見出し画像

拝啓 札幌弘栄堂書店 様

気軽に立ち寄れる書店がなくなって、もう1年以上が過ぎた。


恵庭に住む母は、
恵み野の駅前にあった“イトーヨーカドー”が閉店したことをいつも嘆いていて、
それは、何かにつけて
“あぁ、イトーヨーカドーさえあれば”
とか
“イトーヨーカドーがあった頃は良かったなぁ”
などと、
遠い目をして懐かしみ、
まるで、小さい時の思い出を回想するかのようなテンションで
あの頃は良かったと語る人だったので、
その話を聞くたびに

「そんなに?」

と思っていた。
全然思っていた。

それが、まさか、自分の番になるだなんて。


札幌駅直結の商業施設paseoが、閉店するという話を聞いた時に、
一瞬心がピリッとした。

そりゃあ、聞いていたよ。
新幹線が来るんでしょ?
いずれはそういうことになるって、わかってた。
でもそれは、遠い先の未来のことであって、
“いつか、paseoも、なくなるかもしれない”
みたいな、
ノストラダムスの予言くらいの温度感だったのだ。

それが、あれよ、あれよというまに、
閉店しますよ、とか
移転しますよ、とか
これまでのご愛顧ありがとうございました、とか
そういう情報や言葉や空気が行き交って、
ついに、
2022年9月30日に閉店することが決まってしまったのだった。

私は20代の若い頃
paseo dd sound express
というラジオ番組を担当させて頂いたこともあり、
更に、もっと若い頃は、paseoでアルバイトをしていたこともあったので、
それはそれはたくさんの思い出が詰まった商業施設だったのだ。

色んな思い出がある中で、
絶対に、外せないのが
“札幌弘栄堂書店”の存在だ。
あぁ、文字を打つだけで、涙が滲む。
あんなに愛してたのに。って感じ。
あんなに愛してたのに、あなたはどこかへ行ってしまったのネ…。って感じ。

JR札幌駅西改札口を出ると、パセオの看板がみえてきて、
ズンズン進むと左手にスタバ、
右手に札幌弘栄堂書店がみえてくる。

“本”と大きく書かれた立体の看板が目印で、
堂々と、そこに「本屋がありますよ!」
と知らせてくれている。

この、弘栄堂書店が、大好きだったのだ。
多分おそらく、私の本棚にある本の半分くらいはこの本屋で買ったのではなかろうか。

そんなに広くない店内だけど、こだわりが随所に感じられた。
好みは人それぞれだし、趣味嗜好もそれぞれなはずなのに、
まるで、私が選んだかのような、
私の分身がここで働いているかのような
私好みの、選書、陳列、見せ方。

毎日通って、
それは、毎日のようにっていう比喩じゃないの。
熱でも出ない限りは、
文字通り、本当に“毎日”通い詰めて、
お馴染みのラインナップをみて安心する。

そして、その中に新しい本が紛れていたりすると、なんだか欲しくてたまらなくなる。
他の本屋さんで見ても、ときめかないのに、
弘栄堂書店で見つけると、途端にその本が輝き出す。
そういうお店づくりをしてくれている書店でした。

服部みれいさんのことを知ったのはこの書店だったな。

甲斐みのりさんのことを知れたのも、弘栄堂のおかげ。

「これがおすすめです」的な
「私が推します」的な、押し付けがましいことはしないのに、
熱が伝わる、その仕事っぷりに、
いつも惚れ惚れしていた。


なのに、弘栄堂書店は呆気なく2022年の9月30日に閉店してしまった。

アピアにも系列店舗があったので、
そこだけは残ると思っていたのに、
閉店の1ヶ月前に、いきなりクローズ。
全店舗、これを持って、閉店します。
という知らせに、本気で泣いた。
お店がなくなるというニュースで泣くのは、
後にも先にも弘栄堂書店だけだと思う。

そのくらい、私にとって日常であり、暮らしであり、欠かせない存在だったのだ。

今でも、朝早く札幌駅に着いてしまうと、ついつい西口に行く癖が残ってる。

欲しい雑誌の発売日に、朝イチで、誰より早く手に入れたいのに、
弘栄堂書店がなくて、一瞬パニックになってしまう。

そして、そんな時には、
イトーヨーカドーをなくした母のように

「弘栄堂書店があったらなぁ」

と呟くのでした。

………………

いい本屋はいっぱいある。
この、一年ちょいの間で、贔屓の本屋さんもできたし、
出来るだけ通って、愛着を深めるようにしている。

でも、特別だったなぁ、と。
弘栄堂書店で、最後に買った本を読み終えてしまって、改めて思いを馳せている。

嗚呼、弘栄堂書店。
きっと、復活なんてことはないはずだから。
せめて、あそこで働いてたスタッフさんたちが、元気に、今日も、本を愛していますように。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?