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コントラクト・ライフサイクル・マネジメント(CLM)導入に関する検討事項

(文責:横山雄平、西尾暢之)

1.はじめに

リーガルテックという言葉は日本でも定着し、法務機能の効率化や実効化のためにテクノロジーを用いることの重要性は広く認識されています。
在宅勤務が必要となったコロナ禍において、署名・押印のためだけに出社しなければならないという状況を回避するため、特に電子サインを活用する企業が増えました。しかし、署名・押印を電子化するだけでは法務機能のDXは十分ではありません。また、電子サインによって契約締結が電子化されたことに伴い、電子契約をいかに管理していくかという検討が必要となりました。

そこで、今後特に重要となるコントラクト・ライフサイクル・マネジメント(Contract Lifecycle Management。以下「CLM」といいます。)について、その意義を確認したうえで、CLMツール導入において検討すべき事項について説明します。

2.CLMとは

CLMは、定まった定義はありませんが、一般的に契約の発生から消滅までの全プロセスにおいて契約を管理することをいいます。

CLMの主な目的は、契約管理の効率化、過去の知見の活用及び契約に関するデータの把握などが挙げられます。そのため、CLMは、一義的には契約に関する実務を担当している部署やチームなどに業務の効率化という恩恵をもたらすことになります。他方、CLMによって契約に関するデータを把握することができるため、ビジネス、マネジメントにとってもCLMは重要です。

CLMツールの主な機能としては、契約ひな形の管理、契約締結時の承認、契約の期間管理(契約期間満了日が近づくと通知が届く)などがある他、契約に基づく請求業務や顧客管理等と連携することで、契約を中心とした様々な業務を一括管理できる可能性を秘めています。

3.CLM導入時の検討事項

CLM導入時には大きく4つのフェーズに分けて検討していくことが必要となります。

⑴ 前提となる目的・課題の特定

何のためにCLMを導入するのかという目的や解決すべき課題を特定することが何よりも重要であるため、最初に検討しておく必要があります。目的・課題が明確になっていない場合には、多くのステークホルダーと協議を行う際の指針がないため、結果として必要な機能を搭載していないツールを導入することになったり、必要以上に手続が複雑となるなどの結果を招く可能性があります。

目的や課題を特定するためには、現状の業務フローの理解・特定が出発点となります。どのような部署が、どのような契約を締結し、どのように締結済みの契約が保存されているか、業務に利用しているツール等を含め具体的に明らかにしていく必要があります。

その後、把握した現状の業務フローをもとに、改善すべき点・課題がないかという検証を、様々な部署へのヒアリングなどを通じて実施していく必要があります。

⑵ 目的・課題のために必要となるソリューションの特定

次に、フェーズ(1)で特定した目的・課題に対して、どのようなソリューションがあれば解決できるかという点を検討していく必要があります。例えば、事業部ごとに契約を締結しており、誰も統一的に契約を把握できない点が課題という場合、各部署が締結する契約すべてを一定の責任者が管理できる形で電子的に保存することがソリューションとなり得ます。

ソリューションの特定に関連して、実務上よく問題となる点は、電子契約と書面の契約が併存している状況で、両者をいかに統一的に管理していくかという点があります。大量の紙の契約書があり、これらすべてを電子的に管理していきたいと考える場合には、過去の書面をいかに電子システムに載せるかという点を検討する必要があります。検討に際しては、電子帳簿保存法や個人情報保護法といった法令の検討も必要となります(海外拠点も含めて管理を行うことを検討する場合には、海外法令についても検討することが必要となります。)。

⑶ ベンダーの選定

必要なソリューションを特定したのちに、そのソリューションを提供している最適なベンダーを選定することとなります。なお、自社でCLMツールを構築することも考えられますが、通常の企業では外部のベンダーを利用することがよりよい選択肢となるため、ここでは外部ベンダーの選定について説明します。

まずは、各ベンダーの機能を比較し、必要な機能を備えているベンダーを特定する必要があります。

さらに、料金、セキュリティ、他の社内システム(請求関係など)との連携可能性があるかといった観点からの検証も必要です。また、現在のリーガルテック企業は様々な機能開発を行っているところが多いため、将来導入予定の機能の拡張可能性なども確認しておくことが肝要です。

⑷ 実装段階の対応

最後に、実装段階で対応が必要となります。

CLMツールの導入についてはIT部門と協力して実装していくことが一般的と考えられます。この場合、何をIT部門がリードし、何を法務担当がリードするのかといった役割を明確にしておく必要があります。

また、いきなり全社的にCLM利用を開始することは難しいため、一定の部門などに限ってスタートすることが一般的です。その場合に、どこの部署・どのような契約類型でスタートするか、その後どのように拡大していくかという計画を立てる必要があり、さらに、その計画を踏まえて当該部署と協議する必要があります。協議の際には全体の計画などをまとめた資料を準備しておくとより議論がスムーズになり、また、他の部署への説明が効率的に実施可能となります。

最後に、実際に導入する際には研修の実施や、マニュアル・FAQといった説明資料の準備が必要となります。

なお、CLMを導入した後であっても、フェーズ(1)で特定した目的のために適切なソリューション・ベンダーであるかという点や、マニュアル・FAQは適切かという点などについて定期的に見直していく必要があります。

4.最後に ~CLM導入時の人的リソース~

CLMは本来業務の効率化を目指すもので、すべての人に有益であると考えられます。しかし、実際には、CLMの導入により業務が変わることなどを理由としてネガティブな印象を持つ方も少なくないと思われ、社内での調整などのために多くの作業が発生することがあります。

また、契約審査や新規ビジネスの適法性検証といった法務部の中核的な業務における思考過程と、CLM導入時に必要となる法務機能のデザインに関する思考過程は大きく異なるものであるため、前者の中核的業務を担いながら、CLM導入に関するプロジェクトをリードすることは非常に困難な作業となります。

そのため、前者の中核的業務を担当するチームと、CLM導入を検討するチームとを分けることが理想的ですが、現実問題として、法務部に十分な人数が揃っていないと悩む法務担当者も多いと思われます。

そのような場合には、外部の専門家をうまく活用することが重要です。外部の専門家にCLM導入の論点整理をサポートしてもらうことで、他社事例を踏まえた知見を得ることができ、また、一定の業務についてアウトソースすることができます。AsiaWiseでは法務機能のDXに関する知見・経験を有しており、最初に意見交換の場を設けることも可能ですので、お気軽にご連絡ください。

以上


執筆者

横山 雄平
AsiaWise Legal Japan アソシエイト
弁護士(日本)
<Career Summary>
2012年慶應義塾大学法学部法律学科、2015年同大学法科大学院を卒業、同年司法試験合格。2018年から1年間インドのコンサルティング・ファームであるCorporate Catalyst India (CCI)にて勤務した後、AsiaWise法律事務所入所。
<Contact>
yuhei.yokoyama@asiawise.legal

西尾 暢之
AsiaWise Legal Japan アソシエイト
弁護士(日本)
<Career Summary>
2013年岡山大学法学部卒業、2015年京都大学大学院法学研究科を卒業、同年司法試験合格。2017年弁護士登録。都内税理士法人及び法律事務所での執務経験を経て、2021年AsiaWise法律事務所入所。
<Contact>
nobuyuki.nishio@asiawise.legal


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