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[FC岐阜 3-0 ガイナーレ鳥取]の試合を終えて

1はじめに

岐阜県の岐阜メモリアルセンター長良川競技場で行われたFC岐阜とガイナーレ鳥取の一戦は、岐阜が3-0で快勝を収め、待ちに待った今季初の連勝を飾ることができた。最後の連勝は、2021年6月6日の福島ユナイテッド(○2-0)、12日テゲバジャーロ宮崎(○3-1)だったため、およそ11ヶ月ぶりの連勝となった。三浦俊也前監督から横山雄次監督になり、プレスに行く守備とゾーンで守る守備陣形がしっかりオーガナイズされ、まだまだ発展途上ではあるが、相手に良い形でシュートを打たれないような守り方ができるようになってきている。攻撃面では、三浦監督時代の良い状態を保ちながら、攻撃の人数を増やしてきたことで、厚みある攻撃もできている。横山監督の目指す「全員守備から全員攻撃」のスタイル構築に向けて、攻め込まれながらも2試合連続完封で連勝できたことは、大きな収穫と言える。 

スターティングメンバーについて
[両チームのスターティングメンバー]

岐阜は前節からフィールドプレーヤーを全員変更する大胆な采配をしてきた。システムもこれまでの4バックから変更し、流動的な3バックスタイルを採用。最初の設定は3-4-1-2のような形にしてきた。GKは前節同様松本拓也。3バックの右にヘニキ、左に小山新、中央に服部康平が並んだ。中盤ボランチに庄司悦大と今季リーグ戦初先発の大西遼太郎が入った。ウィングバックの右に菊池大介、左に宇賀神友弥。トップ下に吉濱遼平が入り、2トップには、ンドカ・チャールスと田中順也が起用された。中2日ということもあり、大胆なターンオーバーを採用したのには、選手の疲労面もあるが、もう一つ、横山監督になり、これまでのスタメン組、ベンチ組、ベンチ外組関係なく、一度フラットな状態でまた競争を促すことも考えてのことだろう。この連勝で、チーム全体として底上げできただろう。
 
一方の鳥取は、4-4-2のシステムを採用。GKには田尻健。4バックの右に丸山壮大、左に石田侑資。ボランチに世瀬啓人と新井泰貴。サイドハーフの右に知久航介、左に小澤秀充。2トップは石川大地と澤上竜二。これまで全試合で先発出場だった田口裕也がベンチスタートとなり、大久保優がベンチ外。鳥取の誇る2トップを変更してきた。代わりに、澤上竜二が初先発で起用された。

データから試合を振り返る
[鳥取戦の主なスタッツ]

上表は、この試合の主なスタッツ比較。シュート数は鳥取の8本に対し、岐阜は17本。枠内に6本飛ばし、うち3つがゴールにつながった。パス数は鳥取が479本で60本ほど岐阜を上回った。それに乗じて、ボール支配率も鳥取が51.5%で岐阜を上回っている。横山体制になって1つこれまでと大きく変わり始めているのが、クロス数。この試合は21本記録した。30m進入回数は岐阜が31回、うち13回はペナルティーエリアまで進入することができた。チャンス構築率は13.5%で、上々の数値を記録できた。

[前半のボール支配率、プレースタイル]

上図は15分ごとのボール支配率、シュート数、プレースタイルを表したものである。まずは前半を比較すると、お互いがボールを握りながら、岐阜の方がややシュートにつながった回数が多い前半だった。岐阜はこの試合メンバーもシステムもガラッと変わったので、前半はスロースタートで始まり、攻撃の形を明確にしていった。そして30分過ぎから徐々に相手ゴールに迫り、最後はンドカが移籍後初ゴールをあげた。 

[前半ホットゾーン]

