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10項目でBig Fiveパーソナリティを測定するTIPI日本語版についてのまとめ

タイトルの通りなのですが,よく問い合わせがくることもあり,以前作成した心理尺度について情報をまとめておこうと思います。

それは,10項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定するTIPI-J(日本語版Ten Item Personality Inventory)という尺度についてです。

同じ質問が何度も登場

心理学の調査をするとよくある質問の一つが,「何度も同じような質問に答えているように思うのですがどうしてですか?」というものです。

◎わたしは自分に満足している
◎わたしは自分に自信がある
◎わたしは自分が人よりも優れていると感じる
◎わたしは自分に価値があると感じる

といったように,心理学の調査では同じような質問が並んでいたり,場所は離れていても似た質問が何度も登場したりします。

学力試験と同じ

これは,たとえば国語の学力テストを思い浮かべてもらえば良いと思いのではないでしょうか。

国語のテストには,漢字の問題,文法の問題,古事成語や四字熟語の問題,それから現代文の読解,小説の読解,古文に漢文に接続詞に......と,色々なタイプの問題が登場します。

でも,全体として「国語のテスト」ですし,全体で得点を合計して国語の点数とします。でも国語は国語であって,国語のテストなのに漢字の問題だけとか四字熟語だけでテストができていては,国語の学力は反映していますし国語の一部ではありますが,それで「国語のテスト」だとは言えないだろうなと想像できるのではないでしょうか。

同じように心理学でも,複数の質問の得点を合計して,ある心理的な傾向の得点を算出します。複数の質問があるのは,国語のように測定したい範囲をカバーするためと,たまたまそこに回答したということを避けて安定した結果を得ようとするためです。

このように考えると,何度も繰り返して似た質問に答えることの理由がわかりやすいかもしれません。

「学力試験は勉強したことを答えるけれど,性格の測定はそうではないのでは」と言いたくなるかもしれませんが,得られたデータの処理方法には違いがありません。その部分は技術的には変わらないということです。

短い尺度

とはいえ研究や応用を考えた時には,質問項目がたくさんあることがデメリットになってしまうことがあります。

たとえば,次々と異なる対象に何度も繰り返して調査をしなければいけないような場合です。この記事のように,いくつかの部屋を訪れて部屋の雰囲気だけをみて持ち主の性格を評価するとか。

何部屋も調査していきますので,質問項目がたくさんあると大変なことになります。1回の回答で50項目に回答すると,4部屋について回答するだけで200項目になってしまいまうのです。

もしもその50項目とほぼ同じ情報を10項目で測定できるのであれば,200項目で20部屋も回答できることになります。

また,調査会社にweb調査を依頼すると,質問項目の多さで値段が変わってきます。研究費が潤沢ではない研究者にとって,質問項目の少なさは経費の節約につながり,国から研究費が出ているのであれば税金の節約になり,研究成果が増えることにもつながるというわけです。

さらに,限られたスペースで調査をしなければならないことがあります。往復ハガキ1枚で調査をしなければならない場合とか。30項目をそこに入れるのは難しくても,10項目なら入るかもしれません。項目の少なさは,研究上の物理的な限界による不可能性を可能にしてくれるのです。

ビッグ・ファイブ

この20年〜30年でいちばんよく使われるようになった性格モデルのひとつは,ビッグ・ファイブ・パーソナリティです。その詳細は他を見てもらうとして......

多くの研究で検討されている性格モデルなのですが,5つの次元について測定する必要があります。

◎NEO-IP-R:240項目
◎NEO-FFI:60項目
◎BFS:60項目

などなど,ビッグ・ファイブを測定する尺度はこれまでにいくつも開発されているのですが,多くの質問項目に回答しなければいけません。これが,研究を妨げるひとつの要因になってしまってはもったいないことです。

研究者によっては,独自に項目数を減らすことを考えるかもしれません。でもそれぞれの研究者が自分の判断で少なくしていると,研究間で結果を比較できなくなってしまいます。

超・縮約

そんな中,海外ではとても少ない数の質問項目で心理尺度を作るという動きが出てきました。

このことについては,日本心理学会が出している心理学ワールド第68号に書いたことがあります(心理テストは信用できるのか)。1項目で幸福感を測定したり,愛着スタイルを4つの選択肢で測定したりする尺度は多くの研究で使われていますし,自尊感情やナルシシズムを1項目で測る,という試みも行われています。

海外では,「5項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度」もいくつか作られています。ただし,それについてはさすがに妥当性について疑問視されているのも現状です。

TIPI

その流れのなかのひとつが,Ten Item Personality Inventory(TIPI)です。発音は「ティピ」です。英語で「tipi」というのは,ネイティブアメリカンのテントのことでもあります。見出し画像は,私がアメリカの観光牧場にあったtipiの説明を撮影してきたものです。

TIPIは,たった10項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティの5つの次元を測定することを試みる心理尺度です。その日本語版を作成した論文が,『日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J)作成の試み』です。日本語版なのでTIPI-Jという名前にしています。

TIPI-Jは少ない質問項目で測定しますので,できるだけ多くの既存のビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度と関連を確認することを試みています。

この論文で検討しなかったNEO-PI-Rとの関連はこちらの論文で確認しています。また,日本語のTIPI-Jと英語版のビッグ・ファイブ・パーソナリティ尺度(BFI)を同時に実施して関連を確認した論文もあります。

