魔術

小説家志望がすすめる青空文庫の面白い作品 その1 芥川龍之介「魔術」

今すぐ青空文庫で読める、ぜひ一読して欲しい小説を紹介する。初回は芥川龍之介「魔術」。


芥川龍之介と言えば、高校生なら教科書に載っている「羅生門」あたりが、真っ先に思い浮かぶかもしれない。小学生や中学生なら、青い鳥文庫等に収録されている「蜘蛛の糸」だろうか。

学校や教育関係者が推奨する作品は、芥川龍之介に限らず、どうも面白くない。いや、本来は面白い場合でも、そこに国語としての解や、道徳的な意味付けを求めさせるために、結局つまらない思いをするのだろう。

ここでは、国語の文章題のような答えを探すことが目的ではない。教科書に載るような、真面目くさった話を書いている人も、結構面白い作品を書いているんだな、と理解していただけるような作品を紹介していく。


前置きが長くなったが、今回は芥川龍之介「魔術」を紹介する。

あらすじは、物語の語り手である私が、ある晩に若手の魔術師マティラム・ミスラ君に会いに行く。魔術を使う場面を見た私は、ミスラ君に教えてもらうことになるが、ある条件を提示される……というものだ。この作品の推しポイントは3つ。

推しポイント1:最初の雨が降る夜の描写が秀逸!

 「ハリーポッター」シリーズや「シャーロックホームズ」シリーズなどイギリス人作家の描く、湿気を多く含んだ夜の空気が好きなら、冒頭から絶対にワクワクすること請け合い。まだ何も起きてないのに、絶対に何かが始まる予感がしてならない、そのような気持ちにさせてくれる冒頭だ。

推したいポイント2:ミスラ君が使う幻想的な魔術!

 派手な魔法は出ないものの、逆に静かでちょっと頑張ったらできそうな魔法は、むしろリアリティがあって心が惹かれるはず。特に、本が羽ばたいて書棚に戻っていく魔法は、多分本好きや部屋の片づけが上手くいかない人なら、憧れたことがあるのでは。

推したいポイント3:魔術の始まりと終わりの瞬間に刮目せよ!

 実はよくよく読むと、ミスラ君が使ったある魔法は、始まりがはっきりと描かれている。加えて、魔法を解く瞬間も、きちんと台詞で明らかに示してある。ぜひ、読んで魔術の始まりと終わりの部分を確認して欲しい。


読後、この作品オチに何か、意味付けをしたくなる人もいるだろうが、冒頭に述べた通り、国語的な答えを求めるための読書として案内していない。多分それは、ケーキの周囲についているラップと同等ではないだろうか。ぜひ、思い思いに楽しまれて欲しい。

皆様の読書が、より豊かなものとなりますように。


〈絵と文 足羽椋子〉


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