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画像生成AIに関する法的・倫理的問題について #1

※執筆時間が足りず、画像が少ない記事になったので後日画像を改めて挿入してリライトする予定です。

著作権侵害の判断基準の議論

はじめに言っておくと、AIに淘汰されるかもしれない立場であるデザイナーの私ですが、AIによる画像生成に関しては積極肯定派です。
理由を端的に言うと「とても便利だから」、「文化の発展に大きく寄与するから」です。淘汰されるか、生き残るかは、AIの使い方や立ち回り、力量次第です。

さて、一般的なやり方としてインターネット上の公開画像を「無断」で機械学習のサンプルとして利用した画像生成AIと著作権に関する問題が多く取り上げられているので、今回はそれについて所感を交えて簡単に書き留めておきます。
※Adobe StockのコンテンツをサンプルにしたAdobeの画像生成AI「Firefly」などは、同社保有コンテンツの内部利用のため権利関係の問題は無いとされています。


問題というのは、例えば、2023年2月3日に大手フォトストックサービスのゲッティイメージズで知られるPlaintiff Getty Images社が画像生成AI「Stable Diffusion」の開発元として知られているStability AI社をデラウェア州地方裁判所に提訴した件などが有名です。

生成された画像がどのようなものでどのような用途で使われたかといった個別の事例に依る問題ではなく「AIによる画像生成すべてが悪」だとする過激派もいるようですが、もし一概にそう言えるのであれば、AI技術の発展が非民主主義国でばかり発展することになりそうですね。
まぁそんなわけはないのですが、「AIの機械学習によって生成された画像が、機械学習のサンプル(オリジナル作品)の著作権を侵害しているかどうか」という問題には、様々な議論があります。

これには、いくつかの判断基準があることが考えられます。

判断基準1:出力結果の要素の複雑性

まず、公開画像から収集したサンプル(オリジナル作品)群の入力から何らかのAI画像生成の処理プロセスを経て生成された作品が各サンプルの著作権を侵害するかどうかは、その生成された作品の特徴や要素の複雑さによって判断されることが考えられます。
たとえば、AIによって単純な模様を生成した場合は、(仮に「ドラゴンボールの悟空」といった特定の著作物を含むプロンプト入力であったとしても)著作権侵害にはあたらない可能性が高いとされています。
画像生成の出力結果が ◇◇◇ のような「三個の四角形」だった場合などが考えられます。(※ロゴや商品に使うなどであれば既に登録されている意匠権や商標権などに注意しなくてはなりませんが、それは人間がオリジナルで手書きしたような場合でも同様かと思われますので「AI画像生成特有の問題」ということにはなりません。)

判断基準2:人間の創作プロセスとAI画像生成の処理プロセスの差異(画像生成の方法自体に違法な依拠性があるかどうか)

入力と出力の間には「処理(プロセス)」があります。

専門家ではないので不正確または不十分である可能性はありますが、処理の仕組みについて短く解説すると
Stable Diffusionの場合は「潜在拡散モデル(Latent Diffusion Model)」というアルゴリズムにより、入力された各サンプル(ネット上に公開された画像)を段階的なレベルの「ガウスノイズ」を加えて破損する(ただのノイズ画像になる)まで劣化させ、それを逆変換での復元を試行する、という過程を繰り返し、その都度パラメータのフィードバック調整を行い、入力と出力の間の誤差を最小化するよう学習します。
サンプルそのものは学習に使用されただけで保存されているわけではなく、残るのはノイズの処理方法のデータだけです。

上記の高度な技術で合成された出力結果を見れば、「単なる切り貼り」ではないことがわかります。
これに違法な依拠性があると言えるかどうか、です。

なお、「ドラゴンボールの悟空」といったプロンプト入力からドラゴンボールの悟空に酷似した絵が生成されたような場合、どのような処理があったとしてもそれは明白に「アウト」であるかと思われます。
これもまた、人間の場合(意識して盗用した場合)でも同様なので「AIだからアウト」という問題ではありません。

※ユーザーのテキスト入力(プロンプト)からAI生成画像を出力する仕組みの説明については割愛します。

人間が何かを創作する場合、例えば、他者が書いた絵を全く観たことがない例外的な人を除けば、誰しも大なり小なり他者の創作物の影響を受けて描いているはずです。
意識の深い領域からの影響は不可避ですが、無意識に酷似してしまったにせよ偶然酷似してしまったにせよ、そうなると早い者勝ちルールに従って破棄ないし改変しなければなりません。
しかしながら、度の過ぎた模倣つまり盗用と認定するには合理的かつ明確な基準が定められなければなりません。
※違法に公開された画像が含まれていたとすれば、当然、違法に公開した者が悪いと言えます。

