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「少女ファニーと運命の旅」

原題: Le voyage de Fanny
監督:ローラ・ドワイヨン
制作国:フランス・ベルギー
製作年・上映時間:2016年 96min
キャスト:レオニー・スーショー、ファンティーヌ・アルドゥアン、ヴィクトーレ・ムートレ、セシル・ドゥ・フランス

 意識しての選択ではなかったが今夏この作品を含め第二次世界大戦関係の映画をアメリカ(沖縄)、ドイツ、ポーランド、フランスと観ることになった。
 世界大戦と名が付くようにこの戦争は多くの国で激しい戦場だけでなくではなくあらゆる所で悲劇を産み、その多くは戦争が終わった後も深い傷跡を残し続けている。

 フランスで実際に行われていたユダヤ人子らの地下人道救済から話は始まり、途中大人の引率者失い9人の子だけでスイス国境を目指す過程を描いている。監督は原作者のインタヴュー、公文書等をあたり史実を追ったそうでファニーの完全な再現ではなくフィクションもあるそうだが、尋常ではない犠牲者数を考えるとフィクションと重なる多くの事例がある筈だ。この映画内容はそのまま受け取ってよいだろう。

 密告者によって別の施設へ移動せざるを得なくなった前日夜監督役マダムは幼い子らを起こし半ば眠りから覚めない朦朧した中で「あなたの名前はこれから…になるの。」と云わせていくシーンがある。どのような状況でもユダヤ人と知られてはならない配慮だった。フランス警官にとうとう捕まった上のシーンでも幼稚園生ほどのエリカは懸命に指導された通りに健気に答えていく。
 こうした大人の事情で子が嘘をつかざるをえない状況は本当に辛い。

 マダム・フォーマンも身の保全の為に偽造身分証明を使う。この活動が明るみになると彼女は死刑が待っているにも拘わらず、人種を超えた活動を行う。
 フランスでホロコーストの犠牲になったユダヤ人は77,320人。第二次世界大戦勃発時(1939年)フランスにいたユダヤ人の22.1%に相当。つまり、フランス人に摘発される一方で同じフランス人がユダヤ人の人々助けた結果8割近く命を助けられている。子らの逃亡劇だけではなくこうした当時のフランス人の姿を今浮かび上がらせることも映画の意図ではないか。

 年長のエリーには多少なりとも政治情勢が見えたとしても小学生低学年から下の子らには「ユダヤ人は悪いことなの?それなら辞めてしまえば?」と云わせるように世情の空気が自分らを許さないことを感覚で知って動くに過ぎない。エリーがいなくなってから代わってファニーが引率するがそれでも彼女も13才の幼さ。

 話が逸れる:スウェーデンのステイナ・サンデルス氏の実験によると6歳児の平均的な視野は左右(水平)で90度程度、上下(垂直)で70度程度とされている。一方大人は水平で150度、垂直で120度。身体的にも視野が狭い。政治情勢が適確に掴めないどころか身体的にもハンデを追った逃避行だ。映画では描かれていない途中で出会った人々の援助は大きかったことだろう。

 子の仕事は「遊ぶ」こと。
 緊張連続の中、ふとそれが途切れ遊びになるシーンが3回あった。本来の子のあるべき画を差し込むことでこの子らの苦境を逆説的に浮かび上がらせていた。とても無邪気に、今ドイツ兵からフランス警官から逃げていることを完全に忘れて遊ぶ時、この子らは自分の年令を取り戻していた。

 親から引き離されたこんな幼い子らを捕らえ、その上収容所に入れることに疑問を抱かせない戦争の怖さ。
 私たちは戦争を経験せずこうした形で戦争を知っていくが、対岸の火事では無く、一つの歴史事例ではなく同じ轍を踏まないよう意識に留めたい。
★★★

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