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項目が少ない尺度は大きな問題をもたらすのか

「心理学のアンケートは質問項目が多い」というのは,多分野の研究者からよく指摘されるところです。心理学では,ある構成概念を本当に測定することができているのか,というところに研究の大きな労力を割きます。そのなかでは,信頼性と妥当性を確保して,ある程度安定して測定するために,複数の質問を組み合わせてひとつの概念を測定するということが行われます。

まるで,複数の問題を用意して国語,数学,英語などのテストをつくるようなものです。いや,考え方は全くと言っていいほど同じなのです。

また,ある概念を測定する道具(心理尺度)をつくるだけで論文になる,というのも他の分野にはない特徴かもしれません。最近は周辺の研究分野もそうなってきている面がありますが。

労力の問題

一方で,アンケートに回答する立場からすると,同じような質問項目に何度も何度も回答するのは苦痛です。数多くの質問に答えることになれば動機づけも下がってしまい,回答もいい加減なものになっていきます。

そんなときは,非常に項目数が少ない心理尺度の意味が大きくなります。でもこのあたりはジレンマで,回答の労力を軽減して項目数を少なくすれば,それだけ得られる情報はいいかげんなものになります。でも一方で,項目数が増えればより正しい情報が手に入る可能性は高くなるのですが,一方で回答は大変になっていきます。まさにトレードオフのような関係がそこには生じるということです。

最適解はどのあたりにあるのでしょうか。

ビッグ・ファイブ・パーソナリティ

ビッグ・ファイブ・パーソナリティを測定する尺度についても,多いものだと200項目以上,少ないもので「たった5項目」(1つの次元で1項目ずつ)という心理尺度がこれまでに開発されています。5項目でビッグ・ファイブ・パーソナリティの5つを測定する,というものは日本語にはなっていないのですが,10項目で測定する尺度については開発されています。

この尺度の翻訳については,以前も記事で書いたことがあります。

短い尺度の検討

非常に項目数が少ない尺度を使う場合に注意する点はどこにあるのでしょうか。

まずは内的整合性の問題です。心理尺度では複数の質問項目が互いに同じ一定の方向を測定していることをもって,内的整合性という信頼性の指標としています。これにはα係数(クロンバックのα係数)という指標がよく用いられるのですが,α係数は尺度に含まれる項目数が多いと高くなる,という性質もあります。

つまり,項目数が少ない尺度でα係数を算出するのはそもそもちょっと不利であり,かつそれでも十分なα係数が出てくるというのは,「互いにとても似た質問項目になっている」(ほとんど同じ質問を繰り返している)ということも意味します。すると逆に,「同じ質問だけを繰り返していて,概念の範囲を十分に測定することができていない」という問題が生じてきます。ここにも,トレードオフの関係が生じるというわけです。

もうひとつの問題は,基準関連妥当性です。パーソナリティ特性というのは概念の範囲が広くて,世の中のいろいろな結果(成績や業績や健康などなど)を「広く」「薄く」予測するのに役立ちます。一方で,項目数が少なくなると,概念の範囲の「ある一部分」だけを測定することになりますので,広いいろいろな結果の「一部だけ」を予測することになってしまうという可能性が出てきます。

実はこのあたりの問題は,こちらの本でも取りあげた問題です。こちらの本もぜひどうぞ。

メタ分析で検討

今回は,短い尺度の問題をメタ分析で検討したこちらの論文を見ながら,特に最後の考察で注意が喚起されている点をピックアップして見たいと思います。では,見ていきましょう(Are small measures big problems? A meta-analytic investigation of brief measures of the Big Five)。

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