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国語の教員免許&司書資格保持者が伝えたい!! 読書感想文攻略法

 世の学生は、読書感想文に悩まされる時期になったらしい。毎年書いたものの、何のためにやっているのか良く分からないまま大人になった、という人も居るのではないだろうか。少なくとも、私自身はそうだ。ただ、中学と高校の国語の教員免許を持っているから言う訳ではないが、何をしたらそれなりの物になるのかは、ある程度理解しているつもりだ。今回は「国語の教員免許&司書資格保持者が伝えたい!! 読書感想文攻略法」と題して、読書感想文に相応しいと私が思う作品である坂口安吾「アンゴウ」を紹介する。

 まずは、あらすじを説明する。戦争から帰ってきた主人公は古本屋に立ち寄った際に、戦死した知り合いの本を発見した。ページをめくると、何やら暗号のような数字が列挙された紙が挟んであり、解読すると「いつもの所で待っています」となる。誰かとの連絡に使っていることが分かったが、問題はその暗号が書かれた紙は主人公が使っているメモ用紙と全く同じだったということだ。主人公は妻が知り合いと密かに会っていたのではないか、と疑念を持ち始める。

 今回の推しポイントは、読書感想文に使ってもらえば、という意図から選んだ。

・ミステリーで読みやすい!
主人公が真相を追求する話なので、小説の進む方向性が分かりやすい。普段から読書をする人もしない人も、物語の中に入りやすい作りと言えるだろう。時代背景としては現代ではないが、話の内容を追う点で予備知識が絶対的に必要なタイプでないのも、ミステリーとして読みよい点だ。

・程よい長さの短編で読みやすい!
文庫本で大体23ページ程の長さとなっており、諸般の事情から長編を読みたくない人にもおすすめだ。また、短すぎるという印象を受ける長さではないため、読書感想文を書くにあたって「どの部分を書いたらいいか分からない」という問題にもならないと推測する。

・オチと含蓄の塩梅が絶妙で読みやすい!
推理要素があるため、分かりやすい答えが存在する。物語の中で迷子になることなく、オチまで到着できるのは有難い。更に、ジャンルとしては純文学ではなく大衆文学に分類されると思うが、作者の坂口安吾と言えば純文学も書いている文豪だ。明確なオチと、読者に委ねるような純文学らしい含蓄のバランスが丁度良い仕上がりとなっている。

 普段の青空文庫の記事であれば、ここでまとめに入るのだが、今回はまだ続く。いや、本題はここからと言ってもいい。読書感想文の鍵は、いかに我田引水ができるかにかかっている。本の内容から「私の場合は~」と無理なく繋げられたら、文章に厚みが出る上に原稿用紙も埋まるので、もう勝ったと思っていい。しかし、自分の経験をいかにして引き出して小説の内容と連結するのは結構難しい。下に、ヒントになりそうな要素を5つ列挙してみた。必ずこの中から選ぶ必要はないものの、書いても良いと思えるテーマがあれば、ぜひ使ってみて欲しい。また、分量は校種や学年でも違っているとは思うが、同一のテーマで2~3個の経験が思いつけば丁度良い分量になるだろう。もし同じ内容で2~3個が厳しいようなら、テーマを2つ決めて、各1~2個のエピソードを展開する方法も良いかもしれない。

・裏切り
(例:約束の時間に来ない友人、内緒にしてって言ったのにバラした弟、など)
・立ち位置
(例:座っていると必ず膝にやってくる飼い猫、電車はドア付近が落ち着く、など)
・戦争
(例:親族から聴いた戦争の話、最近の世界情勢で思うこと、など)
・本への書き込みやメモを挟むこと
(例:古本屋で買った本に書き込みがあってイラッとした、借りた教科書にメモを付けて返した、など)
・古書、あるいはリサイクル
(例:ブックオフは安くて便利でよく使う、フリマアプリを使った経験、など)

 まず、流れとしては下記のようになる。まとめの部分は、実際の経験と小説の内容を上手く繋げていくことがポイントになる。最後は、ざっくりとした結論や総括のようなもので良いだろう。

更に、上記のテーマから仮に「裏切り」を選んで書いた場合の例を下記の図で表してみた。

 次に図を文章に展開してみると、下記になる。参考になれば嬉しい。


 最後に、原稿用紙5枚以内を想定して中高生になりきって書いてみた。分量としては、4枚と12行分になった。文章の性質上、ネタバレをしているので小説を未読の方は注意して欲しい。

