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5. 近道

近道

街灯のない見知らぬ田舎道
ヘッドライトは
闇で取り残されたように孤独な光のトンネル

白いクルタを纏ったひとりの男が
光の先に浮かびあがる 
二股道の分岐点に佇む大きな岩に腰をかけ
夜のとばりを一心に見つめている

埃にまみれ彷徨い疲れた車から
私は男に尋ねる
<どちらに行けば市街に戻れますか>
硬そうな口ひげが無表情に答える
<右に行ったら着ける 
左に行っても着ける
あなたの好きな方に行けばいい>
私は辛抱強くさらに尋ねる
<どちらが近道ですか>
透明な声が微かな戸惑いを載せて響く
<それならそうと最初から聞けばいい 
左だよ 
あなたが近道を知りたがっていると言われもせずに
どうして私がわかると思うのかね>

私はうろたえて黙り込む
闇で取り残された都会人のように
エンジン音だけが静寂に唸る
男は不思議そうに私を一瞥してから
とばりの向こうに瞳を戻す

*クルタ:インドの民族衣装。クルタ・パジャマ。

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