レストラン「Le tonton」へようこそ@大阪府の豊能町 中田淑一さん フランスの週間フードニュース 2022.02.04
今週のひとこと
大阪府の豊能町でお店「Le tonton」をオープンされた中田淑一さんからお便りがありました。開業されて2ヶ月になるそうです。
辻調理師専門学校を卒業されてから、同校で教鞭を握り、昨年の5月まで、32年勤め上げられました。フランスの併設校に日本人スタッフとして赴任もされていた方です。たくさんの料理人の方を育て上げたでしょう。東京・新富町にある「シンバ」というビストロに食事にうかがったとき、たまたまいらしていた中田さんを紹介されました。
パリのビストロ「レ・ザンファン・ルージュ」のシェフ篠塚さんと、やはりパリで修行されていた「シンバ」の菊地さんが友人で、「シンバ」のおいしさと雰囲気に魅せられ、東京では寄らせていただく店の一つに。
夏の「シンバ」では、一時帰国をしているパリのシェフたちに出くわす確率が高くなります。そんな友人関係から、中田さんの出会いに至りました。
中田淑一さんから、「スープ」を中心に料理について反芻されているとうかがっていました。料理研究家・辰巳芳子さんの「いのちのスープ」に感銘を受けられ、辰巳さんと親交を結ばれているということ。そのきっかけは17年前の36歳のときに、生死をさまよう大病を患い、点滴が命綱であったという経験をもたれたということでした。
「人の咀嚼音がいつもより大きく聞こえ、匂いが鼻をくすぐる。頭でアカンとわかっていても食欲と闘うのは修行のようだった」と、中田さんがリンクを送ってくださった豊能町公認記者が届ける「トヨノノPORTAL」に掲載された記事から、その頃の様子や思いが立ち上がってくるようです。この言葉は、私にとっても非常に辛く響きました。以来、ご自身の料理は「見栄えや自分をアピールするツールだったと振り返る。この経験から、素材選びや料理自体の考え方など、世界観が一変する」とも語っていらっしゃいます。
作るスープは豊能町で採れる旬の食材を使ったもの。中田さんご自身、今は亡くなられたお父様、施設に入られたお母様に作り続けたそうで、地元の方々からのご要望も絶えない。レストランでは、こうした人々の心を温めてくれるスープの提供、一人一人の要望に沿った料理を出すことを目標に、着実に一歩一歩を勧められ、地元の方々の心に根づき、料理とは何かということを、根本から体験させてくださる場所になるだろうと思います。
話題は変わるのですが銀座「すきやばし次郎」さんでの体験が思い起こされます。旬の魚を20貫で30分。次郎さんは野球のピッチャーで、私はキャッチャー。しっかり受け止めないと、次に進めない。スポーツに似た感覚を味わいました。もっともいい状態で魚を味わってもらいたい。そんな思いがこのスピードにもありましたし、山本益博さんがおっしゃていたように一曲の音楽のよう。一貫一貫の素晴らしさ、全体のハーモニーに感激したのですが、高齢の方、例えば両親を連れてはいけないなと思いました。何事にも旬があるのかもしれない。例えばルイヴィトンのバッグは、とても重くて、高齢になってからは持てませんよとフランスのマダムから言われたこともあります。
ところで、そのあと、次郎さんの本を読んだところ、カウンターに座られた方の調子を見て、食が細そうな方には、シャリを少なくし、小さく握っておられるのだそう。仔細なお客さんとのコミュニケーションを取られていたのだと、改めて考えさせられました。キャッチャーを見て、ピッチャーをつとめる。料理は、コミュニケーションの手段であることを改めて感じさせられますし、プロの料理人さんであれば、もっとも気をつけられていることかと思います。
故瀬戸内寂聴さんによると、死ぬ直前に人間は何を思い浮かべるかというと、ゆいいつ「愛」なのだそうです。成し遂げたことや名声ではなく、愛した人や愛した場所。そんな愛の姿に、料理が媒介となれたら、素敵だなと思います。そんな仕事を中田さんはされているのだなと思いながら。
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美食大国フランスから。週刊食関連ニュース
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