あなたならどう直す? 語学書の校正例
編集者の仕事のひとつ、「校正・校閲」。
誤字・脱字や表記ゆれのチェックを行うだけでなく、内容に関する事実確認や不適切な言葉が使われていないかの確認、間違いではないけれどよりわかりやすい表現にするための提案など、実際の校正の仕事は多岐にわたります。
著者から原稿をもらった段階でもチェックはしますし、校正刷りの段階でも何度も見直します。
今日は、私が作業している英語学習書の原稿からいくつかの例を紹介します。
みなさんも、どこを直すべきなのかを考えてみてください。
(実際に修正したポイントはそのままに、それ以外の情報は少し改変して記載しています。)
* * * * *
第1問
まずは元の原稿を見て、どこをどう直すべきかを考えてみましょう。
これは簡単かもしれません。
「対策」を辞書で引くと、「相手や事件に対してとる方策」と載っています。つまり、上記の例文では「~に対して」の意味が重複しています。「対」という漢字が2回出てきていることからも、わかりやすい例ですね。
そこで、こんな風に直してみました。
「頭痛が痛い」に代表される重言は、日常でも意外とたくさん目にします。熟語の意味をしっかり考えることが大事です。
* * * * *
第2問
次はこちら。英単語deteriorate「悪化する、~を悪化させる」の語源を解説している文です。
ラテン語はわからなくても問題ありません(私もわかりません!)。
気付くためのヒントはdeteriorの語尾-iorの部分にあります。-iorが語尾に付く英単語として、senior、junior、superiorなどがありますね。これらの単語に共通することは、比較の対象があることです。
このことから、deteriorの意味は比較のworseのみではないかと考え、badが適切かどうかを疑問視します。語源辞典を調べてみましょう。
予想通りdeteriorは比較の意味で、原級(bad)の意味を持つのはdeterという語であることがわかりました。
以上のことから、deteriorateの解説は以下のように修正しました。
ここで大事なのはラテン語を知っていることではなく、すべてに対して疑いの目を向け、「あれ?」と思えるアンテナをたくさん張っておくことです。そこに引っ掛かりさえすれば、あとは好きなだけ調べればいいのです。
* * * * *
第3問
次も英単語に関する解説からです。
TOEICを受験したことがある人ならご存知かと思いますが、パッセージで出てきた単語が、設問ではより大きなカテゴリーを示す単語に言い換えられることがあります。vehicleの他にもcopy paper → office suppliesやtable → furnitureなどの言い換えが頻出です。
さて、上記の文ではvehicleがcarやbicycle、bus、truckの総称だと書かれていますね。では、vehicleを辞書で調べてみましょう。
LDOCEの定義によると、エンジンがないのでbicycleはvehicleではないことになりそうですね。Oxfordの定義を見ると、エンジンについては触れられていないものの、such as以下にbicycleは含まれていません。
どうやらbicycleはvehicleの例から外しておいた方が無難なようです。
ということで、以下のように修正しました。
ちなみにこの後、TOEICの過去問を使ってbicycle → vehicleの言い換えを探してみましたが、見つかりませんでした。
* * * * *
第4問
最後です。
これは間違いとは言えませんが、私は直した方がいいと思いました。
外国の地名をカタカナで表記するのは、とても難しいですよね。今回はイタリアの地名が2つ登場します。
結論から言ってしまいましょう、以下のように修正しました。
そう、「ミラノ」を「ミラン」に修正しました。「何が違うの?」って思いますよね。
ミラノはイタリア語表記のMilanoをカタカナにした表記で、ミランは英語表記のMilanをカタカナにした表記です。
本田圭佑や長谷川唯が所属していたサッカーチームのACミランはAC Milanで「ン」ですから、「ミラン」という音や表記になじみのある人も多いと思います。(ACミランはチームのルーツがイングランドにあるので、その影響で英語表記のMilanになったそうですが… 詳しい方いたら教えてください。)
ちょっと脱線しましたが、Veniceはイタリア語だとVeneziaで、これをカタカナにすると「ベネチア/ヴェネツィア」となります。
つまり、英語読みに近い「ミラン・ベニス」か、イタリア語読みに近い「ミラノ・ベネチア」のどちらかに揃えるべきだと思ったのです。
この場合は例文が英語ですから、音が近い「ミラン・ベニス」で統一することにしました。
似たような事例として、Vincent Van Goghを「フィンセント・ファン・ゴッホ」と書くか「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ」とするかなどがありますね。
* * * * *
以上、4つの例をご紹介しましたが、いくつわかりましたか? すべての本は、このような内容の検討を経て出版されています。
ことばについてもっと知りたい人には、毎日新聞 校閲センターのTwitterがおすすめです! 校正例だけでなく、ことばの使い方や漢字の読み方など、勉強になるツイートが盛りだくさんです。
今後も、noteの記事では出版社っぽいコンテンツを発信していきたいと思っていますので、ぜひフォローしてください!!
* * * * *
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?