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メモ読) 気候カジノ_第Ⅳ部 気候変動の抑制 ー 政策と制度(前半)

第Ⅳ部 気候変動の抑制 ー 政策と制度

第17章 気候政策の変遷

  • 政府はどのようにして気候変動政策に対する妥当な温度目標を設定すれば良いのか。温室効果ガスの排出量をどの程度削減するか

  • 気候変動政策は、京都やコペンハーゲン、カンクンなどの環境サミットで採択された宣言と、どう結びつくのか

  • 気候変動問題への効率的取り組みは、すべての国々による政策協調を必要とするのか。どのような強制メカニズムがあれば、ただ乗りしようとする消極的な国々を巻き込むことができるのか

  • 国民や企業に必要な対策を講じさせるために、政府が取り得る手段とは、一体どのようなものか

  • 気候安定化への取り組みに欠かすことのできない低炭素技術の発明、イノベーション及び、利用を実現するにはどのような政策が必要なのか

本章では、
気候目標がどのようにして導き出されたのかを知る
温度目標が中心的役割を果たすようになった経緯を説明する

気候変動に関する国際協定

世界で初めて気候変動目標を謳った条文
1994年「気候変動に関する国際連合枠組条例」
「気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極の目的」としている
1997年「京都議定書」
気候システムへの危険な人為的干渉を回避する
「附属書I国」(高所得国と「市場経済への移行の過程」にある国々)のみに削減義務、その他の国は免除
2008〜2012年の約束期間に、二酸化炭素やその他温室効果ガスを1990年の水準から7%削減することで合意
2009年「コペンハーゲン合意」
世界全体の気温の上昇が摂氏2℃より下にとどまるべきであるとの科学的見解を認識
国際会議で温度目標が設定された初めてのケース
2009年7月 G8ラクイラ・サミット
「我々は産業化以前の水準から世界全体の平均気温の上昇が摂氏2℃を超えないようにすべきとの広範な科学的見解を認識する」と宣言

2℃目標の科学的根拠

科学的根拠は実はそれほど科学的ではない
政治家は科学者を、科学者は政治家を拠り所にしている
温度目標を正当化する3つの根拠

  1. 50万年間で地球が最も温暖だった時期の平均気温は今日より2℃ほど高い(それを超えるのは危険かもしれない)

    • 二酸化炭素が気候にもたらす影響は長期的気候変動の正常範囲内にとどめられるべき。多くの文献によると、異なる気候レジームの変動幅はプラスマイナス5℃ほどで、今日の地球の気候はこの変動幅の上限にいる。今日の平均気温を基準に、世界の気温が2℃または3℃以上上昇した場合、気候は過去数十万年間の測定値の範囲外に達することになる

    • 1995年 ドイツ連邦政府気候変動諮問委員会(WBGU)「受容可能な気温の窓」過去数十万年間における全球平均気温の変動幅に注目。今日の地球はこの変動幅の上限付近にいると推定。独断と偏見で、過去の変動幅の上限と下限を0.5℃ずつ拡大することを提案

  2. 2℃を上回ると、生態系が適応できなくなる可能性がある

    • 1℃…水不足の深刻化 /サンゴの白色化の増加/沿岸洪水の増加/両生類の絶滅の増加

    • 2℃…上記に加え、20〜30%の生物種で絶命リスクの増加/疾患による負担の増加

    • 3℃…上記に加え、穀物生産性の低下/氷床の消失による、数メートルの海面上昇の長期的な発生/医療制度への重大な負担

    • 5℃…上記に加えて、世界中で大規模な絶滅/穀物生産性の著しい減退/沿岸湿地の30%の消失/沿岸洪水や浸水の深刻化/世界の肝癌戦の変化/海洋循環の大規模な変化

  3. 2℃超の気温上昇は多くの危険な境界線を越えることにつながる

    • 最新の研究では、世界の気温上昇がひとたび3℃を超えると、次の100年ほどの間に数々の極めて重大な危険が生じる可能性があると指摘されている。こうした推定には大幅な誤差があるため、より厳しい温度目標を目指すことが賢明

それほどのコストを要さないのであれば、我々は間違いなく、気候変動や二酸化炭素濃度の上昇を最小限に食い止めるべきである
一方で、非常に野心的な温度目標を設定することが、食料、住居、教育、健康、安全などの犠牲を強いることになるのであれば、そのトレードオフは慎重に吟味すべき
現実的な気候変動目標を設定するには、気候変動対策の費用と、損失の回避がもたらす便益の両方を考える必要がある