上図は前半のプレーエリアの割合を示すホットゾーン。両チームともに中央からサイドにかけて色が濃くなっている。岐阜はサイドで少し色のつき方に違いがある。右サイドでは、サイド中盤から低い位置でボールをコントロールし、そこから中央にパス、あるいは、サイド深い位置に入り込むスタイルだった。左サイドでは、右サイドのようにサイドに張りすぎず、ウィングバックの宇賀神がより中央の高い位置をキープしながら、3バックの左に入っていた小山が宇賀神の裏をケアする形をとった。

[後半のボール支配率、プレースタイル]

後半は、相手にボールを握られるながらも、より攻撃的に仕掛けた。前半に比べて、後半はシュート数が増え、後半だけで11本のシュートを放った。後半早い時間帯に2点目をとったことで、試合を優位に進めた。75分過ぎから徐々に鳥取が攻勢を強め、4本のシュートを放ったが、80分台に岐阜が3点目を決めて、試合が決着した。 

[後半ホットゾーン]

後半のホットゾーンを比較すると、岐阜は両サイドにおいて、相手陣内深い位置でプレーすることができ、試合全体を見てみれば、かなり理想的な後半の戦いとなった。これまでこのホットゾーンで色が濃く出ていた中央のエリアよりも、サイドで色が濃く出ているあたりに、横山監督のスタイルが見られ始めている。この後の戦術面で詳しく語るが、後半は全体的に高い位置をキープしたため、その裏のスペースを突かれる場面があった。その辺りがこれからの修正ポイントであるといえる。 

戦術面から試合を振り返る

2日前の相模原戦から比べ、チームとしての横山カラーが少しずつ表れ始めた試合となった。戦力的な差があったとはいえ、しっかりと攻守のバランスが整っていて、さらに、スタメンで言うと、2試合で20人起用されたことは、チーム全体としての成熟度が短期間で高めることができた2連戦になっただろう。攻撃面、守備面それぞれにおいて、収穫と課題があった。

[鳥取戦 攻撃時の形]

【攻撃面】
かなり流動的に全員がポジションを変えながら、攻撃と守備を行なっていた。攻撃面でいうと、3バックから宇賀神が少し降りてきて4バックのような形を取り、右サイドの菊池がよりサイドに張り付くようなポジションをとった。前線では、2トップの一角のンドカが、宇賀神が下がったサイドのスペースを埋める動きと、裏に抜け出す動きを併用した。一方の田中は、少し低い位置に下がり、ポストプレーで全体の押し上げに貢献。サイド深い位置に入り込んだ時には、中央でポジショニングをとり、クロスに対してしっかり準備していた。宇賀神は低い位置をとることもあったが、右サイドで組み立てて全体が右に寄った時には、左サイド高い位置をとり、素早く展開して、フリーでボールを受け、シュートまで持ち込むなど、サイド幅広く攻撃を作り出すことができていた。
 
この試合でこれまでと大きく異なると感じたことが1つある。前半25分過ぎあたりから3バックのヘニキと大西がポジションを入れ替えたことだ。大西が最終ラインに下がったことで、ボール回しに落ち着きが生まれ、ヘニキが1列前に入ったことで、前線からのプレスの強度が増した。この辺りが特徴的だが、横山監督になって試合中に細かい修正を行うようになった。この大西とヘニキのポジションチェンジはハーフタイムで整理して後半から行うのと、前半の試合中に修正するのでは、それ以降の戦い方に大きく違いが生まれる。必ずしもそれが正解につながるとはいえないが、この試合に関しては、素晴らしい判断だったといえる。

[後半14分のゴールシーン]

