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「言っていないよ」と言える強さを持ちたい

「キレイなワンピースだね。」その一言ですら、純粋な褒め言葉にも、間接的な嫌味にもなり得る。二人の時なら如何なる解釈も訂正の余地があり、相手の反応が刺々しければそう伝えれば良い。
しかし大人数の時は、話した内容は話者の意思から離れ、聞き手のうちの一人の理想の解釈がグループ全体に波及し得る。
こうしてある日、話者が悪者に仕立てあげられる。
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春ちゃんは、グループの雰囲気コントロールがうまかった。大学で2歳年下の子たちを差し置き、サラッとミスコン優勝を果たすだけの掌握術とそれを認める美貌を持つだけある。周囲は彼女の掌でコロっと心を操られる。

彼女は覚えてすらいなかった。しかし私は大好きな人たちから向けられた白い目とその時の虚しさを忘れられずにいる。
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春ちゃんは、Kちゃんが好きな男性の話しをすると、可愛く見えるポーズや泣き所のアドバイスをする。
女子会に集まったみんなは「さすが、春ちゃん」と褒め立てる。
しかし、春ちゃんはすきをみて私に「あの子、モテない。30年以上彼氏なしだよ」と耳打ちした。私が彼女の発言に顔が引きつったところ、この発言を私の発言にすり替える。

「やだー、りりい、Kちゃんモテないから無理だぁーって」

衝撃で頬が歪み、口がへの字に曲がって顔面蒼白で、目だけ春ちゃんを見た。言葉は出ない。一瞬、目が合った彼女の優越的な上目遣いと、少しすまして上げた顎が喜びに満ちていた。

なんとか否定しようと思うが、みんなの前で否定されたら彼女が可哀相とも思った。しかし、みんなの軽蔑した目を封じたく、唇を開けると
「飲み込ませる」と言わんばかりに、

「りりい、裏表やっばーい」

お美しいお顔に、桜が満開になったかのような満面の笑顔を作り、止めに発言を封じた後、
スッキリしたかのように飲んでるシャンパンについての話しに変わる。

衝撃のあまりため息も涙も出なかった。
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この先、言葉が通じなくなった。

Kちゃんが歩くたびに揺れる花柄のワンピースの裾の可愛らしいフリルすら、
私が純粋に褒めても侮辱に変わっていったのだ。
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なぜ?
元々、気配はあった。

始めて二人で食事に行ったときや友人の結婚式では、
店員さんにメニューにない食事を注文したあとお礼ではなく「アイツ使える」と言っていたし、
たまにくる電話では必ず誰かの悪口を言うので「春ちゃん、怖い。私の悪口は辞めてね」と言ったこともある。

目星を付けた相手を煽てみんなの前でヒーローにする。
こうして二人が仲良しと思わせる方法で周囲の人間の意思を上手く操り、
反面、心にそぐわない発言で溜まったストレスは話者を悪人にすることで解消していたのだ。

私も当初、「りりいは天然なんだからぁ」と話題の中心になるよう煽てられていたことを思い出す。
私は他人を拒絶することが可哀想と思い言い返しはしない。しかし、顔で拒否するゆえ、話題の中心を避けた私の表情が彼女の不快感を貯める要因だったのだろう。

彼女は私に対しグループ内で話題の中心にする愛情表現と、人格非難の悪口を上手く使い分けていた。
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もう仲良くはできない、だから聞いておきたかった。
「春ちゃんは何になりたいの?」
「教祖様だよ。私、可哀相な人が好きで、腹黒いから。りりいも私を見習って腹黒くなったほうが良いよ」

堂々と「教祖様になりたい」という絶世の美女は、既にその道に辿り着いているように見えた。
彼女は他人をコントロールする自らの才能を理解し、それを戦略的に駆使していたのだ。
そして気付いた時には、グループ全員が彼女に心を掴まれて信者の様になっていた。
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大好きな子だから可哀相と思った相手に、
気の毒な人と可哀相がられていた自分が情けない。
それでもせめてあの場にいたみんなには、いつか分かってもらいたいから「言っていない」と、言える人でいつかを待っていたい。

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