TIPI-Jの特徴

ビッグ・ファイブ・パーソナリティは,もともと数千語の単語をまとめていった研究の歴史をもちますので,広い概念の範囲を測定する必要があります。

それをたった2つのペアとなる質問項目(を5次元で10項目)で測定しようとするわけですから,これはとても無茶な話です。

そこでTIPI-Jは,次の工夫をしています。

◎正方向の質問項目と,逆転項目のペアで1つの次元を測定する
◎1項目はわざとダブルバーレル質問(1つの質問項目に2つの意味を含める)にしており,それらに対してだいたいの意味内容を答えてもらう
◎2つのペアの質問項目の相関係数は高くないようにし,広い概念範囲を測定できるようにする(α係数を算出しても意味はない)

禁じ手をあえてやっている

この尺度ではいくつかのことをわざとやっていて,その中にはふつう「これはやってはいけない」と言われるようなことも含まれています。ダブルバーレル質問や,ペアの質問項目の相関係数を高くしない(内的整合性を高めない)といったことです。

以下の話は少し専門的な内容になりますので,わからなければ飛ばしてもらって構いません。

禁じ手のようなことをあえてしている背景には,帯域幅と忠実度のジレンマ(bandwidth-fidelity trade-off; dilemma)という問題があります。これは,内的整合性を高めると幅広い範囲を測定することができなくなってしまい,幅広い範囲を測定しようとすると内的整合性が低くなってしまうという問題です。

もちろん,質問項目を多くすればこのジレンマは解消されるのですが,もともと「少ない質問項目で測定する」ことを目的としている尺度なのですから,その解決策をとることはポリシーに反します。

そこでTIPIは,あえて「内的整合性を軽視」することを試みています。内的整合性については考えません。普通の尺度で内的整合性の指標になるα係数も算出しません(そもそも2項目でα係数を算出してもあまり意味はありませんので)。もし算出しても,悲惨な数値になります。対応する2項目は,そこそこ低い相関があれば十分です(相関係数の大きさは下位次元によります)。あえてそうしているのです。

その代わり,信頼性は再検査信頼性で確認しています。そしてそれ以上に,既存のビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度との間の関連をこれでもかと執拗に確認して,だいたいうまく測定できるように質問項目の表現を調整しました(何度も予備調査をして項目表現を決めていきました)。

こういうちょっと普通の心理尺度とは異なるチャレンジをしている点が,この尺度を面白いと感じたひとつのポイントです。当時この論文を書いたときには,あまりに他の心理尺度の作り方とは違っていましたので,投稿して査読者にこの考え方が簡単に受け入れられるとは思っていませんでした。投稿した論文も「査読者に意図を理解されず,リジェクトされるかもしれないな」と思っていたくらいです。

方向はわかるけれど

結果的に,TIPI-Jはビッグ・ファイブ・パーソナリティのそれぞれの次元の方向におおよそ満足のいく測定ができるようになっているのではないかと思います。これまで自分自身でも何度も使っていますが,だいたい理論どおりの結果を示してくれます。

ただし,方向はわかるのですが,相関係数の大きさはやや低めに出るという特徴もあるように思います。方向は正しいけれど,距離はわかりづらい指標になっているかもしれません。

そもそも10項目でできるだけうまく測定しようとする尺度なのですから,そのあたりは割り切ってもらうと良いと思います。もっと正しく測定するには,やはりもっと多くの質問項目が必要なのです。非常に簡便な尺度は,それが必要とされる場面で生かされるものだと思います。

高齢者・Web調査

なお他にも,TIPI-Jの適用範囲や妥当性について検討した論文があります。たとえば,『中高年者における「日本語版Ten-Item Personality Inventory」(TIPI-J)の標準値ならびに性差・年齢差の検討』という論文です。この論文では,高齢者を対象にTIPI-Jを適用できるのかどうかを検討しています。

また,『公募型Web調査におけるTIPI-Jの利用可能性の検討』では,Web調査でのTIPI-Jの適用を検討しています。

いずれも,結果的にはそれなりにうまく測定はできているようです。

質問内容

TIPI-Jの質問項目内容は論文を見てもらうか,研究室のページを見てもらえればと思います。質問フォームのpdfファイルがありますのでそちらをご覧ください。

ということで,機会があればぜひご使用いただければと思います。なおご使用の際には,下記文献を引用してください。

なお,商用利用を検討される場合は必ずご連絡ください。基本的に商用利用は認めていませんので,代替案を提案いたします。

◎小塩真司・阿部晋吾・カトローニ ピノ (2012). 日本語版Ten Item Personality Inventory (TIPI-J)作成の試み パーソナリティ研究, 21, 40-52.  doi: 10.2132/personality.21.40 (Oshio, A., Abe, S., & Cutrone, P. (2012). Development, reliability, and validity of the Japanese version of Ten Item Personality Inventory (TIPI-J). The Japanese Journal of Personality, 21, 40-52.)
◎Oshio, A., Abe, S., Cutrone, P., & Gosling, S. D. (2013). Big Five content representation of the Japanese version of the Ten-Item Personality Inventory. Psychology, 4, 924-929. doi: 10.4236/psych.2013.412133
◎Oshio, A., Abe, S., Cutrone, P., & Gosling, S. D. (2014). Further validity of the Japanese version of the Ten Item Personality Inventory (TIPI-J): Cross-language evidence for content validity. Journal of Individual Differences, 35, 236-244. doi: 10.1027/1614-0001/a000145

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