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マインドセットは本当に学業成績を向上させるのか

「マインドセット」という言葉を知っているでしょうか。この言葉も,すでに広く普及していて,すっかり定着した感じがします。

この研究で知られる,心理学者ドゥエックによる本も出版されています。

こちこちとしなやか

これは,能力をどのように考えているかという話です。心理学の研究では「知能観」という言葉が使われることもあります。

知能などの能力を,
◎なかなか変化しないコントロールできないもの=固定的知能観
◎変化可能でコントロールできるもの=増加的(可変的)知能観
のどちらで捉える傾向があるか,という問題です。

本の中では,前者を「こちこちマインドセット」,後者を「しなやかマインドセット」などと書かれていたりします。自分の能力(知能や能力,学力など)を,皆さんはどのように捉えているでしょうか。

能力を固定的に捉える人は,自分の有能さをアピールして認めてもらおうとする傾向があります。自分にある程度能力があると認識している場合には意欲的に行動できますが,できないと考えるとすぐに意欲が低下してしまいます。なぜなら,できないことは自分自身の能力の低さそのものを表してしまうからです。

その一方で,能力を変化するものととらえる人は,人間の基本的な特徴は努力次第で伸びるものだと信じています。ものごとがうまくいかないときには,どうしたらうまくできるかを工夫したり,努力したりする傾向がより見られるとされています。

しなやかマインドセットの学生は,学習意欲をかきたてる方法を自分で工夫していた。やみくもに丸暗記するのではなく「講義全体のテーマや基本原則をつかむ」努力をし,「ミスしやすいところでは完全にマスターできるまで反復練習」した。試験で良い点を取ることにではなく,しっかりと理解することに目標を置いていた。じつは,これこそが良い成績をとれた理由なのであって,もともと頭が良かったわけでも,予備知識が豊富だったわけでもない。
(p.93)

このようなことが言われていることから,自らを成長させるようなマインドセットを持つことが,学業成績にも有効ではないかと考えられるわけです。

マインドセットの効果の大きさ

さて最近,このマインドセットについて,学業成績への効果を検証をする論文が発表されています(To What Extent and Under Which Circumstances Are Growth Mind-Sets Important to Academic Achievement? Two Meta-Analyses)。この論文ではメタ分析によって,1.マインドセットと学業成績との関連,2.マインドセットへの介入が学業成績に与える影響,の2つを検証しています。

1つめのメタ分析では,129研究,273個の効果量,365,915名分のデータが分析の対象となりました。

効果の大きさは?

さて,問題である,マインドセットと学業成績との関連は,
◎ r = 0.12 (95%信頼区間[.09, .14])
という結果でした。

相関係数0.12ですか……予想以上に小さい値ではないでしょうか。しかも,分析の対象となった273個の効果量のうち,157個は統計的に効果がゼロではないとはいえない(つまりゼロに近い)というものでした。さらに,そのうち16個ではマイナスの効果すらみられたとのことです。

集団で違いはあるか?

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Atsushi Oshio

小塩真司。早稲田大学文学学術院教授。専門はパーソナリティ心理学。性格の構造,発達,適応に関心があります。 研究室:http://www.f.waseda.jp/oshio.at/index.html Twitter: https://twitter.com/oshio_at

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