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研究者RPG(2):論文の被引用回数について

※出てくる数字は投稿時のものです。

インパクトファクター(IF)という数字があります。共同研究者と「どの雑誌に論文を投稿する?」「インパクトファクターの高いところから試してみる?」という会話をすることがあり,そこで出てくる数字です。

インパクトファクターは,ある雑誌に過去3年間に掲載された論文がその最終年に何本引用されたかを平均した値です。

たとえば,雑誌Aに掲載された2016年,2017年,2018年の論文が100本あったとします。2018年にその100本の中でいずれかの論文が50回引用されれば,その雑誌Aのインパクトファクターは0.5となります。

これはその3年間に掲載された論文のどれが引用されてもよいのです。ですので,2016年のある1本の論文だけが2018年に50回引用されても,雑誌Aのインパクトファクターは0.5となります。また2017年に掲載された10本の論文が2018年に5回ずつ引用されても引用数は50となりますので,インパクトファクターは0.5となります。

この記事は前回の続きです(前回の記事はこちら)。
研究者RPG(1):研究者の評価

雑誌の評価

インパクトファクターは論文そのものの評価ではなく,雑誌の評価です。「この研究者はインパクトファクターいくつの雑誌に何本論文を掲載した」といっても,必ずしもその論文そのものがそれだけ引用されたことを表すわけではありません。「ステイタスの高い(インパクトファクターの高い)雑誌に論文を掲載した」という意味での評価になります。

インパクトファクターの高い雑誌は世界中でたくさん売れ,出版社や学会の収益が上がりますし,多くの質の高い投稿が見込めますので,雑誌を出版している側からすれば重要な指標です。海外の学会では出版社が「最新のインパクトファクターはいくつです!」(会場が拍手)とプレゼンするのを見たことが何度もあります。「この学会を盛り上げるためにもっと良い論文をこの雑誌に投稿しよう」と意気込むことになるのでしょうか。

また,研究分野によっては過去3年間でそれほど多くの被引用数が見込めない場合もあります。世界中に多くの研究者が存在しており,新しい研究がとにかく価値があり,多くの研究者が一つのテーマに注力しやすい研究分野であれば,その研究分野いおける雑誌のインパクトファクターは大きくなる傾向があります。

インパクトファクターの評価も,研究分野に依存しているというわけです。

目次

・雑誌の評価
・Googleのとあるサービス
・被引用回数を稼げ!
・Googleのアルゴリズム
・総被引用回数とh指標
・i10指標
・数字の正しさ

Googleのとあるサービス

今回は,研究者の研究を数字で表現するwebサイトを見てみたいと思います。

Google Scholar(グーグル・スカラー)というサイトをご存じですか?

研究者であれば皆知っていると思うのですが,一般的にはどれくらい知られているのか,ちょっとよくわかりません。やっぱり研究をしたり,論文を検索する機会がないと,なかなかアクセスしないかもしれませんね。

このGoogle Scholarには,研究者がプロフィールページを作ることができます。

そしてプロフィールページを登録すると,その研究者が書いた論文が一覧で表示されます。さらにそれぞれの論文の横には,数字がつくのです。

たとえば私のページはこのようになっています。

画像で表示してみます(どんどん数字が増えますので,いまはこの数字ではないかもしれません)。

「引用先」と書かれている数字は,その文献が何件ほかの文献で引用されているかを表しています。一番上の文献は本なのですが,この本は334件,何かに引用されている(という情報をGoogleがもっている)ということです。

2番目の文献は昔書いた論文です(2003年に書いたことも数字が出ていますのでわかります)。この論文は,219件何かに引用されています。

とこのように,研究者が書いた書籍や論文と,それらが何回,何かに引用されているかが数字で示されるというわけです。

被引用回数を稼げ!

