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さよなら私のエヴァンゲリオンー始まりの終わり

先日『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観に行った。自他ともに認めるエヴァオタクの私は、公開以降、入場特典の変更や舞台挨拶などのタイミングで再訪し、通算4回目の鑑賞になる。
そんなシンエヴァも7月21日に終映するという。

当初予定されていた本作の公開日は2020年6月27日だった。それが、緊急事態宣言発令により2度の公開延期を経て、2021年3月8日にようやく公開となった。ファンにとっては、おあずけをくらった分、期待値はどんどん膨らみ、エヴァンゲリオンシリーズの最終作ということもあって私のように何度も劇場に足を運んでいる人も多いだろう。
しかし、実はそもそもの完結編は2013年公開の予定だったのだ。前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』の公開は2012年。私たちエヴァファンは、実に9年も、この作品を待っていた。

あれから9年。
9年前も、私は今と変わらずエヴァオタクだった。

遡ること2012年7月1日、前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』が公開する前のこと。
新宿のバルト9という映画館の壁面に『EVA-EXTRA 08』が上映される、という情報を聞きつけた私は、夜の新宿通りに向かっていた。『EVA-EXTRA 08』とは当時発行されていた、エヴァ劇場版の情報が掲載されたフリーペーパーだ。フリーペーパーなのに上映? いったい何が起きるのか?
何か分からないが、行くしかない。
この時点で、まだエヴァQの公開は2012年、ということまでしか明かされていなかった。おそらく新作の映像が映し出されるだろう。そんな貴重な映像を、誰よりも早く、リアルタイムで観たい。そんなオタク心をくすぐるイベントだった。

夜21時。小雨の降る新宿通りは、まるでお祭りのような人混みで埋め尽くされていた。エヴァ目当てで来ている人がほとんどだが、たまたまそこにいた人たちも、何、何? 何が始まるの? と興味深げにこのイベントに注目していた。公式発表によると、約5000人が集まったという。

興奮が高まる中、バルト9の壁面にエヴァとタイアップしている商品やサービスのコマーシャル映像が次々と映し出される。ゲーム、アパレル、カーナビ、髭剃り。いかにエヴァというコンテンツが広く展開されているかが分かる。

しかし、私たちが見たいのは、それではない。
早く、
早くエヴァQの情報を!

そんな、焦らされた後の一瞬の間。
バルト9壁面に映し出される「EVA EXTRA 08」の文字と、60秒のカウントダウン。周りの熱気が一気に上昇する。
ついに始まる、という期待感。
何が始まるのか、という緊張感。
長い60秒。
……03、02、01。

エヴァの予告でおなじみの曲とともに、PLAY BACKの文字。
今ここにいるファンが何度も観たであろう、前々作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』、前作『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』のダイジェスト映像が流れた。前作は2009年、3年前だ。懐かしいようで、不思議と最近まで観ていたような感覚。映画の公開が終わった後も、エヴァは私たちの日常に何度も現れている。さきほど流れていた様々なコラボ商品が良い例だ。エヴァというコンテンツは、映像作品の枠を超えて、私たちを忘れさせない工夫を常に凝らし続けてきた。まさに、私たちの中に生き続けてきた。

そして。
ついに。
ファンにはおなじみの、黒背景に白文字で書かれた「予告」の文字。
ついに来た。
ここから先は、まだ誰も見たことがない。
今、私たちは、世紀の瞬間の目撃者になる。
息ができない。
瞬きもできない。

始まる。

赤い機体。赤い地球。宇宙空間で何かと戦っている、メインキャラクターの1人、式波・アスカ・ラングレー。
何が起こっているのか分からないが、何かが起こっていることが分かる。
これが、エヴァQ。

映像が再び文字に変わる。
「次回 ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」
そうだ。私たちが待っている、エヴァの新作。
「西暦2012年」
今年。今は7月。いつ。いつ?
「11月17日」
この瞬間。
新宿通りに、今日一番の歓声が沸き上がる。
ワールドカップで日本が勝利した瞬間のような、あの歓声。
ついに来た。
ついに決まった。
私たちが待ち望んでいた、始まりの時が。
ここにいる5000人が、みな同じ気持ちだ。
共感が共振し、共鳴する。
カウントダウンから、たった3分弱の出来事だった。

エヴァに興味がない人にとっては、「え? それだけ?」と思うだろう。
しかし、そこにいたエヴァファンはみな一様に、興奮し、笑顔を浮かべ、瞳を輝かせていた。この日が公式な情報解禁日となり、私たちは誰よりも早く、その瞬間を目撃したことになる。
エヴァというコンテンツは、本当にオタク心を刺激するのがうまい。
公開日と予告映像なんて、ネットで流せば一瞬で世界中に届く。しかし、日本の、新宿のほんの一区画で、ビルの壁面という、上映に最適とは言えない環境で、5000人に向けて、その情報を発信した。
しかしその5000人は、たった3分の情報のために駆け付けるようなコアファンだ。夜に新宿に行くことができる、限られた人たちだけが得られる感動。そう、オタクは「限定」に弱い。
モニターの向こうでは感じられない興奮を、SNSで拡散し、公開日という単なる文字情報は、生命を持った塊として世に放たれる。
そうしてエヴァQは、ファンの期待と希望と感謝に包まれて、予定通り公開された。

あれから9年が過ぎ、エヴァンゲリオンは終幕する。
思えば、1990年代のTVシリーズから観てきた私は、人生の半分くらいをエヴァと過ごしてきたことになる。新宿で感じたあの日の興奮を、今も忘れない。雨が降っていて蒸し暑い、夜の新宿の人混みなんて、若かったからこそ行けたのかもしれない。エヴァは私の人生のタイミングともシンクロしていた。
新しい作品としては終了しても、エヴァというコンテンツはこれからも生き続けるだろう。
おつかれ、エヴァンゲリオン。
さよなら、私のエヴァンゲリオン。



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