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ぐにゃりぐにゃり

時空がぐにゃりと歪む瞬間がある。

私がとても好きだと思っていた作家のことを、
とある人に紹介をして、
その人もその作家のことを好きになったのだけど、
きっと、何かの作品が気に入らなかったのだろう。

“素敵な人だけど、この人は世の中から忘れ去られる人だね”

と吐き捨てた。わざわざ、わたしに!

その瞬間、私の心の中で“ぐにゃり”と音がしたのだ。

ぐにゃりと時空が歪む、というのは、
私が、常々昔から感じてることなので、
実際に時空が歪んだわけではない。
なんとなく、そういうニュアンスだということをわかって欲しい。


大学時代、好きだった男の子の家にお泊まりをした。
何かあるのか、ないのか、わからないまま時はすぎた。
くるのか?こないのか?
その瞬間を、多分私は待っていた。
でも結局、何にもなく、ただただ飲み明かして、彼は寝てしまった。
本当に何もなかった。手すら触れなかった。
私は一睡も出来ずに、ぼんやりとワンルームの端っこに座って、漫画を読んでいたのだけど、
その続きの“◯巻”が、どうしても見当たらない。
よくないとは思いつつ、押入れの中を開けて探そうとすると、
当時女の子から絶大なる人気があったアパレルブランドの袋がでーんと置いてあった。
リボンをかけて、メッセージカードまでついて、ドラえもんのごとく、押入れでひっそり眠っていた。

私がそのプレゼントを貰うことはないなと。
ハッキリわかった。
もし私への贈り物だとしたら、昨夜渡して、その後、漫画なんか読ませず、彼とどうにかなっていたはずだった。

内心傷ついていたんだと思うけど、
その感情に気がつかないようにした。
そして、
「私帰るわ。駅に行くにはどっちに出ればいいの?」
と、グーグー寝ている彼をゆすって質問した。

すると、
「ザッツライト!トゥーレフト。」

と、寝言のような言葉が返ってきた。

私はこの男に何を期待していたのか。

また、ぐにゃりと音がする。


先日、夫が新たなる夕飯のメニューを開発した。
その名も「しょうゆ焼きそば」
ソース焼きそばに飽き飽きした子供達も、
パパの作るしょうゆ焼きそばは
美味しい美味しい!とモリモリ食べた。
どれどれ、私も食べてみようと、口に運んだ瞬間、
4歳の次女が、眉をハの字にしながら

「ねぇ?死ぬほど美味しいでしょう?」

と言った。

4歳が…死ぬほどとは…

ぐにゃり。

夜寝る前に、次女はしょうゆ焼きそばの興奮さめやらず、しょうゆ焼きそばの話ばかりしている。
「もやししか入ってないのにすごいよね」
「あの、味が美味しいよね」
「パパって天才だよね!」
「パパは会社を辞めて醤油焼きそば屋さんをやるといいよね!」

あまりに感動しているので、
つい聞いてみたくなる。

私 「ねぇ。じゃあ、ケーキとしょうゆ焼きそばはどっちが好き?」

娘 「しょうゆ焼きそば!!」

私 「そっか。じゃあ、ケーキとママはどっちが好き?」

娘 「それは、絶対ママ!ママが一番好き。」

私 「そっかぁ!じゃあ、しょうゆ焼きそばと、ママはどっちが好き?」

娘 「それはしょうゆ焼きそば!」


ぐにゃり。ぐにゃり。ぐにゃり。

傷つくとは違う。でも面白いともちょっと違う。
予期せぬ、滑稽な場面に出会した時に
ぐにゃり、ぐにゃり、と
音を立てて時空が歪むような気がする。

そんなわたしの日常は、大変愉快なのだ。

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