ネットワーク化する人間

 すべてのモノがインターネットに繋がるIoT時代、もちろんモノにはヒトが含まれます。日経電子版の記事『ノリノリなのに真顔 ライブ客の真の反応、AIが分析』他は、目と耳を獲得したAIが、カメラとマイクを使って人間の膨大な情報を収集する時代が到来したことを、改めて認識させてくれます。携帯電話や家電と同じようにインターネットと接続しスマート化する人間、IoTデバイス化する人間は、まるでSFのような究極のネットワーク社会をどのように生きていくのでしょうか?

 『ノリノリの曲で真顔』の事例は、ライブ会場に設置したカメラでリアルタイムに収集する顔の情報を、ITビック5などのAIサービスに送り、来場者の属性(年代、性別)を把握、感情(喜び・驚き・悲しみ・怒り・嫌悪感・軽蔑・恐れ・中立)を検出します。分析した結果は、ライブ演奏の曲順や演出などの最適化に使われ、コンサートのUX(ユーザー・エクスペリエンス)の最大化が図られます。この技術が映画に応用されると、編集の最適化などに使われることになります。このような人間の感情の収集は――

① エンタメのみならず、リアル店舗での購買行動の分析、セキュリティー・警備などの監視等々、応用は広範囲に渡りそうです。② プラットフォーマーのAIサービスを利用すれば、SNSの時同様、ITビックに情報が集中しそうです。

『米アマゾン「目を持つAI」の威力』の事例は、カメラを備えたスマートスピーカーによって、消費者を見える化し、消費オケージョン(場面と状況)に関するデータを蓄積します。スマートスピーカーのハンズフリーなUXは、ストレスレス故に習慣性があり、その分データの蓄積が早まります。人間に自然なインタラクションである音声インターフェースが、人間とAIを親和させ、膨大なデータが収集されるようになるのです。

このようにして収集されたデータの活用(レコメンドなど)は、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)によって行われるのが最大の特徴です。APIなので、外部企業は、自身に特化したソフトウェアをプラットフォーマーのソフトウェアに埋め込む事ができます。その効果は絶大で――

① 外部企業は、時間とコストを大幅に圧縮して、効率的にサービスを開発できる。② 多様なサービスが開発され、スマートスピーカーは、どんどん便利になっていく。③ 外部企業は、プラットフォーマーのユーザー情報を使って自身のサービスにログインできる機能を作れるため、改めて会員登録してもらう必要がない。④ 外部企業にとって、利便性の高い自身のサービスをプラットフォーマーの経済圏で運用するリターンは大きい。⑤ プラットフォーマーのAIを中心としたAI経済圏ができる。⑥ 購買チャネルのECシフトが加速する。

行動や感情はもとより、人間の全てをセンシングして最適化を図る分野は、この他にも、医療、人手不足に対処する人員配置、熟練工の技能継承など多岐にわたります。その全てがセンシングされ、インターネットと繋がった、ネットワーク化する人間というのは、どういう存在なのか、哲学的な課題のようにも思えます。そんな中、確かに言えることは――

(1) 人間のネットワーク化は、人間の幸福が目的である。(2) 人間のネットワーク化は、人間の幸福の範囲で行われる。(3) 人間のネットワーク化は、データの保護、プライバシーの確保が前提である。(4) プラットフォーマーのAI経済圏は、放置すればデータの寡占が進行するエコシステムであり、特定のAIに権限が集中しないよう、規模の分散がなされなくてはならない。(5) AIに人間の倫理観を学習させる必要があるケースもある(医療分野など)。

現在進行形の第4次産業革命において加速していく人間のネットワーク化は、多くの利点と同時に、考えなくてはならないことを数多く内包していることは明らかです。

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO29542470Y8A410C1000000/

https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO2879175030032018000004

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