今回の内容は，「わかっているけれどもあえて屁理屈を言う」というものです。「屁理屈」なのはじゅうぶんにわかっていますので，その点はご了承ください。

採用面接での話

少し前のことです。学生と就活の話をしていて，採用面接での話題になりました。

学生によれば，「どうしてこのゼミを選んだのですか」と聞かれたので「面白そうだから」と答えたのだそうです。

私はそれを聞いて，「いいんじゃない？面白そうという理由で」と言いました。ゼミを選ぶときにそういう理由で選ぶことは珍しくありません。

すると就活の面接官からは，「面白いというのは全然理由になっていない。何をするために選んだのかを教えてください」といったような内容を言われたのだそうです。

その学生は，「実際にそう思ったのだから正直に答えているのだし，『面白そう』という答えじゃダメなのでしょうか」と言っていました。

内発的な動機づけ

心理学では「面白いから」「興味があるから」というのは，内発的な動機づけによる理由づけです。

ずっと昔から，学校の先生たちも「生徒の内発的な動機づけを伸ばしましょう」ということがひとつの教育上の目標になっていたりするわけです。子どもたちが勉強を「面白い！」と思うようにすることが大切だ，という話です。今は違うのでしょうか......？

そして心理学の研究でも，内発的な動機づけは行動を長く持続させることにつながる，とても重要な動機づけの種類だとされてきました。それが「面白いから」という理由なのです。自分の内面から湧き出るような理由づけになっているから，「内発的」な動機づけです。

外発的な動機づけ

「怒られるから」とか「お金がもらえるから」という，自分の外の原因によって行動を起こさせるようなものを「外発的」な動機づけといいます。

内発的に動機づけられている行動があるときに，報酬を与えると行動がうまく持続しなくなってしまう，ということも起こるようです。子どもが楽しんでパズルを解いていたところで，「１つ解くと100円あげるよ」と言うと動機づけが外発的なものになってしまいます。すると，子どもたちは楽しんでパズルを解かなくなってしまったり，その後報酬が与えられなくなるとぱったりと解くことをやめてしまったりします。

それだけ，「面白いから」「楽しいから」という動機づけは，行動を長続きさせるというわけです。

何のためにやるの

さて，「○○のためにそれをやる」という動機づけです。これは，内発的なものだと思いますか？それとも，外発的なものだと思いますか？

報酬や罰が与えられるからやる，というわけではありませんよね。でも，目標というのは自分の外にあります。「世界をよくしたいから」とか「会社を大きく発展させたいから」とか。これらも，自分の外にあることが行動の目標になっています。

パズルを解くのは「面白いから」長続きするのであって，「自分の将来に役立てるため」ではないのです。面白いと思うことをやって，結果的に役立つことはあるかもしれませんが。

本当の意味での内発的な動機づけは，自分の内部から出てくるものをいいます。それは先ほど示したように「面白いから」なのです。

「将来こうなるために」という動機づけも悪いわけではないのですが，それは「外発的動機づけ」の一種なのです。より具体的には，「同一化的動機づけ」です。

同一化的動機づけは，内発的動機づけには近いのですが，やはり外発的な動機づけなのです。

外発的な動機づけも，徐々にその動機づけが変わっていくことはあります。将来のためと思ってやっていたことが「やっぱり自分はこれが面白い」となっていくことはよくあるからです。

せっかくの内発的動機づけなのに

「何のためにやるのかという理由じゃないと理由にならない」といったことを言うのは，せっかく学生が内発的な動機づけをもっているのに，それを外発的な動機づけにシフトさせるようなものではないでしょうか。内発的な動機づけを学校で目指すのと逆行していそうですけどね......。

「面白い」という内側から湧き上がってくる動機づけがいちばん行動を長く持続させるのです。それを外発的なものにさせないでほしいな，と思ってしまいます。

受験勉強は「大学に入るため」とか「自分の将来を考えて」という「内的には近いけれども外的」なものになりがちです。ですから，その目標を達して入学すると，やる気を失ってしまうのではないでしょうか。動機づけが失われてしまうのです。

せっかく学生が内発的な動機づけを答えているのですから，その「面白い」の中身を掘り下げてもらいたいものです。「どこが面白いと思っているのかを説明して欲しい」とか「その面白さについて我々に語ってみてもらえますか」とか，やりようはあると思うのですよね。

いかがでしょうか......？