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ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子と継がれる道~

■ 感想

「ビブリア古書堂の事件手帖Ⅳ~扉子と継がれる道~」三上延(KADOKAWA)P320

夏目漱石「鶉籠」の初版本を端緒に、昭和・平成・令和と三つの時代を巡る今回の事件手帖。

事の始まりは太平洋戦争の末期1945年に若宮大路に開店した貸本屋「鎌倉文庫」。その貸本屋は、中心メンバーとして、高見順、久米正雄、川端康成、中山義秀など、当時鎌倉に住んでいた文士たちがそれぞれに蔵書を持ち寄り、知人友人にも広く声をかけて集めた貸本屋で、夏目漱石の蔵書印が入った初版本や、永井荷風「墨東奇譚」、北原白秋「邪宗門」初版本など、お宝本まで貸し出していたというから驚きである。

開店当初は大盛況だったが、戦争が終わると鎌倉文庫は貸本屋だけでなく出版事業にも乗り出したことで文士たちはそちらが忙しくなり、貸本屋事業を千冊の蔵書たちと共に他の人に譲ってしまう。その後5年程で倒産となり、目も眩むような貴重本千冊のほとんどは売り払われたと言われているが、どういう人が買い取ったのか、数冊を除いてその行方は分からないままだった。

その幻となっている鎌倉文庫の貸本たちを現在の所有者へと繋いだ極秘作戦の中心には、栞子の母・智恵子が関係しているようで…。

高校生の頃の智恵子の時代から遡っていく今回の事件手帖には、今まで語られることのなかった栞子さんの父・登と、母・智恵子の馴れ初めも含まれ、ビブリアの成り立ちや栞子さんと文香ちゃん視点では見えなかった背景を知ることができるのも、ビブリアファンには嬉しい。

文豪たちを巡る稀覯本の行方を捜すミステリーは本好きにとり堪らない魅力に溢れ、共に探しているようで愉しさが爆発する時間だった。時間を超えて人と本が繋がる美しい光に満たされたエピローグは、本好きの桃源郷を見るよう。物語に耽り、身を浸すことの歓びに包まれた。

■ 漂流図書

■鶉籠|夏目漱石

「坊ちゃん」「二百十日」「草枕」が収められた「鶉籠」。

本作で大事な1冊「鶉籠」。いずれ読もうと積んでいる昭和46年の復刻版。これを機会に積読を崩して現代訳とは違う味わいで3作を堪能したい。

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