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「本題 西尾維新対談集」 感想

この本は、作家の西尾維新さんの対談集です。
対談相手は、小林賢太郎さん(コメディアン・ラーメンズ所属)・荒川弘さん(漫画家・ハガレンの作者)・羽海野チカさん(漫画家・3月のライオンの作者)・辻村深月さん(作家・かがみの孤城野作者)・堀江敏幸(作家・熊の敷石の作者)さんの5人です。

めっちゃ面白かったので、特に興味深かったところを本書から拾っていきます。

ちなみに、僕は西尾維新さんを含め本書に登場する方の作品をほとんど読んだことがない(読んだことあるのはハガレンくらい)ですが、全然楽しめました。

キャラクターには自分が嫌だなと思う要素も入れる(西尾×荒川)

荒川さんはキャラクターの中にあえて自分が嫌だなと思う要素も入れているそうです。
「鋼の錬金術師」のエドワード兄弟だったら「人のことを考えすぎてしまう部分」とか。
そうすることで、キャラクターのバランスが取れたり、キャラクターに愛着がもてたりするそうです。

荒川:連載を進めるうえで心がけることとしては、キャラクターには、自分がいやだなと思うような要素も入れるようにはしていますね。バランス取るためなのかな。(中略)
西尾:人物の良いところも悪いところもどちらもちゃんと描いたり、本来なら美点なんだけれどもそれが行きすぎていて弱点になってしまっていたり、長所に練縛られていたりもするようなどもそれが行きすぎていて弱点になってしまっていたり長所に練縛られていたりもするような描き方も、荒川先生の漫画を読んでいて好きなところですね
(ソフトカバーP103、P104)

この話は日光東照宮陽明門の逆さ柱に似ているなと思いました。

ひふみ投信の藤野さんがcakesの対談で言ってた話なんですが。

日光東照宮陽明には12本の柱があります。
そのうち1本の柱だけ文様の向きが逆になっています(逆さ柱)。
これは完成形になった瞬間から物事の崩壊が始まるという考えから、わざと文様を逆にすることで完成形を崩しているそうです。

荒川さんも、キャラクターに自分の好きな部分だけを入れるのではなく、あえて嫌いな部分を入れることで完成形になるのを防いでいる点で日光東照宮の逆さ柱に似ていて面白いなぁと思いました。

ちなみに、藤野さんはこの考え方を自分のポートフォリオ(投資家が保有している金融商品の組み合わせ)を組む際にも採用していて、あえて自分が嫌いな会社などをポートフォリオに入れているそうです。

少なくとも同じ人間(西尾×羽海野)

羽海野さんは三十代に漫画デビューされるのですが、それまでは漫画を書くことを諦めていたそうです。
その理由は高野文子さんや多田由美さんといった漫画家の才能に圧倒されたからだそうです。
しかし、年を重ねて色んな作品に触れることで、自分が偉大だと思っていた漫画家達もみんな海外の絵の影響を受けている事などに気づき、「少なくとも同じ人間」なんだという実感を得るようになったそうです。

羽海野:どうしてこんなに素敵な絵が描けるのか見当もつかない、とかつては感じていた作家の方でさえも、海外の絵などを含めて、先行する芸術に影響を受けた痕跡が残っている、それぞれ、心の中の師匠がいてのすばらしさなんだとわかるようにもなっていて、そのへんでも「少なくとも同じ人間なんだ」と、ちょっとだけほっとしたんですよね。
(ソフトカバーP139)

話は変わりますが、シルク・ドゥ・ソレイユに史上初のヨーヨーパフォーマーとして出演したBLACKさんという人がいて、その方が自分の人生のターニングポイントについてこう語っています。

ターニングポイントがあって。僕が尊敬していたシルク・ドゥ・ソレイユのジャグラーが来日したとき、一緒に食事をすることになったんです。彼はジャグリング界では神様みたいな人。だけど食事の場では、鍋料理も食べるし、トイレにも行くし、この人、神様じゃなくて人間だなと。それで、もしかしたら自分にも、彼と同等とまではいかずとも、ある程度近づけるのかもって思ったんですよ。

羽海野さんもBLACKさんも、自分が尊敬する存在を崇め続けるのではなく、「自分と同じ人間だと捉えること」によって尊敬する存在に近づいていけるようになる過程が似ていて面白いなぁと思いました。

伏線の作り方(西尾×辻村)

辻村さんも西尾さんも作品を作る際には、緻密に設計してすすめるのではなくとりあえず書いて進めていくそうです。

そして、伏線も最初から考えているのではなく、途中まで作品ができた段階で前半を読み返すと気づくそうです。

辻村:途中で原稿を読み返すと、前に何気なく書いた部分から「あ!ここが伏線に使える」と気がつくんです。
西尾:それは、不思議ですけどほんとうにありますよね。自分で書いていたくせに、「あぁこれが伏線だったのか」って気づく(笑)。
辻村:前半を読み返していなければ伏線として機能せず終わっていたのかと思うと、恐ろしいですよね。(ソフトカバーP180)

話は変わりますが、漫画「SLAMDUNK」の中で有名な「大好きです」というセリフは最初と最後に2回出てきます。

そのセリフが生まれた過程について井上雄彦さんは、「漫画がはじまる」tこう語っています。

井上:うーん、あまり自覚的にやるほうではないんで、よくわからないですね
SLAM DUNK」の最初の「大好きです」と最後の「大好きです」についても、もちろん最初の「大好きです」を書いた時は、「最後にもう一回使うぞ」なんて思ってないわけです。
伊藤:あああ、こんなにものすごく、ものすごく、効果的なかっこいいところを、無自覚に……。じゃ、どうして最後にこれを出してきたんですか
井上:やっぱり、話が進んでくると、自分としてもストーリーを作っていくなかで、もがく部分が出てきます。そうした時に何に縋るかというと、結局自分の中にしかないんですね。答えというものが自分の中にある。または、自分がすでに描いたものに答えはある、というところに帰るんです。苦しい時には「原点に帰れ」とよく言いますけれど、それと似たようなことでしょうね。だから、答えは外から見つけてくるようなものではなくて、「もう描いているんじゃないか」というような、そういう直感のようなものがあります。だから、作品を何度も読み返しているうちにつながったんだと思います。(漫画がはじまるP76)

伏線を最初から張り巡らせていくのではなく、過去の自分が描いたものの中から見つけていく姿勢が三者に共通していて面白いなぁと思いました。

この「漫画がはじまる」という本も面白くて、noteに感想を書いたことがあるのでよろしければお読みください。

「本題」の中で面白かった部分は他にもいくつかあったので、続きは下記のnoteに書きました。


以上




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