

長男が、私や夫が使うコップをじっと見ていることに、気づいた。
ある時、大人が使っているガラスのコップで出してみた。また吹っ飛ばすのかな、ガラスだし割れちゃうかなと恐る恐る…

飲んだ。
初めて、長男が自分からコップで飲んだ。


「長男くんは大人と同じコップがよかったのね。子どもは本当によく見ているのね。私も思いもつかなかったことだわ。話してくださってありがとう。もしコップ飲みで困っているママがいたら、話してあげたい」
園長先生の笑顔に胸がいっぱいになった。

我が家の食器棚にひとまわり小さなガラスのコップが仲間入りした。


2011.3月のこと
2011年2月を最後に、その助産院での催しは開催されなかったはずだ。
一斉メールが届き、
次回開催のめどは立っていないことと、被災され、現地の病院で出産することが不可能になった妊婦さんたちを本助産院で受け入れていることが書かれていた。

何かできないだろうか。
私にできることはないのだけれど、何かしたい。

そう思ったとき、段ボール買いして大量に家にあった「おしりふき」を、ベビーカーの底の「荷物かごっぽい部分」に詰め込めるかぎり入れて、自分のリュックの中にも詰め込み、長男と一緒に助産院に向かった。

エレベーターはいつもの催しで行く階ではなく、助産院の階で降りる。

フロアは、赤ちゃんのにおいがした。
受付で、怪しいものではありません、こちらの催しに参加させていただいていたものです、被災されて今ここに避難している妊婦さんたちがいるとメールで知って、この「おしりふき」を…と思って。ぜんぶ新品です!と受付台におしりふきを何パックもどんどん積み上げていきながら一気に話した。

突然現れた『子連れベビーカーおしりふき売り』的な私に、戸惑いびっくりされていた受付の方も、次第に柔らかな表情になって

「それはありがとうございます。昨日着いて、今朝赤ちゃんが生まれた方がいるのよ。これ、お渡ししますね。ありがとうございます。同じママ同士だものね」
たくさんのおしりふきを快く受け取ってくださった。

ベビーカーの長男は「なんのこっちゃ」という感じだったけれど、渡せてよかったという満足感と、お母さんと赤ちゃんの健康を祈りながら帰った。





おだんごさんのnoteを読んで、長男のコップと3.11の時の自分を鮮明に思い出しました。不安で不安で、東京にいる私がこんなで、被災された方々は今どんな思いでいるだろうかと、小さな長男を抱きしめていました。

おだんごさん、ありがとうございます。おだんごさんがnoteの世界に(スナックにも、リアル世界にも!)居てくださると思うと、私はそれだけでとても安心します。


レシーブ緒方さん、コメント欄でよくご一緒していましたので、初めまして感がまったくないのです(笑)

レシーブ緒方さんのnoteはたびたび読ませていただいていて、この支援も、何かしたい、でも私ができるか、…とうずうずしていた背中を、おだんごさんのnoteに押してもらえました。

仲の良い2才上のお兄さまがいらっしゃるとのこと、うらやましい!!!我が家の朝から晩まで喧嘩してる兄弟、どうしたものか……いつかはおふたりのように仲良しになって欲しいものです。
















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