中には、AI生成画像は他者の創作したものがサンプルになっているという理由だけで盗用と主張する人々がいます。
では、上記機械的創作プロセスと人間の創作プロセスは、多少なりとも他者から影響を受けている点を踏まえて、本質的に何が異なると言えるのでしょうか?
また、真に新しいものという意味での「オリジナル」とは何でしょうか?たいてい、既存のものの新しい組み合わせに過ぎないかと思います。

確かに、人間は機械にはない感情というものを表現することが可能です。
しかし、例えば「たまたまカメラにリンゴが落ちてしまってシャッターが切られた結果撮れた美しい写真」に「感情の表現」があるのでしょうか?そのような写真でも、リンゴが落ちたカメラの持ち主が著作権者として認められますよね。
そうでなければ、万有引力を発見したアイザック・ニュートン、あるいは重力という相互作用を創造した神が「著作権者」なのでしょうか?
流石の過激派の見方としてもそうはならないはずですので、感情の表現の有無は判断基準にならないと考えられます。

判断基準3:似ている度合(違法とみなせる程度の類似性があるかどうか)

オリジナル作品の特徴や要素を含む写真や絵画のような作品を生成した場合は、著作権侵害にあたる可能性はあります。

では、程度問題としてその「どれくらい似ていればアウトなのか」という線引きが大きな議題の一つでもあります。

文字列と文字列の類似度を「レーベンシュタイン距離」で測る尺度や、画像どうしの類似度や「特徴量」を測る尺度などは既に存在する(というか、特徴量に関してはそもそもAIの技術の基礎的なものである)ので、おそらく定量的な線引き自体は可能であるかとは思われます。

元画像の処理が浅いアルゴリズムかつデータセット規模が小さいと、模倣ではなく盗用の判定になる酷似画像が頻繁に生成されるかもしれません。
処理が深くても、確率論的に酷似画像は生成されるものなので、AI画像生成のプラットフォーム提供者ないし生成者・使用者がリサーチして適宜破棄するといったコストは要求されるようになる可能性はあると考えられます。
ただし、これは人間の場合も同様ですので「AIだから起きる問題」ではありません。

アメリカの法律業界でいう「無意識の複製」(他者の創作物の記憶から無意識に似たものを創作してしまうこと)等に関して、おそらく日本では法的に未整備かつあまり活発に議論もされていないようですが、
見聞したことのある他者の創作物と無意識に似てしまった場合や見聞したことのない他者の創作物と偶然似てしまった場合にその問題をどう扱うかについては、創作したのがもっぱら機械であったか人間であったかによって峻別されるべきなのでしょうか?

また、世の中には別々の人間が描いたほとんど同じような絵で溢れてますが、それらは何故盗用ではないとして許されているのでしょうか?
とりわけ漫画や小説など、一部のものを除けば模倣に次ぐ模倣の世界です。
(そもそも、人間という存在自体が「模倣の生き物」です。乳幼児の言語獲得プロセスしかり、社会的学習としての心理的模倣しかり。)
例えば何らかのジャンルの漫画作品の画像をGoogleで画像検索すると実態がわかりやすいでしょう。

類似性の程度問題については、現状の社会通念や業界の実態などを参考に基準が決められることになるのかもせれません。

参考文献:アメリカ著作権法における無意識の依拠に関する一 考察(国立情報学研究所)

判断基準4:フェアユース・文化発展の寄与度合の比較衡量(違法または不当な使用状況かどうか)

私は法律家ではないので司法の判断について断定的な事は言えませんが
日本における著作権法の目的は「文化の発展に寄与する事」であり、「著作者等の利益を保護する事」というのはあくまでもその手段に過ぎないので、「文化的所産の公正な利用」(アメリカの法律用語でいうフェアユース)である限りにおいて(AI画像生成が文化の発展に寄与する度合いが著作者等の利益を保護することによるそれよりも比較して高いと認められる場合において)は、AI画像生成による「損害」について著作権法を盾に訴える行為は、極端な話、権利の濫用になる可能性もあるのではないか、という点も考慮しなくてはなりません。
依拠や類似の度合いに応じた著作権料をJASRAC的な機関を通して支払う事が落としどころになる、という可能性もあるかもしれません。

いずれにせよ、AI生成画像の「用途の正当性」や「市場に与える影響」(文化発展の寄与)は判断基準になると予想されます。

※近いうち 訴訟騒ぎ→メディアが注目→法整備 のパターンで、AI画像生成の法的規制問題に関して何か大きな動きがあるのではないでしょうか。

日本の著作権法のいう「文化的所産の公正な利用」の要件や範囲について、今後の法整備でAI画像生成に関して条文に明記されることが望まれます。
日本という国は、法整備の遅さによって文化・経済の発展が他国の後塵を拝する傾向があるかと思いますが、大丈夫なのでしょうか。


以上のように、画像生成AIと著作権の問題には、科学的・法的専門知識、異なる立場・思想等々が絡んでいますので、今後も議論が続くことが予想されます。

#人工知能 #著作権 #知的財産 #最近の学び

参考サイト



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