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『新装版 思考の技術』(立花隆、中公新書ラクレ)

立花隆。よく名前は聞く人物だが、これまで一度も本を手に取ったことがなかった。今年亡くなったという報道を聞き、これを機に読んでみようと思って購入したのがこの本である。

ムダなものなんてない

ニュースやSNSなどを見ていたりすると「ムダの削減が必要」とか「〇〇はムダだ、廃止してしまえ」といった類の主張をすぐに見つけることができる。そして私自身も「これはムダだろう」と思うようなことがないわけではない。そして、誰もが、ひたすらに効率化を追い求めている気がしないでもない。

しかし、筆者やこの風潮に一石を投じている。

人間社会という視点で見れば、それはムダなものかもしれないが、生態系全体で見ればムダなものなんてないという主張だ。私は、この主張に新鮮さを感じた。人間社会では、合理的であること、効率が良いことを追求しがちである。しかし、そこでの合理的、効率的というのは、そのシステム内、ここでは人間社会のことの中だけでの話であって、もっと大きな視点で考えればムダなものになってしまうかもしれないと本書は述べる。

具体例として、人間社会の価値観でムダを削減したり、効率を優先したりした結果、公害などの環境問題が起きたということが指摘されていた。

もちろん、仕事を効率的にこなしていくとかそういう能力は必要だろうが、それをありとあらゆる分野に適用させてはいけないということだと思う。

数量化できないものを恐れよ

今の人間社会は、ありとあらゆる場面で、とにかく数字を示そうとする。温室効果ガスの削減目標、論文のインパクトファクター、SNSのいいねやリツイートの数、大会のメダル獲得数など・・・。SNSでの注目されていたものをランキング形式で報道するということも珍しいものではなく、盛んに行われていると思う。

しかし、このように数量化できないものはたくさんあって、でもそういった無視して良いわけではないはずである。そこで筆者は、合理化、効率化を追求する路線を検討し直さなければならないと主張する。

最近盛んに言われるSDGsも、成長を前提としてはいるが、筆者の主張に近い思想があるのではないかと思う。


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