上図は、2点目の得点シーンを表したアニメーションである。この2点目は守備からの攻撃の切り替え、前線からの守備、ペナルティーエリア内でのオフザボールの動きなど、色々な素晴らしい要素が組み合わさった得点だった。まず、鳥取の新井が最終ラインに下がり、中央で組み立てに参加。ここでしっかり岐阜が鳥取の前線の選手をケアしたことで、ボールの出し所に悩む時間が生まれ、徐々に岐阜のラインが上がった。サイドを封じたことで、中央の清永に縦パスを供給したが、それも岐阜の狙い通りだったのだろう。清永にボールが入るタイミングで、藤岡・吉濱・庄司で3方向を封じ、パスミスを誘発。大西とのポジションチェンジで中盤に入っていたヘニキが高い位置でボールカット。ここから守備から一気に攻撃のスイッチを入れ、左サイド藤岡へ展開。プレスに向かった庄司がそのまま攻撃参加。このことで一時鳥取守備3人に対して、4人がゴール前に迫る構図となった。そして藤岡のキープから逆サイドでンドカが低い位置で受けに回ったところにパス。左から右に動かしたことで、鳥取守備を揺さぶった。そこからンドカが中央人数の多いエリアにスルーパス。混戦のエリアを抜けて、再びボールは藤岡へ。1人交わして放ったシュートは、前線から懸命に守備に戻った鳥取の魚里がクリアするも、ゴールが認められた。
 
この全体が連動した動きによるゴールは素晴らしいが、特に賞賛したいプレーヤーは、庄司の動きだ。まず鳥取の縦パスに対してチェックに庄司がしっかりチェックに向かったことで、ボール奪取に成功。さらにそこから攻撃参加すると、最前線にまで飛び出した。さらに右サイドに展開されたところで、スペースに入り込むオフザボールの動きによって、相手ディフェンスをしっかりひきつけ、藤岡への狭いパスコースを開くことができた。この得点において、パス・シュートなどに絡んでいないが、守備からの攻撃においてこの庄司の全ての動きがなければ、この得点は生まれていないかもしれないと感じるくらいに、素晴らしい動きだった。

【守備面】

[岐阜の守備時のシステム]

3バックを採用したため、守備時のシステムはやはり両ウィングバックが下がって5バックを構成した。中央にいた吉濱が右サイドに回り、ンドカが左サイドに回り、田中が1トップとして、鳥取の最終ラインにプレスをかけた。後半は、5-4-1の守り方に加え、鳥取が最終ラインでボールを回している時には、3-4-2-1のシステムを取り、両ウィングバックがサイドハーフをケアして、サイドに展開させないようなチェックをすることで、鳥取の最終ラインが縦パスを供給させ、ボランチにボールが入ったところでシャドーとボランチで挟み込むディフェンスを行なった。これが2点目にもつながるなど、相手心理を揺さぶりながら、嵌め込む守備が効果的に働いた。

[鳥取戦 守備時の形]

鳥取の攻撃は両サイドハーフが中央にポジショニングし、その空いたスペースに両サイドバックが入り込み、深い位置からクロスを上げる形が多かった。前半では、左サイドハーフの小澤が中盤の辺りでプレーすることで菊池を引き出し、小澤を追い越すように石田がオーバーラップを仕掛けることで、石田が岐阜のゴールに迫ることが多かった。さらにそこからボールを奪われても早い切り替えからボールを前線で奪うこともあった。大西とヘニキのポジションチェンジの守備面での意味は、ここにあると感じる。サイド縦への突破と推進力がある石田に対して、スピードにより対処できるのは、大西と判断しただろう。攻守において、このポジションチェンジは大きな効果があった。

さいごに

攻守において、相模原戦と鳥取戦は多くの収穫が出た試合となった。3連敗を喫した上に、3試合9失点と昇格に向けて不安要素が露見した3試合となり、監督退任という結果を招いた。難しいタイミングでのスタッフ陣交代となり、この先どうなるかの解答がこの連戦に表れるだろうと見られていたが、2連勝・完封勝利という最高の結果で答えを出した。天皇杯岐阜県予選、天皇杯本戦も合わせると、公式戦4連勝中と良い状態にあるといえる。ただここからAC長野パルセイロ、ヴァンラーレ八戸戦を挟んで、鹿児島ユナイテッド、福島ユナイテッド、テゲバジャーロ宮崎、FC今治と上位陣との対戦が続く。オーガナイズされた攻守の動きに磨きをかけ、この激しい夏の上位陣との連戦を良い結果で終えたいところだ。

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