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小説|眠りたい森の美女

紡ぎ車の紡錘に指を刺してから
100年眠り続ける麗しき姫。

安らかに眠る姫の美しさに一目惚れした
一国の王子の口づけによって、
姫と、共に眠りについた国は
目覚めの時を迎える。

国民は復興のために、
忌まわしい茨を焼き払った。

無造作に生える生命に満ちた草木は
人によって刈り取られ、剪定される。
舗装された道の下で息づく種子は、
永遠に陽の光を浴びることができなくなった。

荒れ果てた大地に秩序と喧騒がもたらされ、
沈黙と安穏は失われた。

夢の中で共に歌った鳥の鳴き声も姿もなくなり、
姫は涙を流しながら100年と15年前の記憶をたどる。

姫に呪い《のろい》をかけた妖精は、
誰よりも草木と小さな生命たちを愛していた。
人間によって愛するものを奪われた哀しみに
寄り添ったのが、赤子の姫の魂だった。

「もう一度、この大地にあふれる生命を」

姫と妖精は約束をし、
妖精は姫に呪い《まじない》をかけた。
生命に満ちた大地の永遠の守護者となるために。

蘇る大地を守るために、
竜に姿を変えた妖精だったが、
王子の剣で絶命した。

「私と結婚してください」
100年後に目覚めた、清純な15歳の姫は
欲と権力が滲む男の顔に絶望する。

「もっと眠っていたかった」

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