ヤクルトファンの悔しがり方

2019年5月14日から6月1日まで。一日天下の首位になった日も遠い昔、悪夢の16連敗を喫した東京ヤクルトスワローズは、日に日に重くなる空気をまとい、すべてのスワローズ戦士から笑顔を奪っていった。
そんな中、ヤクルトファンは明るく球場に通い続けた。いつでも「GO GO SWALLOWS!」と叫び、「こんなときこそ腕の見せ所」とばかりに、笑顔で神宮に居続けた。

私は、2019年2月からツイッターを始めた、ツイッター歴3か月の新参者だった。
ツイッターの文化も分からぬまま、かわいい雄平の写真を探す中、このとき非常に興味深い事象が沸き起こっていた。

他球団ファンがざわつき始めたのだ。

「悔しくないのかよ!」「いつも笑っているのが真のファンだと?」「応援するのみって言うんなら、一生応援だけしてろ!」

そのうち、「本当は悔しくても、悔しいと言えない空気になっているだけだ」という、ヤクルトファンコミュニティにおける同調圧力を指摘する声まで上がり始めた。
いや、ヤクルトファンでも罵詈雑言の意見は目にしている。誰の口もふさいではいない。

いつも笑っている、弱い球団のファン。これだけ負けが続けば、フラストレーションもたまるはずだ。
しかし、コイツらずっと楽しそうだ。弱い球団を応援して、何が楽しいんだ?

弱い強いではなく、好きだから応燕しているだけなのだが、それほど分かりにくい価値観なのだろうか。
まぁ、昭和の時代からそうだったから、なんとも思わない。弱いくせに、そんなブレない愛情もきっと、癇にも癪にも障るのだろう。

面白い意見があった。
「だから嫌なんだよ!いつでも笑って、打たれたピッチャーに“よく頑張った!次だ、次!”って。ヤクルトファンには勝った気がしない」
悔しがる弱い球団を尻目に優越感に浸ることもできない。暖簾に腕押しというやつだ。そんな風に見られてるんだ。面白い。

今日の先発は、4年目・金久保優斗。150km/hを超えるストレートを武器に、5回無失点被安打2という好投を見せ、勝ち投手の権利を得たまま、マウンドを降りた。

しかし7回、坂本光士郎-古賀優大のバッテリーエラーで1点、さらに、梅野雄吾が代打・廣岡大志からタイムリー3ベースを浴び、逆転を許した。今日はそのまま、2対1で敗れた。

金久保優斗は、東海大望洋から入団した直後にトミー・ジョン手術を受け、2年間を棒に振った。
3年目の昨季、ようやく初登板を果たし、今季、満を持して先発ローテーション入りを果たした。


悔 し く な い 訳 な い だ ろ う !


怪我でくすぶっていた金久保くんを、ずっと見てきたのだ。勝たせたいに決まっているだろう!

古賀優大は、試合終了後もずっとベンチに座ったままだった。せっかくの、スタメンマスクのチャンスだった。若いバッテリーで、必死に立ち向かった。ヒットも打って援護した。自分の捕逸で点を与え、元チームメイトにタイムリーを打たれた。勝てた試合だったかもしれない。勝ちたかった試合を落としてしまった。

後悔にさいなまれるこの若者たちを見て、ヤクルトファンが悔しくないわけがないだろう?それでもヤクルトファンは、金久保くんと古賀くんに、笑顔でこう語りかけるのだ。

「よく頑張った!次だ、次!」

これが、ヤクルトファンの悔しがり方だ。

R3.4.4 sun.
G 1-2 S
東京ドーム

追記
なんで!三塁まで到達し、力強く手を4回叩き、一塁ベンチにガッツポーズと笑顔を送る廣岡大志を見なきゃいけないんだ!
どうして大志が、ジャビットを抱いてヒーローインタビューを受けているんだ!
……大志のアームスリーブが、紺から黒に代わっていた。大志が、讀賣の選手の一員になった日だ。だから私は、廣岡大志に「やったね、大志。よかったね」と、拍手を送っている。
これが、ヤクルトファンの悔しがり方だ。

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