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神宮は今日も平和です

8回裏、ヤクルトの攻撃。ファイターズの守備交代を告げる場内アナウンスが流れる。

「ロニー・ロドリゲスに代わり、谷内が入りファースト」

拍手が沸き起こる。しかしそれは、球場全体が贈った拍手だった。

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谷内亮太がファイターズに移籍して、3年目になる。
2018年12月。電撃トレードで谷内を失ったヤクルトファンは、いつも動向を気にしていた。

移籍の動揺が消えなかった2019年3月。札幌ドームオープン戦で、谷内が立て続けにグラブで止めた打球を送球できず、連続して内野安打を許した、そのとき。

「やち!がんばれ!」

ビジター側のライトスタンドから、声が上がった。
谷内にエラーはついていない。なんなら、谷内が止めたから長打コースにならなかった。
谷内は悪くない。それでも、出塁を許したファイターズの谷内亮太を励ましたかったヤクルトファンの、谷内に対する愛情。それが、つい口をついて出た「やち!がんばれ!」の応燕だった。

今日この日まで、その愛情が薄れることはなかったようだ。
そりゃ、そうだ。私もずっと、谷内のことが気になっている。谷内が入団してからずっとずっと、大切にしてきたのだから。

谷内を慕っているのは、ファンだけではない。ヤクルトの選手は、出塁するたびに、塁上で谷内と話し込む。
世が世なら、星野仙一のカミナリが落ちるところだ。でも皆、谷内とは自然体で接することができる。

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敵チームに贈られた球場一周の拍手は、もう一度あった。

9回裏、クローザーとして登場した、杉浦稔大。ヤクルトの18番だった杉浦くんは、怪我で苦しんでいた。背番号が58まで重くなった2017年7月、トレードでファイターズに行ってしまった。

北海道出身の杉浦くん。ファイターズで先発ローテーション入りして、勝ち星を重ねている。
まぶしい活躍に、ヤクルトでの苦しみを見ている私は「これでよかったんだ」と自分を納得させていた。

今季から、クローザーに転向した杉浦くんは、サヨナラ負けを喫し、調子が上がらなかった。
今日はしっかり抑えないと。ベンチとファンの期待に応えた杉浦くんの危なげないピッチングで、ファイターズは今日、勝った。

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ヤクルトは負けた。拍手で迎えるなんて、敵に塩を送るようなことをしたからか?

だとしても、神宮に帰ってきた二人へ贈られた拍手は、ヤクルトファンの偽らざる気持ちだ。
真剣勝負はしている。温情はかけていない。だから、野球場という戦場の、この平和な時間もまた、偽らざる姿だ。

そして、10代の頃から30年以上いた私が思うこと。

神宮は、これくらい平和でちょうどいい。

R3.5.25 tue.
S 2-4 F セ・パ交流戦
明治神宮野球場

さて、明日は勝たないとね。ヤクルトちゃん。

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