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『科学とはなにか』(佐倉統、講談社)

あらすじ?

現代の科学は、市民のためのものであるとされている。しかし、そう考えられるようになったのは、科学が人々の生活と密接に関わってくるようになる近代以降のことである。近代以前はそれぞれの知識のためのものであった。

科学的な知識は拡大していったが、「それだけ」で善の状態を決めてしまうのは良くない。そこで人文知を活用すべきであるとする。しかし、日本の学位取得者の専攻分野で、人文系が占める割合はアメリカやイギリス、フランスと比べて少なく、逆に工学系は他国と比べて圧倒的に高いという状態になっている。

この状態で、最先端の研究に付随する倫理的問題や社会的影響などについて考慮できる人材がいないと嘆いても、こうした人材をすぐに育成できるわけではない。そこで、すでにある学問系統の中でそういう人材を育成していくことが良いのではないか。

科学と社会はどのように共存していけば良いのか、その道筋の1つを示した本であると思う。

私の思ったこと

日本は欧米から科学の「果実」をとってきて発展した。しかし、日本には科学の「土壌」は根付かなかった、という批判はよく見かけるものであると思う。

これにたいして筆者は、「土壌」を移植するということは宗教や文化なども含めて欧米から日本に移植するということになり、それをしたら日本の個性も失われてしまうし、そのようなことをそもそも不可能であると述べている。そして、科学をいかに改良していくか、という方が建設的であると述べている。

私は、上記の日本の科学批判を素直に受け止めてきた。それは欧米の「土壌」を移植するというのは、欧米の科学の結果だけでなく過程を日本に輸入することと理解していたからである。つまり、宗教などを移植するということは全く考えていなかったのである。しかし、欧米から宗教や文化なども移植しなければならない、ということであるならば、それは不可能であると筆者の主張に共感した。



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