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case05:出版社・編著者・デザイナーとともにイチからつくる展覧会図録

このnoteでは、弊社でお手伝いしたプロダクトについて、少しだけ掘り下げて紹介していきます。

板橋区立美術館・京都文化博物館で開催の展覧会「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」の公式図録の印刷・製本を担当しました。

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「さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち」公式図録
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 サイズ:188×257mm(B5変形)
  頁数:216p
  製本:糸かがり角背上製本
  用紙:本文      OKプリンス上質エコグリーン 110kg
                b7トラネクスト 99㎏
                淡クリームラフ 90㎏
     見返し      MagカラーN チャコール 110kg
     表紙         ビオトープGA-FS イエローオーカー 90㎏
     カバー・帯    OK ACカード まくろ 132kg
  印刷:本文・表紙    オフセット印刷
     カバー・帯    オフセット印刷(カバーに箔押し加工)

1930~40年代の戦時下で、新たな表現を模索し続けた前衛画家たち。その数々の作品や、当時の資料を200点以上掲載した図録です。図版だけでなく小論や年表も掲載され、とても読み応えのある一冊となっています。

お客様とのやり取りを何度も重ねながら、本づくりを進めていきました。書籍印刷の中でも図録となると、どんな風に作られるのかイメージしづらい方もいらっしゃるのではないでしょうか。こちらの記事では、図録制作の一例として、仕上がりまでのプロセスをご紹介します。

打ち合わせ

出版社・編著者・デザイナーのみなさまを交えて、製本仕様やスケジュールについての打ち合わせを行います。
今回の図録は、展覧会場での販売だけでなく取次を通じて各書店でも販売されるもの。流通に乗る書籍は、スケジュール管理が特に重要です。
本づくりの最後を担う私たちが、入稿から納品までのスケジュールを立て、各所へ共有していきます。


色校出し(本文)

共有したスケジュールに合わせて、色校正を出力する準備に入ります。
大量の画像がさまざまな形式で入稿するため、漏れなくそろっているか、解像度は足りているか、作業しやすい名前がついているかなどの確認が必要になります。編著者様やデザイナー様と情報を共有しながら、データを整えていきました。こうしたデータの管理は、その後のスムーズなやり取りにもつながります。

準備が整ったら、初校を出力。初校では、すべての画像をおおまかにリサイズしたものを、紙面にずらりと並べています。

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画像単体を紙面に並べた色校正(印刷用語で、バラ校と呼ばれたりします)は、画像の点数が多い場合やレイアウトが確定していない場合にとられることの多い形です。


画像補正

編著者様・デザイナー様が色校正に入れた赤字をもとに、画像補正のチームが作業を行います。
画像には、補正のターゲットになる印刷物があるものも、ないものもあります。点数の多かった油彩の作品は、色味の調整だけでなく筆の質感絵の具の立体感を出すための補正もおこなっています。
実際の作品を一番よく知っている編著者様へのヒアリングはとても重要です。赤字のニュアンスや方向性をしっかりと共有し、実際の作品の見た目により近いデータを目指しました。

束見本作成

デザイナー様が設計した製本仕様をもとに用紙のご提案などのやり取りを重ね、製本仕様が確定しました。ここで作成するのが束見本です。
束見本とは、印刷はせずに本番と同じ紙で作る見本のこと。製本仕様厚さ(束幅)を確認するために必要なものです。

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本文には3種類の紙が使われており、束見本を触ると色や手触りの違いがよくわかります。まだ真っ白のページですが、印刷されたらどんなふうになるのか…。束見本の作成は、出来上がりがより楽しみになる工程のひとつです。

色校出し(表紙・カバー・帯)

束見本が出来上がることで、すべての部品の寸法を決めることができます。
本文に続き、表紙・カバー・帯の色校正を行いました。

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カバーと帯は黒い紙への印刷。地色が透けて見えるため、白い紙よりもインキの発色が落ちる傾向にあります。そこで今回は、金と銀の版の下にホワイトの版を作ることをご提案しています。一度ホワイトを敷いた上に金と銀を印刷することで、インキの持っている発色と輝きを維持することができ、デザイナー様にもご満足いただけました。

印刷・加工・製本

すべての部品が校了となり、いよいよ印刷・製本です。
プリンティングディレクター立ち合いの元、印刷機の機長とタッグを組んで刷り色をコントロールしていきます。
カバーには箔押し加工が施され、重厚感のある図録が出来上がりました!

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お客様の声

出来上がったカタログを初めて拝見した時、とても美しい作りに驚きました。心のこもったカタログに仕上げていただき、ありがとうございました。(編著者 清水様)

日本の近代洋画の深く沈んだ色合いの調整について、私たちの要望を細かく聞いてくださって大変助かりました。今後に残る一冊に仕上がったと思います。(編著者 弘中様)

カバー・帯は輝きを失わず、白い紙に刷るのとは違った風合いを実現できました。(デザイナー 中野様)

このように、図録制作には、多くの人々多くの作品が関わります。
私たち印刷会社は美術作品を美しく見せるだけではなく、さまざまな人々の想いを印刷物に落とし込んでゆきます。それが、私たちの腕の見せ所、やりがいでもあるのです。

出版社・編著者・デザイナーのみなさまとともに作り上げたからこそ、このような魅力的な図録に仕上がりました。印刷会社として、制作に携われたことを大変うれしく思います。

これからも私たちはお客様の話に耳を傾け、お客様といっしょにモノづくりをして参ります。

◤ information ◢

展覧会は板橋区立美術館にて、3/27より開催です。
詳細はこちらをご覧ください
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/artmuseum/
(※2021年5月追記 現在は会期終了しています)

※2021年6月追記 京都文化博物館にて巡回展が開催中です
https://www.bunpaku.or.jp/exhi_kikaku_post/samayoeruefude/

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私たちも早速、初日に出掛けてきました!

『さまよえる絵筆―東京・京都 戦時下の前衛画家たち』公式図録
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    発行所:株式会社 みすず書房
  編集・執筆:弘中智子、清水智世
   編集協力:八島慎治(みすず書房)
ブックデザイン:中野豪雄、林宏香、西垣由紀子(中野デザイン事務所)
  印刷・製本:株式会社 加藤文明社

ここまでお読みいただきありがとうございました!
次の記事も楽しみにしていてくださいね。


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