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ヤバい映画。その1【ヘレディタリー/継承】

恐怖の2時間ぶっ続けマッドホラー。

 2018年に公開されるやいなや、“21世紀最恐のホラー映画”だとか、“現代ホラー映画の頂点”だとか方々から大絶賛の嵐だった「ヘレディタリー/継承」。Rotten Tomatoesでも8.2点を記録し、ホラー映画にしてはまずまず高評価。確かに、映画としてはとても良くできている。ミニチュアとリアルを行き来しながら見せていく映像のつくりはなかなか新鮮だし、母親役のトニ・コレットはさすがの演技で、あの鬼気迫る顔はしばらく頭から離れない。がしかし、127分はちょっと長すぎやしませんか、アリ・アスター監督。「it/イット “それ”が見えたら、終わり。」も同じくらい長いのだけれど、ありゃ半分青春ドラマのライトホラー。(だとしてもあれは長すぎ。内容としては100分でも長い) その反面、「ヘレディタリー」は2時間ぶっ続けでド直球ホラーを眼に投げつけてくるのである。そもそも、長い映画は疲れる。むしろ、長いのに疲れない映画は往々にしてつまらない。そして大前提として、質の良いホラー映画は短時間で相当な体力を消耗する。だから2時間たゆまず恐怖心を煽られたりしたら、ろくに立ち上がる気力すら起きないのだ。

良いホラーは記憶に残らない。

 かれこれ4回「ヘレディタリー」を見たけれど、はじめて見たのは流山のシネコンだった。ちょうどLAからホームステイしに来ていた友人(彼はその時点ですでに3回見ていた)と彼女を連れて、ドライブがてら流山まで雨のなかレイトショーを見に行った。その友人もまあ相当なホラー映画好き。英語字幕がついてるホラーやパニック映画はほとんど見ているのではなかろうか。そんな彼が道中しきりに「今まで見たホラーのなかでトップクラスだ、マジで、恐怖に慄け」というから、こちらもそれ相応の覚悟をしていた。いつもはポップコーンとジンジャエールを抱えないと気が済まないのだけれど、この日だけは緊張感からか手ぶらでシアターに入った。終わったのは夜11時近かったはず。彼女を駅まで見送り、「よし帰ろう」と二人で駐車場まで戻ろうと迷子になったのが最後、全く記憶がないのである。なんだか豪雨のなか駐車場の入り口をさまよった記憶はあるけれど、帰りの車中でどんな会話をしていたのか、BGMはなんだったのか一向に思い出せない。行きにはPHOENIXの「If I Ever Feel Better」を友人が流して、懐かしいねーなんて喋っていた記憶があるのにも関わらず、だ。相当に疲れていたのだろう。記憶力が悪いだけじゃない?といわれるかもしれないが、それは全くの間違い。その数日前に友人がTinderで出会った女の子とリビングでセックスしかけていた記憶は酔っていながらもかなり鮮明に覚えているし(それも相当な衝撃映像だった)、さらにその数日前には彼と家で「遊星からの物体X」を見た記憶も残っている。ともかく「ヘレディタリー」に関しては、その長さと質の良さに完全に体力が奪われてしまった。ストーリーも2回目にようやく思い出したほど。もちろん長ければなんでも良い映画なわけではなく、アリ・アスター監督は「恐怖の時間」をコントロールするのがとても上手なのだ。彼自身も長い映画が好きだというほど、長尺の映像にはこだわりがあるのだろう。もし初見でこの映画の良さをご教授いただける人がいれば、是非教えて欲しい。夜トイレに行けなくなるような後味が残るホラー映画は、映像版お化け屋敷。本当にヤバいホラー映画は、体力を使い果たして記憶に残らない。ただひたすらトニ・コレットの絶叫と、ミリー・シャピロの「コッ」という心地悪い舌打ちだけが頭に響き続ける。

ちなみに、先日公開された同監督の「ミッド・サマー」も、劇場版は148分、ディレクターズカット版はなんと171分!というホラー映画でなくとも長尺の部類に入る映画。アリ・アスター監督の作品は、長ければ長いほどその真骨頂が味わえるというわけ。映画館で「ミッド・サマー、最高だねえ」と満足しているキミ、まだまだこれからだぞ!

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