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#歌評
感情を問えばわずかにうつむいてこの湖の深さなど言う(服部真里子)
感情を問えばわずかにうつむいてこの湖の深さなど言う
服部真里子『行け広野へと』(本阿弥書店、2014年)
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……423.4m」
「え?」
「この湖、423.4m」
それが深度であることはどれくらい伝わるのだろう。
こういう歌を仮に「脚本系」短歌と名付けるとしたら、この歌は脚本系の中でも宝石のような一首だ。劇のクライマックスでこのやり取
あなた、すごく日あたりのいい水たまり ねえ、なんでそんなにやさしかったの?(石井僚一)
あなた、すごく日あたりのいい水たまり ねえ、なんでそんなにやさしかったの?
石井僚一『死ぬほど好きだから死なねーよ』(短歌研究社、2017年)
なんで、と問うているけど、ほんとうは聞くまでもなくわかっているはずだと思う。一般にこの歌に詠まれているような「やさしさ」は、あっと云う間に霧散してしまう性質のもの、一瞬だから許された嘘みたいなものだという認識が、この歌の根底にはあるような気がする。
吊り橋がどうとか話してたら目の前でワンバンして死ぬくじら(伊舎堂仁)
吊り橋がどうとか話してたら目の前でワンバンして死ぬくじら
伊舎堂仁『トントングラム』(書肆侃侃房、2014年)
くじらが大好きだ。くじらはめっちゃいい。理由はでかいからだ。くじらはすっごくでかい。最大種のシロナガスクジラだと三十余メートルに至るらしいけど、たぶんもっとでかいと思う。一キロメートルくらいあっても全然ふしぎではない。
そのくじらが死ぬのだから、一大事だ。それを目撃するのだから、き