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伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」感想(ネタバレ含む)



はじめに~

 本日ご紹介するのは伊坂幸太郎著「夜の国のクーパー」である。本作は伊坂氏の小説の中でも最も本格ミステリー度が高いとの触れ込みから、本格ミステリーファンである私は大変興味を惹かれ、手に取った作品である。


以下、ネタバレを含みます。
未読の方はご注意下さい。




~あらすじ~

 見知らぬ土地で目覚めた主人公。縛られて身動きが取れない彼の上には一匹の猫がいた。そしてその猫が突如「ちょっと話を聞いて欲しいんだけど」と話し出す。猫が話すのは猫が住んでいる国の話。話を聞きながら主人公は様々な考えを巡らせる。






~おもしろいポイント~


①自国と敵国、猫と鼠

 本作では戦争で負けたある国に、勝った敵国の兵が占領軍としてやってくるところから始まる。その後起こる様々な事件を、猫が見聞きし、その内容を主人公に語っていくのである(主人公はなぜか猫の言葉が分かった)。

 一方人間同士の衝突の裏で、もう一つの衝突が起こる。猫と鼠の衝突である。猫は本能的に鼠を見かけると追いかけたくなるが、鼠はその事を占領軍と共に外から来た鼠の言葉によって初めて疑問に思い、猫との対話を試みるのである。猫は鼠が、鼠は猫が自分の言葉を理解するとは思っておらず、猫は鼠を襲うことを虫を潰す程度にしか思っておらず、鼠は猫に襲われることを天災のような仕方のないこととしか捉えていなかったが、言葉が通じることが分かったことで状況が一変する。鼠は猫に対して、襲わないことを約束してほしいと言うが、猫は本能だから難しいと説明。すると鼠は猫の代わりに猫ができないことをするので襲わないで欲しいと言いだし、それも難しいというと最後には、決まった数の鼠を猫に捧げるので他の鼠は襲わないで欲しいと言い出す。こういったやり取りが、人間同士のやり取りの間に挟まれるのだが、実はこの猫と鼠のやり取りが、人間同士のやり取りとのリンクしており、話を聞いている主人公や読者は猫と鼠のやり取りを通して人間同士のやり取りを類推していくこととなる。



②自分の頭で考えて行動しろ

 猫が住んでいた国では、10年前まで毎年数人が「クーパーの討伐」に向かっていた。クーパーとは杉の怪物で、毎年一本の杉が怪物となり、放置しておくと街を襲うため、討伐対を送り込んでいるとのことだ。クーパーを討伐した戦士達は、クーパーの返り血のような物を浴びることで透明になってしまい、街には帰ってこない。というのがこの国の国民全てが信じている話で、この国の王が国民にそう説明していた。

 しかしその実は、この猫の住んでいた国は100年前に既に敵国に負けており、毎年奴隷として数人を献上していたというのが真相だ。国王はそれを隠し、国の外にクーパーという敵を作り、それから国民を守ってやっているということで威厳を守っていたのである。しかし10年前に「ある事情」からクーパー討伐は終了し、困った国王は新たな敵として敵国と戦争を開始したと言い出したのである。

 国民は国王の言うことを信じ切っており、自分の頭で考えて行動することを放棄しまっていた。しかしそこに敵国の占領軍がやってくる。この占領軍の正体こそがこの小説最大のどんでん返しなのであるが、その正体を明かすネタ明かしの場面でも、登場人物は繰り返し「自分の頭で考えて判断しろ」と言う。松浦正人氏のあとがきにもあるが、これは今後この国の将来を考えての「命がけの啓蒙」であり、同時に読者に対しても先入観を捨て、自分の頭で考えることの重要性を説いているようにも思われる。





~最後に~

 本作は、猫目線で物語が語られることや最後のどんでん返しに目が行きがちで、もちろんそれらも本作の魅力の一つではあるが、個人的にはそれ以上に、自分の頭で考えることの重要性を分かりやすく面白く、伊坂氏が解いているように感じた。物語、ミステリー、啓蒙書など様々な側面を持った作品だと思うので、ぜひ一度読んでみていただきたい。


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