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「ドリーム」

原題:Hidden Figures
監督:セオドア・メルフィ
制作国:アメリカ
製作年・上映時間:2016年 127min
キャスト:タラジ・P・ヘンソン、オクタビア・スペンサー、ジャネール・モネイ、ケビン・コスナー

 邦題の酷さについては再三触れ、もはや諦観の境地ではあるのだが今回は別格だった。正式に出たポスターはクレームにより「わたしたちのアポロ計画」が削除されたそうだが「ドリーム」は残った。そもそもこの映画の舞台はアポロ計画推進ではなく「マーキュリー計画」だ、杜撰過ぎる。
 「Hidden Figures」自体邦題を考えるにあたってそれ程難しい単語ではない。素直にNASAの開発メンバーには表立った舞台に立ち辛い黒人女性もいたことを言葉にしたならよかった。

 予告で使われた冒頭シーン。一見コミカルに見えても警官に止められた時の三人の黒人女性の心情は穏やかではなかった筈。現代でさえ肌の色が違う只それだけで命を奪われる警官絡みの事件は後を立たないのだ。邦題「ドリーム」とこの予告冒頭をセットにすると明るいサクセスストリーと誤解され易い。
 映画は1960年代当時科学最先端の場NASAにおいて影で支えていた黒人女性の姿を描いている。確かに前例がない世界で三人の女性は夫々先駆者になっていくが、女性という性だけでも男社会で仕事をすることが難しい中での更なるハンデを乗り越えていく姿は女性のサクセスストリーというよりも当時の社会を描いていると伝える方が近い。

 奴隷解放宣言が出されてから100年過ぎても完全な自由平等は訪れず、1960年代当時も「白人と非白人」の差別が公共の場にも至る所に残っていた。
 予定飛行士がNASAへ挨拶へ訪れた時、関係者は写真奥、つまり最初に手前位置で待っていた白人女性だけに紹介させるつもりだった。だが、フラットな精神の持ち主だったジョン・グレンは奥に控える黒人女性集団前まで進み握手を交わす。其処に居ても「居ないと見なす」差別は本当に辛い。

 多忙極める部署に異動になったキャサリンは度々化粧室へ行ったにしては長い離席が目立つようになる。とうとうしびれを切らし疑問の行動について上司ハリソンが何故かと問う。それに対し彼女は非白人用化粧室は「800m離れた別棟にあり仕方ないこと」を告げる。上の写真はハリソンが差別している化粧室看板を壊しているシーン。流れがこの辺りから変わっていく。州法でさえ黒人を差別していく中でNASAの中で少しづつではあるが変革されていく事例は画期的なことだっただろう。

 個人的にはCPUの大きな筐体の姿をはじめ、当時のコンピュータ事情は興味深かった。「IBMは International Business Machines Corporationの略です」と紹介場面も云われてみるとそうねだが、もう「IBM」でしっかり馴染んでいる現代。箱(CPU)があっても何も出来ないで手を拱いている状態の裏に映画タイトル「Hidden Figures」があった。

 左から初の女性技術者になったメアリー・ジャクソン、天才的な数学センスを買われ黒人女性で初めて宇宙特別研究本部に配属されたキャサリン・G・ジョンソン(*現在も建物に名を冠している)、導入されたIBMを見事に戦力に変えたデータ処理を統括したドロシー・ボ―ン。
 一人の人物を深く描き上げているわけではないのでその点は薄いが、この時代の黒人女性の置かれた社会情勢とその姿と捉えるのであれば、政治色も難しい論争等もなく観る人を選ばない。
★★


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