第18章 気候政策と費用便益分析

費用便益分析の気候変動問題への適応

排出削減費用と気候変動による損害額を1つのグラフにし、温度目標ごとの排出削減費用、損害額、総費用を分析する
図表18−1 割引なし(費用と便益が同じ年に発生する他のように計算される)。政策の実施が100%効率的。国々による参加率が100%。排出削減費用が最小限となっている楽観的シナリオ
→ 気候変動政策が適切に策定されて100%効率的であり、かつ、現在と将来の費用が同じ価値を持つ場合、経済的観点から見た妥当な温度目標は2.3℃である。この時の総費用は世界の総所得の2.9%となる
図表18−2 割引なし。政策が今後の100年間で世界の総排出量の50%しかカバーしない(限定的参加)。より現実的なシナリオ
→ 2℃目標の達成は不可能。総費用が最小となる温度目標は3.8℃、総費用は世界総所得の3.8%。総費用のほとんどが損害額
図表18−3 割引あり(年4%)。総排出削減政策の実施から50年後に損害が発生。限定的参加
→ 費用が最小になる温度目標は4.0℃。要因は限定的参加。
図表なし 割引あり、全世界参加
→ 総費用が最小となる温度目標は2.8℃

  • 穏やかな温度目標では、損害額が増加する

  • 野心的な温度目標では、排出削減費用が増加する

  • 低参加率と非効率的な排出削減は、費用を増加させる

  • 割引は、損害額を減少させる

臨界点を含めた費用便益分析

図表18−4 割引あり、限定的参加。3.5℃で急上昇する簡略化された臨界点損傷関数を用いた。3.5℃の損害額を世界総所得の0.5%と仮定する
→ 3.5℃以上で、損害額曲線は急上昇する

費用便益分析(経済分析)に、臨界点、急激な気候変動、著しい不連続性、異常災害といった未知の特異事象を取り組むことは明らかに可能である

カジノにおける費用便益分析

気候カジノにおける損害額が不確かで、非線形性が強く、かつ急崖型の曲線を描く場合、費用便益は最悪の結果に保険をかけるべく、最適温度目標値を下げる傾向にある

気候変動問題に費用便益分析を用いることへの批判

「費用便益分析は気候変動に関する選択肢を比較するのに不向きだ」
「気候変動は大きな不確実性を抱えており、様々な現象が起きる可能性を確定させることはできない」
「費用を負担した人や世代が便益を受けるとは限らないし、今日の費用を遠い将来の便益と比較することは難しい」
「健康への影響に関わる選択を行う際に、人間の健康や生命を経済的価値で表すことは、倫理的に許されるのか」
人間が合理的な政策判断を下す上では必要な作業である
我々が人々から預かった資金に対して責任ある行動をとり、無意味な投資をしないようにするためには、イブンたちが買おうとしているものとその値札とを比較することが不可欠である

第19章 炭素価格の重要な役割

気候変動政策は「自然科学」と「社会科学」の二つの科学からなる

炭素価格とは何か

地球温暖化を減速させるには、温室効果ガスの濃度を低下させることが唯一の方法である
温室効果ガス低下に向けての、最良のアプローチは市場メカニズムの活用
最も重要なメカニズムは、二酸化炭素に対して高い価格を設定すること
人々が温室効果ガスを減らそう自らの行動を見直すには、経済的インセンティブがなくてはならないという発想
二酸化炭素排出は経済外部性を持っている
炭素価格の設定は、二酸化炭素削減を重視する社会的決断の表れ
炭素価格は化石燃料の燃焼に付与される価格
企業や個人が化石燃料を燃やし、二酸化炭素が待機中に出される都度、素助量に応じて企業や個人に追加費用の支払いを求めるもの
以降、例として「二酸化炭素1トンあたり25ドル」を用いる

排出権取引や税金を通じた炭素価格の引き上げ

  • 二酸化炭素に税金を課す。「炭素税」

  • 企業に二酸化炭素排出に対して税金の支払いを義務付け、企業間で売買できるようにする。「キャンプ・アンド・トレード」

炭素価格制度を設計する際に鍵となる運用上の問題は、誰が支払うのかという点
価格の引き上げを伴う規制や課税に対する人々の需要性は、サプライチェーンのどこで課金されるかによって変わり得る
「よい税金とはただ一つ、目に見えない税金のことだ」