この被引用回数が,研究者にとっては重要な数字なのです。研究者が論文を書いても,その論文が誰にも引用されないということは,他の研究者に影響を与えていないことを意味します。

論文には,引用文献が書かれています。引用文献は,必ずその内容が論文の中に書かれています。つまり,その論文をベースとして何かしらの論が立てられていることを意味するのです。ですから,引用文献はそれが書かれている論文に何らかの影響を与えていることになります。

なお,私の研究分野では参考文献を書く習慣はほとんどなく,論文内でその文献を使ったことをあらわす引用文献を書きます

そして被引用回数が多いということは,多くの研究者がその論文を参照し,さらに多くの研究者が各自の論文(やその他の文献)にその論文を引用したことを意味します。

もちろん自分自身の論文で自分の論文を引用することもあります(自己引用といいます)。そういう場合は,他の研究者に影響を与えているとは言えないのですが。

Googleのアルゴリズム

実はGoogleの検索アルゴリズム自体,論文の被引用を評価するシステムを真似したものなのです。Googleの検索結果の上位に出てくるサイトは,より多くのサイトからリンクが張られているものです(実際はそれだけではなく色々な調整を経た上で,でしょうが)。

多くのサイトからリンクが張られているサイトは,より良い情報が含まれているサイトだろう,というのが基本的な考え方です。

これは,より多くの論文から引用される論文がよい情報が含まれているのだろう,という考え方に共通するのです。

論文評価の方法からGoogleの検索アルゴリズムへ,そしてGoogleが今度は論文の引用数を表示するというのは,少し面白いところです。

総被引用回数とh指標・i10指標

研究者のプロフィールページの右の方には,グラフと数字が表示されます。たとえば私の場合はこんなふうに。

「引用」という数字は,すべての文献がどれだけ引用されたかを表しています。「すべて」が1700ということは,私が書いたものは何かしらに1700回引用されているということです。また「2013年以来」には,5年前から何回引用されているのかが表示されます。この場合,1184回です。

それぞれの年に出版されたものにいくつ引用されているかは,グラフで表示されます。ここのところ,年間200件以上引用されていることがわかります。2018年で185回です。

h指標は,引用された回数がh回の文献がh本以上あることを表す数字です。h指標が18ということは,18回以上引用されている文献が18本以上ある,ということです。この数字が大きくなると,より多く引用されている論文がより多くある,ということになります。

i10指標は,引用された回数が10回以上の文献の数を表す数字です。i10指標が28ということは,私の研究業績の中で10回以上引用された文献が29本あるということを表しています。

数字の正しさ

Googleは自動的に文献を収集しますので,この引用数を鵜呑みにするのは危険です。たとえば私のリストには,論文だけでなく学会発表も数多く入っています。論文が重複している場合もあるので,見つけたら手作業で結合します。

引用数をカウントしてくれるサイトは他にもあります。
たとえばResearchGateやMendeleyというサイトです。

また,より専門的なサイトとしては,学術出版社エルゼビアが提供するScopusがあります。

他にも検索すると,同じようなサービスを提供するサイトが見つかります。

これらのサイトで表示される引用数は,基本的に査読雑誌(掲載に審査と修正が必要)かつ英語の文献が中心です。書籍や英語以外の言語の多くの雑誌は集計対象外です。

そしてこれらのサービスで表示される引用数に比べて,Google Scholarの引用数は明らかに大きな数字になります。それだけ,Googleの文献の集め方は無作為で玉石混淆だということです。日本語の文献も韓国語も中国語であっても,私の論文が引用されているものはチェックしてくれます(が,出所不明の文献,また学術目的ではないものや同じ文献が複数サイトに上がっている場合に引用が複数カウントされる場合があるかもしれません)。

では,Google Scholarには意味がないのでしょうか。

複数の研究者を比べてみれば,研究者の評価は可能だと思います。1つや2つ,10や20の被引用数の差はたいした意味はありません。Googleの場合,その程度は誤差だと思った方が良いでしょう。

もっと大きなおおよその値として,研究者のロールプレイングゲームにおける「強さ」のような指標として見るのを楽しんでみる,というのはどうでしょうか。

次回へつづく
研究者RPG(3):就職するための被引用回数


また,この記事はシリーズになっています。以下の記事もどうぞ。

研究者RPG(1):研究者の評価
研究者RPG(2):論文の被引用回数について
研究者RPG(3):就職するための被引用回数
研究者RPG(4):一流研究者たちの被引用回数
研究者RPG(5):伝説的研究者の被引用回数
研究者RPG(6):すごい研究者の日々

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