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乳がんになった私 #25「EC療法開始」

入院初日の夜はやはりあまり眠れなかったが、そんなことはお構い無しに病棟は6時起床。

起きてまず体重測定をし、シャワーを浴び、朝食を食べた。

しばらくすると、主治医のS先生が病室へやって来た。

S先生「昨日はお休みをもらっちゃってすみません。色々と体調が不安だと聞いたけど、どう?」

私「えっと、ここのところ咳が出るんですけど…この時期の黄砂アレルギーかなとは思いつつ不安で…あとは腰痛がひどいのと、右膝裏にずっと違和感があったり、手足に時々ピリピリとしびれを感じたり…夜もなかなか寝れなくて…」

S先生「なるほど…でもこの期間に急激にがんが進行して体調不良が現れたわけではないと思う。どうしても治療開始前の患者さんは不安や緊張が身体に現れて、そういった体調不良を訴える人が多いので。たぶん森さんは、治療開始前にライブがあったり、妊孕性温存で卵子凍結をしたり、色々と気を張ってかなり頑張ってたと思うんだよね。それがようやくひと段落して気が抜けて、治療に向かうっていうタイミングで一気にストレスが身体に現れたんじゃないかな。」

たしかにそう言われてみると、不調が出始めたのはライブを終えて、卵子凍結を終えたあたり。明らかにその時期だった。

S先生の言葉が優しくて泣けてきた。そうか、私、相当気を張っていたんだなあ。ポジティブでいることはとても良いことだけど、頑張りすぎるのも考えものだ。つくづく病気への向き合い方や心の持ち方って難しい。

S先生「今日からがんばりましょうね。」

私「はい、ありがとうございます。」

主治医がS先生で良かったなあと思った。



この後行うEC療法の点滴は、午前中から始めて3〜4時間かかる。2回目以降はもっと早く終わるそうだが、初回は慎重に投与するため時間がかかるらしい。

看護師さんが点滴の準備を持ってやってきた。

「もう少ししたら始めますからね〜。」

私は注射は割と平気な方だと思っている。子供の頃は病弱で、小児喘息がひどくてしょっちゅう病院へかかっていたし、バンドを始めてからも喉の炎症を治すために耳鼻咽喉科でよく注射や点滴をしてもらっていたため慣れていた。

だが、昨日薬剤師さんから受けた説明が私をかなりビビらせていた。

薬が血管外に漏れると大変なことになる。ひどい場合、皮膚が壊死する。

本当に怖すぎる。そんなに強い薬を身体の中に入れるのか…!



治療開始の時間になり、看護師さんと注射を担当する医師が病室へ入ってきた。(抗がん剤の投与を行うのはS先生ではない)

先生「手術前ですよね?がんは左右どっちですか?」

私「右です。」

先生「じゃあ右腕でやります。」

右利きだから左が良かったのに、なぜ右なんだろう…?がんに近い方から薬を入れた方が効くのか…!?

その理由は後に知ったのだが、今後もし手術で脇のリンパを切除することになった場合、リンパ浮腫と言って腕がパンパンにむくんでしまうことがあるらしい。むくんでしまった腕には注射が出来ない。そして、抗がん剤はかなり強い薬のため、血管が炎症を起こして痛くなったり、硬くなってしまうことも多いらしい。私の場合、右脇に転移があるため、術前の今のうちに右腕の血管を使っておいて、左手は術後のために綺麗な状態の血管を残しておこう、というわけだ。


先生が私の右腕の血管を探る。手首付近に太くて良さそうな血管が出ていたので、そこでやることになった。

針を刺された。

先生「痛くないですか?」

私「…痛い気がします、痛いです。」

どうやらうまくいかなかったようで針が抜かれた。

場所を変えて2度目のトライは肘付近。

今度はきちんと入っているようだった。

ただ、この痛いか痛くないかの判断がなかなか難しい。針を刺されているわけだから少なからず違和感はあるし、肘付近のような関節部分だとどうしても曲げたり動かしたりすると少し痛い気がした。