二酸化炭素に価格をつけることの経済的機能

「消費者に影響を与える」「生産者に影響を与える「イノベーターに影響を与える」

  1. 炭素価格は消費者に対し、どの財やサービスが多くの炭素を含み、利用を極力控えるべきかに関係するシグナルを送る

  2. 炭素価格は生産者に対し、どの原料が比較的多くの炭素を使用し、どの原料が比較的少ない、あるいは全く炭素を使用しないのかのシグナルを送る(最も重要なシグナルを発せられるのが、発電事業。アメリカではすでに多くの電力会社が長期計画に盛り込んでおり、2020年の1トンあたりの平均価格を25ドル弱としていた)

  3. 炭素価格は発明家やイノベーターに対し、従来の技術に代わる低炭素製品や製法を開発、導入するための市場インセンティブを提供する

炭素価格と環境倫理

炭素価格は我々の生活をシンプルにする
二酸化炭素に関する意思決定を単純化してくれる
炭素価格は、退出削減に向けた強力なインセンティブを公正なかたちで提供し、生産からイノベーションに至るまで経済のすべての側面に影響を与えることができる
人々がより少ない情報量で効率的な意思決定を行うことを可能にする

適正な炭素価格の設定

経済学者による2つのアプローチ

  1. 「炭素の社会的費用」という概念を用いて気候変動による損害額を推定する方法

  2. 総合評価モデルを使い、様々な環境目標の達成に必要な炭素価格を推定する方法

炭素の社会的費用は、1トンの二酸化炭素(より簡素に言えば炭素)かそれに相当するものが追加的に排出されることで生じる経済的損害を表す
アメリカ政府は、低炭素エネルギーの導入、建築物の省エネルギー基準、自動車の燃費基準、新設発電所の排出基準に関する規制や補助金を設定する際に、炭素の社会的費用を使用する
アメリカ政府の報告書は、2015年時点で二酸化炭素1トンあたり約25ドルという最良推定値を提示した

総合評価モデル → 図表19-1 2.5℃の温度目標の達成に必要な炭素価格
気温上昇を2.5℃以内におさえるために必要な目標炭素価格を表す。この結果は13のモデルから導き出されたもので、モデルの間の中心傾向に加え、最低必要炭素価格と最高必要炭素価格を示している。全世界傘下と効率的な政策を前提としている

炭素価格がエネルギー価格に及ぼす影響

代表的エネルギー製品のうち、炭素税の影響を一番受けるのが石炭
石油は二酸化炭素排出量1単位あたりの価格が高いため、影響が最も小さい
アメリカ家庭の総支出において、価格上昇が最も著しいのは電力になるが、これはアメリカにおける発電の多くが炭素集約度の高い石炭によるものであるため
平均的なアメリカ家庭による全消費コストは1%弱増加する
炭素価格が高ければ高いほど、より高炭素製品の購入を控えるという消費者行動の変化につながる。炭素価格が高いほど、多くの二酸化炭素が削減される。
「右下がり需要の法則」価格が上昇するにつれて需要量が低下するという、経済学全体で普遍的に確認されている研究結果の一つ

炭素税と財政

炭素税は、我々が想像し得る理想の税金に最も近い
有害な活動のアウトプットを削減する、という意味で、現在検討が進められている税制の中では、唯一、経済効率の向上につながる
炭素税は、アメリカが気候変動の目標を実現し、約束した国際義務を達する上で、大きな役割を果たす
主に石炭の燃焼などによる、有害な排ガスを岩礁させる意味で、人々の健康増進にも大いに起用する
さらに、多くの非効率的な規制政策を補完したり、それに取って代わったりすることで経済効率性をより一層向上させることができる
図表19−4のように炭素税が導入されれば、2020年にはGDPの約1%に相当する1680億ドルもの歳入を生む
炭素税の実施は、膨張する財政赤字を削減すると同時に地球温暖化を抑制し、しかもその両方を市場に優しい形で進められるため、財政保守派の妥協策となることが期待される



読んで少しでもあなたの世界を豊かにできたならそれだけで幸せです❤