見出し画像

超短編『ヴィンテージカーにエアコンを』

 僕らの未来に曇りが見えた時。別れの兆しが見えたとき。

 そんなとき、ヴィンテージカーに乗れば最高さ

 けどミラーは割れ、ハンドルは外れかけ、タイヤは死んでいる。

『ドライブに行こう。海に連れて行ってあげるよ』

 キミが落ち込んでいたら。あるいはキミがひどく不安な午後を迎えていたら。
 そんなとき、ヴィンテージカーに乗れば最高さ。

 でも1kmごとにエンストするし、エアコンなんてもちろんない。

『早くこっちにおいでよ』

 パトカーのサイレンの音。ガラス越しには、怯えるキミ。僕は嬉しいことも、悲しいことも、違いが判らなくなったんだ。

 でもそんなとき、ヴィンテージカーに乗れば最高さ。

『こっちに来ないなら、僕の方からキミを迎えにいくよ』

 僕はバールを片手に、きみの家の窓をこじ開けた。逃げ惑う君の姿はとても可愛い。

 そしてあとは、ヴィンテージカーに乗れば最高なのさ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?