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『天使の翼』第11章(46)~吟遊詩人デイテのネバーエンディング・アドベンチャー~

 教授は、公女は、全く新しいアイデンティティを確立して、母の命日をもってして生まれ変わろうとした、と推測した。
 「利発な殿下のことですから、このままでは『自分』というものが無くなってしまうという不安に襲われ、相当前から綿密な計略を練って、ためらうことなく実行に移したと思われます……。実行の前に、計画の工程表のようなものは破棄してしまったでしょう」
 「手がかりはない、と?」
 「お付の者を尋問しても何も出ないでしょう……。放っておけば、デラ殿下の家出は成功する公算が高い……何と言っても銀河系は広いですからな。帝国の国境を越えたら、打つ手はありません」
 ――わたしは、思わず感想を漏らした。
 「その心理学の先生、まるでデラの家出を応援しているような口ぶりね!」
 ローラは、肩をすくめた。
 「私も、これ以上詳しいことは知らないけれど、捜査の方向性だけは完全に決まったわけ――『殿下は何者にならんとし、かつ、どこにいるのか?』……文字通り言葉だけで、実際には難問だわ!

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