「性格が◯歳で完成する」という時に考えるべきいろいろな安定性

「○歳で性格は完成する」という言葉はよく耳にするのではないでしょうか。

では,「どういう状態になったら性格が完成すると言えるのか」と質問したら,どう答えるでしょうか。ここでは,心理的な特徴が時間とともに安定するとはどういうことなのかを考える必要があります。

得点を考える

まず大前提なのですが,性格(パーソナリティ)をタイプ(類型)ではなく,特性(次元)で考えます。いわば,モノサシや数直線のようなもので,高い得点から低い得点まで,人々が並んでいくイメージです。学力テストの得点のようなものをイメージしても構いませんし,身長や体重の数値をイメージしても構いません。

このような場合に,心理的な特徴が時間とともに安定しているというのはどのような状態を指すのでしょうか。次のように,何種類かの「安定性」を考えることができます。

平均値の安定性

時間が経過しても,ある集団の得点の平均値が一定のままであまり上下に動かないことを,平均値の安定性といいます。

これまでの研究でも,成人期を通じてビッグ・ファイブ・パーソナリティの協調性や勤勉性は年齢とともに平均値が上昇し,神経症傾向は低下していく様子が報告されています。自尊感情は成人期を通じて上昇しますし,レジリエンスも上昇していきます。

もしも,ある年齢以降に平均値がほとんど変わらなくなるなら「そこでパーソナリティは完成する」と言えるのかもしれませんが,今のところの研究結果は,生涯にわたって集団の平均値は動いていくと言えそうです。

順位の安定性

次の観点は,順位の安定性です。パーソナリティが完成すれば,あるパーソナリティ特性の得点が高い人は高いまま,低い人は低いままに時間が経過していくはずです。これは,2つの時点で順位があまり変動しないことで表現されます。

この順位の変動しない様子は,2時点の相関係数の高さに表されます。相関係数が高ければ安定していますし,低ければ不安定です。そして,年齢ごとにみていったときに,ある年齢で相関係数がほとんど1になって安定するなら,そこで「性格は完成した」とみなすことができるはずです。

ところが,これまでの研究を見てみると,相関係数がほぼ1になって安定するような年齢というものはなさそうです。

構造の安定性

次に考えるのは,ある得点と別の得点との関係性です。変数Aと変数Bの間の関連(相関係数)が年齢とともに変わっていくことを,構造が不安定だと表現します。そして,年齢を経ても関係が変わらないことを,構造が安定していると表現します。青年と成人を比べると,因子分析の結果が大きく変わってきてしまう,などの結果がこの不安定さにかかわる問題です。

パーソナリティがある年齢で完成するなら,パーソナリティ特性の間の関係性が安定するようになるはずです。これについてはどうでしょうね……(研究者としては,研究上,あまり年齢とともに構造が変わってしまうのは望ましい状態ではないのですが……)。

個人レベルの安定性

集団の平均値の問題ではなく,個々人の得点について見たときに,時間を通じて差が生じるかどうかという問題が,個人レベルの安定性(不安定性)です。これは,2時点の得点の傾き(最初の平均値から次の平均値)のまわりに,どれくらいの個々人のばらつきがあるかを検討することで検討することができます。

実際問題として,2時点で平均値が上昇したり下降したりするとしても,個々人で見ると大きく上昇する人も大きく下降する人もいれば,ほとんど変わらない人も存在します。個々人で見れば,安定した人も不安定な人もいるということは自然なことですし,それがなぜ生じるのかを研究することも重要な課題だと言えます。

イプサティブな安定性

最後に,イプサティブな安定性(ipsative stability)という言葉で表現される問題を取り上げます。ただし,この「イプサティブ」という単語を日本語に上手く翻訳できないのですよね……。

心理学でときどき,「イプサティブな測定」という言葉が用いられます。これは,2つの異なる選択肢から選ぶような測定方法です。「外向性」と「開放性」のどちらを選びますか?といった測定方法です。

このことから,イプサティブな安定性というのは,複数の指標で個人のパーソナリティを測定したときに,ある特性が別の特性よりも高い(低い)という関係性が,時間を超えてもどれくらい安定しているかを問題にすることを指します。ビッグ・ファイブ・パーソナリティのうち,外向性がほかよりも高い状態が何年も続く,というイメージが,イプサティブな安定性がある状態です。

どの話をしている?

このように,一口に「性格が安定している」「性格が不安定」「性格が完成する」と言ったとしても,今回取り上げたうちのどれになるかが大きな問題です。

さて,みなさんのイメージはどれに近いのでしょうか?


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