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高校2年 冬③ひとり旅

クリスマス公演の日。

足も怪我してたし、今回はまったく部活に顔を出さなかった僕は普通に観客として公演を観に来ていた。

後輩たちの作る舞台はオリジナルの脚本で、優しくて愛に溢れていた。

そして希望に溢れていた。

僕の作る舞台では出せない世界観。

彼らはしっかりと成長していて、いつまでも僕らの後輩のままではないのだと知った。

ロクな脚本がないからと舐めた舞台を披露していた一年生の頃の僕とはえらい違いだ。

こいつらの先輩であり続けるために、僕が見せられるのは最後の定期公演で終わる。

少し悔しくて、春の新入生歓迎公演ではぜひ僕を起用してくれと直談判した。

もう少しだけ、彼らと一緒の舞台をやりたい。


ややあって、年が明けた。

まぁまぁ足も回復してギプスも外れたし

お年玉をもらいお金に余裕ができた僕は、これまで毎日の支えになっていたオガに会いに行こうと思い立った。

オガは4月から東京に行ってしまう。

その前に、また会いたい。

とはいえオガの住んでる地域は僕の家から電車で3時間もかかる距離。

往復で6時間もかかることを考えると会ってる時間はほとんどない。

行き方を調べてみると、バスが出ている。

乗り換えのある電車よりも少しだけ早くいける。

往復で5,000円くらい。

高校生にはかなりの高額だ。

でも、どうしても行きたかった。

受験前の忙しい時だけど、オガは時間を作ってくれるとのこと。


この時街ではDA PUMPのifがめちゃくちゃ流行っていた。

CDを聴きながら片道2時間半ちょいのバスに乗る。

オガに会いに行くバスの中で気付いた。

僕は多分、オガに恋してしまってるかもしれない。

ぜーんぜんタイプとかでもないのに。

しかも、あやつ彼氏いるしなぁ。

てか、そもそもなんでわざわざオガに会いに行こうとしてるんだろう。

会いたいから?

考えてもそれしかなかったけど、なんとなく認めたくない自分がいて他の理由を探そうとした。

いや、ダメだ。

おれ、めちゃくちゃ好きだ。

バスの中、行き先が近づくにつれてどんどんその気持ちに気付いて会うのが恥ずかしくなる。

照れ隠しのように

「ラーメンうまいって聞いたから、来ちゃった」

と言いながら、オガと会った僕は多分顔が真っ赤だったと思う。

オガと合流して、県大会で来た市民会館や、二人が初めて会った(見ただけだけど)公園のステージ、オガの母校なんかを周ったりして、

たわいもない話やオガの将来の夢とかを聞いたりしながら時間を過ごした。

移動で5時間ちょい。一緒にいれたのは2時間ちょっと。

でも、とにかく幸せだった。

帰り際、オガに自分の気持ちを伝えた。

オガは"みっちーのこと好きだけど、彼氏がいるから気持ちには答えられない。"

と言いながらも頬にキスをしてくれた。

ずるい。

そんなんされたら諦めようがない。

でも、オガが東京に行くことは確定しているし、東京に行けば、元カノのようにきっとオガも俺のことは忘れてしまう。

そう思って、もう忘れようと思った。

帰りのバスの中は左の頬がずっと熱くて、長い移動時も眠れずにもんもんと過ごしてしまった。


冬休みが明けたら新歓公演に向けた練習が一気に始まる。

忘れないと。

そんな簡単に忘れられるほどできた人間じゃないけどね。

でも、忘れないと。


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