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経済成長の基本軸を揺るがす労働市場の悪化(1) = 労働市場から退出させられる人々の急増 =

                      2020年12月 10日

 春先以降新型コロナ・ウイルスが感染拡大し、現在、感染拡大の第三波の渦中にある。

 政府は当初「GO TO トラベル」を5月の連休頃を予定していたと同時に夏場に沈静化するのではという政府の感染拡大に対する危機感の低さが顕在化している。 

 今回はこのような状況の下、日本の労働市場の状況を眺め、新型コロナ・ウイルス拡大の下で我々が置かれている状況をお示ししたい。

〇 4-6月期に続き7-9月期も雇用者の大幅減少続く

 表1は労働市場の推移を四半期ベースの前年比増減(万人)で示したものである。但し10月は単月の数値、労働参加率、失業率は季節調整済みの数値である。

表1. 労働市場の推移(四半期、前年比増減、万人)

経済人口(男女計)[2766]

 最初に雇用者と家族従業員を含む自営業者で構成される就業者について眺める。

 雇用者は今年4-6月期前年比68万人減と前期の同63万人増から急減し、7-9月期も同76万人減と減少幅を拡大させた。他方、減少基調にある自営業者は消費税率引き上げの影響もあり今年1-3期前年比で27万人減と減少幅を拡大したが、その後は雇用者の推移とは異なり、4-6月期、7-9月期と減少幅を縮小している。

 この結果、就業者としては今年1-3月期前年比36万人増と増加幅を縮小した後、4-6月期同78万人減、7-9月期同77万人減と大幅な減少を示した。

〇 就業者の大幅減に対して、失業者の増加小幅に止まる

 4-6月期以降の就業者の大幅減少を受け、失業者は4-6月期前年比で26万人増へと転じ、7-9月期も同44万人増と増加幅を拡大している。

 この結果、就業者と失業者を合わせた労働力人口、すなわち労働市場に存在する人達は、4-6月期前年より52万人減と一転減少に転じ、7-9月期も減少幅は縮小したものの同33万人減となっている。

 図1でも分かるように、4-6月期以降の労働力人口の大幅減少は、就業者の減少を失業者としてすべて労働市場で受け止められていないことを意味している。

労働力人口[2764]

図1. 労働力人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

 図1でリーマンショック時と比べてみると、就業者の減少幅、失業者の増加幅ともにリーマンショック時の方が現時点より大きいが、その合計である労働力人口の減少幅はリーマンショック時とほぼ同程度である。

 すなわち、雇用者減少を失業者として労働市場に止める割合が現時点では低いということであり、別の視点で眺めると、失業者の増加幅が少ないということを示唆している。これは図2で分かるように、上昇する失業率がリーマンショック時より低い水準で推移していることに表れている。

失業率[2768]

図2. 失業率の推移(季節調整済み、四半期、%)

〇 人口減、少子・高齢社会の下、労働市場から退出させられる多くの人達

 減少した就業者が失業者として労働市場に止まれない人たちは労働市場から退出させられ、非労働力人口となる。

 表1や図3で示されているように、非労働力人口は今年4-6月期前年比44万人増と前期のマイナスから一転して急増し、7-9月期においても同22万人増となっている。これらの人々は解雇されても失業者として労働市場にとどまることができず、新型コロナ・ウイルス拡大の下で労働市場から退出させられた人たちである。

経済人口(図)[2765]

図3. 経済人口の推移(四半期、前年比増減、万人)

 労働力人口に非労働力人口を合わせたものが経済人口であるが、図3でも分かるようにリーマンショック時にはこの経済人口が増加している状況の下で起こっていた。新型コロナ・ウイルス感染拡大の下での非労働力人口の増加は経済人口の減少が継続している中で起こっているということである。

 ちなみに、07年は「団塊の世代」が60歳に達した年であり、経済人口が減少傾向に入った12年は「団塊の世代」が65歳に達した年である。

 すなわち少子・高齢社会が進展している中で労働市場から退出させられる人たちが増加しているということである。人口減少が叫ばれる中で、所得を生み出し税金を賄う人たちが労働市場から退出させられているという状況は、経済成長基盤の基本軸が揺らいでいることを示唆している。

〇 10月、雇用者減少幅縮小するも、自営業者が急減

 7-9月期以降の姿を10月単月の数値で眺めてみると、7-9月期までとは異なる姿が見える。

 10月の雇用者は前年比で48万人減と7-9月期から減少幅が縮小する一方、減少幅を縮小してきた自営業者が同45万人減と一転して急減している。10月単月の数値ではあるが、自営業者、」すなわち経済社会基盤を構成する中小事業者の急減は経済成長の基本軸を揺るがすものであり、これら事業者への支援が息切れしてきていることを示唆している。

 この結果、10月の就業者は前年比93万人減と一段と落ち込み、対する失業者も同51万人増と増加幅を拡大したが、非労働力人口は7-9月期と同じく同22万人増にとどまっている。

 「GO TO トラベル」は10月の東京都の参入で本格的な経済効果を表したと思われるが、10月の統計からはサービス業の不況深化が浮かび上がる。

 「GO TO トラベル」の効果は11月には表れると予想されるが、「GO TO トラベル」などの経済施策が実需を生み出しても雇用に結びつくには時間が必要である。さらにその実需の増加が継続しなければ雇用増には結び付きにくい。ましてや新型コロナ・ウイルス感染拡大第三波が顕在化する現在、先行きに暗雲が漂う。

 このような状況では新型コロナ・ウイルス感染拡大防止策と同時に労働市場から退出させられた人たちに対する直接的な支援が急務である。

===>続くレポートでは労働市場の推移を男女別、年齢別に眺め、日本の労働市場の大きな偏りなど問題の所在を明らかにする。

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