先生は退出し、ここからは看護師さんが薬を投与していく。

まずは抗がん剤の前に吐き気止めを投与。

すんなりと終わって、その後いよいよ登場のエピルビシン。

真っ赤な液体で見た目からして危険そう。なぜよりにもよってこんな色をしているのか…。

看護師さんは専用の防護服のようなものを身に纏い、ゴーグルをして、完全に全身を保護していた。

そこまでしなくてはいけないんだ…!と、さらに恐怖が増した。

看護師さん「それじゃあ始めていきますね。まずはゆっくり入れていくので、血管の痛みや息苦しさ、他にも急に熱くなったり身体がかゆくなったり、何か異変があったらすぐに言ってください。」


真っ赤な液体が、透明な管を通ってゆっくりと近付いてくる。

そして体内に入ってきた。


看護師さん「大丈夫そうですか?」

私「はい…!」

最初は大丈夫だったのだが、しばらくすると急に咳が出始めた。

私「ゴホッ、あれ、なんか咳が出てきました…」

私は喘息持ちなのだが、喘息の発作が出始める時と同じような感覚だった。気道が少し狭くなり、息を目一杯吸おうと思うと咳き込んでしまう感じだ。

私「あー…やっぱ咳が出ます…ゴホッ…なんか咳喘息みたいな感じです…ゴホゴホッ」

看護師さんは眉間に皺を寄せ考えているようだった。中断すべきか、どうするか…。

私「あの、咳は出るけどこれぐらいなので…ゴホッ…今のところ大丈夫だと思います…ゴホッ」

看護師さん「…じゃあ続けますが、ひどくなってきたらすぐに言ってください。」


心配ではあったが、感覚的に大丈夫そうなレベルの喘息だったので続けてもらうことにした。何より、せっかく始まった初回の抗がん剤治療を中断したくなかった…!

看護師さん「終わりました…!大丈夫ですか?」

赤い液体が全て流れ込み終わると、嘘みたいに咳が止まった。

そして次の薬、エンドキサンは何事もなく無事に終わった。

体内に初めて侵入してきた強い薬に対してのアレルギー反応だったのだと思うが、このぐらいで済んで良かった…。無事に終わって本当に良かった…。


薬の投与は終了したのだが、時間差で何か異変が起きた時のために、明日まで腕に針を刺しっぱなしにしておかなくてはならないらしい。この点滴用の針はプラスチック製のやわらかいものなので、腕を動かしても良いみたいなのだが、肘付近に刺されていたためさすがに肘を曲げると痛かった。

点滴が終わってすぐ、吐き気もなかったので昼食を食べた。右肘を曲げると痛いので、左手で食べ、左手で歯磨きをした。かなり不自由…!ピアノ演奏であんなに左手を使うのにな。

その後、テレビの取材用に頼まれていた動画を病室で撮ろうとしたのだが (病院に許可をもらっています)、なんだか少し船酔いのような気持ち悪さが出てきた。いったんやめてベッドに横になった。気持ち悪さが落ち着いてきたところで、初回の治療を終えた感想の動画を撮った。


その後もなんとな〜く気持ち悪かったので、夕食は少し残した。(左手で食べるのが難しすぎたのもある) 読書をしたりしてゆっくりと過ごしていると、右手がどんどんむくんできていることに気が付いた。


主治医のS先生が退勤前に病室を訪れてくれた。

S先生「無事に終わったようで良かったですね。点滴、そこに打ったんだ…?」

私「はい、1回目うまく入らなかったので刺し直したんです。肘の部分だから曲げると痛くて。あと、なんか右手がむくんできてて。」

S先生「確かに少しむくんでるかなあ?たぶんそのうち引くと思いますよ。ところで、昨日もあまり眠れなかったんだよね?睡眠導入剤を飲んでみますか?強くないものだから。飲んでぐっすり眠れた方が身体にとって良いと思うけど。」

私「そうですね…!じゃあ、お願いします!」

就寝時間が来るまで再びベッドで読書をしていたのだが、右手のむくみはひどくなっていった。指がパンパンになり拳を握れなくなっていた。そして針を刺しっぱなしにしている右肘付近が少し痛かった。

夜勤の看護師さんが眠剤を持って来てくれた。初めての眠剤。飲んでしばらくするとうとうとしてきて、眠れそうだと思ったのだが…

うーん…痛い…!

右肘の注射部分がジンジンと痛む。眠剤による眠気よりも痛みが勝っていた。

私はナースコールを押した。

(#26へ続く)
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