 知人からの紹介で、坂口安吾「アンゴウ」を読んだ。普段あまり読まない小説家の作品だったが、ミステリーで面白そうだったので読むことにしたのだ。
 あらすじとしては、第二次世界大戦から戻ってきた主人公が、古本屋に立ち寄る。店頭である本を手にすると知人の本で、中には自分が愛用しているメモ用紙が挟んであった。紙には暗号のような数字がいくつも書かれており、主人公が解読すると「いつもの所で待っています」となる。しかし、主人公自身は暗号を作った覚えはなく、他に作れる人間としては妻か戦死した子どもしかいない。妻が知人と浮気していたのではないか、と主人公が疑問を抱き始める、というものだ。
 個人的に印象に残ったのは、主人公が妻への疑念を深めていく場面だ。最初は、自分の愛用するメモ用紙だけが疑わしい物だった。しかし、出征する前はいつも主人公の左側で寄り添っていた妻が、左右どちらにも座るようになったことにふと気づく。妻が失明したせいで方向が分からないのだと思いながらも、主人公は戦死した知人が左利きだったことを思い出し、妻があいびきの際に知人の右側に座るようにしていた名残なのではないかと想像する。
私は結婚できる年ではないが、もしも大好きな相手が自分の知らない所で浮気をしていたら、非常にショックを受けると思う。ただ、私自身も裏切られたと感じた経験はある。それも、家族である弟に、だ。
 去年のお盆に、親戚から高級プリンをもらったときのことだ。一人一つのそれを、私は大事に冷蔵庫に入れていた。しかし、ある日チェックするとプリンが無くなっていたのだ。母や父に確認したが、食べていないということで、弟にも確認した。口では両親と同じように「食べていない」と主張していたが、手には洗い立てのスプーンを持っていたのを覚えている。
 弟は結構調子の良い部分があり、内緒にしておいて欲しいと頼んだことも、口を滑らせることがある。先日も、母に内緒で買った洋服のことを勝手に話されてしまった。無駄遣いだと母に怒られるかもしれない、と緊張したが、幸いにして似合っていると褒められた。ただ、弟に告げ口されたことに対しては、もやもやとした気分になったのも事実だ。
 更に、弟が去年のマラソン大会に出場しなかった。風邪で高熱が出た以上仕方がないのだが、マラソンが大嫌いでも元気な以上走る義務がある私としては、非常に羨ましい限りだった。もちろん最後まで私は完走したものの、走らないで暖かい家の中に居た弟に対してずるいと感じた。今年の大会ではそういったことが無いように、私も弟の体調には目を光らせるつもりだ。
 「アンゴウ」に話を戻すと、主人公も物語の途中では決定的な証拠を掴んではいないが、妻に対して裏切られたのではないか、という考えがぐるぐるしていたはずだ。私はプリンのときのように弟が怪しいと思ったらすぐに尋ねるが、この主人公はそれをしない。もどかしいと思う反面、それだけ妻のことを信頼したいという気持ちがあるのだと思う。
また、私の洋服を告げ口した弟のように明白な証拠がなかったのも、主人公の行動に影響を与えたのだと推測する。ミステリーでよくあるように、揺るがない物を見せたら、犯人は逃げられないからだ。
 ただ、私がマラソン大会のときに弟に対して勝手に裏切られたと感じたように、相手が意図していなくても自分が傷ついてしまう場合もある。今回の「アンゴウ」では浮気を疑っている以上、妻が無意識に罪を犯していた、という事態はあり得ない。しかし、もしかすると全て自分の勘違い、という可能性も主人公の中で過っていた結果、妻に尋ねられなかったのかもしれない。
 結果的に、主人公の妻は何も悪くなかった。妻を問い詰めなかった主人公の行動は、今後の生活を考えたら正しかったのだ。私は少しホッとしたが、その一方でちょっと主人公に裏切られたような気がした。
 今後は私も、主人公のように確固たる証拠が見つかるまで、弟を問い詰めるのは辞めた方がいいのかもしれない。しかし、家族が円満に暮らすためとは言え、私の性格上それは厳しい気もする。多分、家族の形は家族の数だけ存在していいはずだ。主人公の行動は胸に刻みつつも、私は私としてこれからも家族に接そうと思う。

 私のnoteを読んでくださっている方の大半は、既に読書感想文の提出義務がないと推測する。ただ、家族や知り合いでもし悩んでいる人が居て、もしこの記事が参考になると思ってくださる人がいたら、ぜひシェアしていただけると幸いだ。


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