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不適切な養育がさらに裏目にでる時

MAOA(モノアミン酸化酵素A)という物質をご存じでしょうか。「脳内でドーパミンなどの神経伝達物質を分解する酵素の活性を調節する」はたらきをすると言われる酵素の一種です。

この酵素なのですが,社会的なやりとりや感情の制御にさまざまな影響を及ぼすと言われています。

マウスでも,MAOAの量によって,不安が増えたり社会的な結びつきの異常行動がみられたりするそうです。そしてそれは,マウスだけでなく,他の動物でも人間でもみられると言われているのです。

MAOAの研究

このMAOAを扱った昔の研究で,いまでもいろいろなところで引用される論文があります。それが,MAOAの遺伝タイプと虐待との組み合わせを検討した論文です。

著者は発達心理学者カスピ(Caspi)たちの研究グループです。

カスピは,Google Scholarで調べると,論文の総被引用回数が12万回以上という,いわばスター心理学者です。

論文

さて,そのよく引用される論文というのは,アメリカの科学雑誌サイエンスに掲載されたこの論文(Role of genotype in the cycle of violence in maltreated children)です。

ちなみにこのサイエンスという雑誌ですが,初期の頃に発明家トーマス・エジソンや電話を発明したグラハム・ベルから資金援助を受けたことでも知られています。

それに,心理学者とのかかわりも深いのですよ。19世紀終わり頃には,心理学の様々な測定に「メンタル・テスト」と名付けた心理学者,ジェームズ・キャッテルがこの雑誌の発行権を500ドルで買っています。そしてアメリカ科学振興協会の発行物としてこの雑誌サイエンスが刊行されるようになるのに,キャッテルが尽力したというエピソードもあるとか。キャッテルが亡くなるまで,発行権は彼自身がもっていたそうです。

MAOAと虐待

この研究では,MAOAの遺伝的な形質を子どもたちが持っているかどうかを調べています。そして,子どもの頃の虐待経験についても尋ねています。

「虐待」といっても,程度も内容もさまざまですよね。よくない,不適切な養育全体を指してマルトリートメント(maltreatment)と言います。マルトリートメントの中には,暴力や暴言だけでなく,養育の放棄や,子育てに真剣になるあまりに過剰に子どもをコントロールしたり,無理な行動を強制したりすることも含まれています。

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