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害虫

最近よく聞く「メンヘラ」というワード。気軽につかってはならない言葉だとは思うが、実際のところかなりカジュアルにつかわれている。

そして周りにちょっと「メンヘラ」風味の女がいると、人は「悲劇のヒロイン気取りで」なんて言ったりする。
よくよく考えてみたら、「悲劇のヒーロー」とはあまり言わない。

というわけで、世の中は「不幸な少女」がなにぶん好きなのだろう。
かくいうわたしも、華奢で色白の女の子が報われない日々をひたすら努力で乗り越えるような映画を観たら、思わず感情移入してしまうと思う。

そんな「不幸な少女」をテーマにしたこの映画。

好きな映画ではあるのだけど、いろいろと思うところは多い作品だった。
監督はきっとロリコンで女の子のふくらはぎが好きなんだろうなぁ、とか。

宮崎あおい演じる主人公サチコは、不安定な家庭から逃れるように毎日フラフラしている。
本人はこれといってなにもしていないのに、次から次へと悪いことに巻き込まれていく。

なによりもまず、サチコの「不幸な少女」性にたかる欲や幻想や善意が禍々しくてずっと陰鬱な雰囲気がぬぐえない。
そして映画そのものも、サチコの心理描写は特にしていない、と思う。言ってしまえば、この映画も同じく、サチコの不幸な少女性を消費したものだし、観ている我々だってそうなのだ。

演出は空想めいていて、彼女の内面を描くよりは監督の「女の子にさせたい諸々の趣味」の幕の内弁当感がある。

そもそもおじさんが少女の内面を描こうとするのはどうかと思うので、男性監督はこういう作品のほうが向いているのかもしれない…というのも偏見になりそうだけれど。

サチコは、ようやくできた友達の好きな子に好かれてしまったり、母親の彼氏に襲われかけたり、と結局はトラブルを起こして周りのネガティブな感情を買い続ける。
その友達の夏子(蒼井優)もまた、サチコの対極にいるのでまったく分かり合えていない。
こういう、やさしいのに空回っててお節介な優等生っている。
ちなみに女性監督なら夏子を主人公にしそう。なんとなく。
でも、こんな役をやる蒼井優がいるんだっていう感動もあった。どっちかといったらいまの印象では蒼井優がサチコ感あるもんね。

サチコの恵まれない境遇は、どこか彼女の雰囲気を異質にして、それがさらに複雑なものを引き寄せる。

監督はサチコが害虫として撮ったと公言しているみたいだけど、見ている側としてはやたら害虫にたかられるお花 サチコっていう印象だった。なんでサチコが害虫なのかはわからない。

それにしても、幼いながら不幸で、そのせいで魅力があり、裏社会に居場所を見出そうとするのはなんとなくレオンを連想させた。
この映画の宮崎あおいは、当時のナタリーポートマンの雰囲気とよく似ている。

不幸な少女の消費映画は、ジェンダーを意識するこの時代には本当はあまり賛成したくないのだけれど、不思議な魅力にみちていて困る。

先生との文通の内容とか、最後のりんごとか、変にエモーショナルでちょっとワザとらしい気がするけど、ここまで突き抜けてると私小説的でよかったのではないかと思う。

ちなみにこの映画でナンバーガールも初めて知ったけどすごくいい。
ていうかちょっとしたとこで入る音楽がとても良かった。

悲劇のヒロインは悲劇の先にひた走って終わってゆくという作品だった。

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