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小説『磨心郷』 (まごころきょう)

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3週間ぐらい虎の門病院に入院した時に書いた未完成の小説。投げ銭制で公開します。
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小説『磨心郷』8. 共有院

小説『磨心郷』8. 共有院

※無料で全てが読める投げ銭制となっております。
目次⇒ https://note.mu/ayateck/n/n2586eacbaf9c

共有院に行く途中、街のメインストリートっぽいだだっ広い道を歩いていった。さっきのフムピムの話だと、これが「大理想通り」という大通りらしい。

道の両側には透明感あふれる木がずらっと並んでおり、キレイな並木道になっていた。

この通りの道は、薄緑色をしていて、さっ

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小説『磨心郷』7. ユーサイキア

小説『磨心郷』7. ユーサイキア

※無料で全てが読める投げ銭制となっております。

そこは、ふわふわとした世界だった。

ピンク色の雲のような、綿菓子のような、そんな素材の地面の上に僕は立っていた。僕は左手に持っていたピアスを早速左耳に着けた。火は耳たぶの中に入り込んで燃えていたが、意外と熱くない。ほっこりした温度だ。

「靴なんて、捨てちゃいなよ」

突然、意識の中に何者かが入り込んできた。周りを見渡してみると、近くに1匹の野う

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小説『磨心郷』6. 旅立ちの種火

小説『磨心郷』6. 旅立ちの種火

※無料で全てが読める投げ銭制となっております。

僕は、マスターに案内されて、カウンター奥の階段から地下室に降りた。やけに細くて急な階段だった。暗く埃っぽい。そして、異様に長かった。トータスも、ぽぴん、ぽぴんと音を立てながらついてきた。親切にも、トータスの頭の火が足元を照らしてくれた。4、50段は下っただろうか。漸く、一定の広がりを見せる床が見えた。

やけに天井の高い地下室だった。部屋の真ん中に

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小説『磨心郷』5. 黒いおじさん

小説『磨心郷』5. 黒いおじさん

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くしゃっ。

意識の内部に、切り取られた断片的ナニモノかが入り込んできた。なるほどそれが、マスターの心情だった。今この瞬間のマスターの心情。それを写真のように読み取ることが出来た。

それは、次のようなものだった。

ちょっと、ほろ酔い気分のいかつい深夜だけど、君に紹介したい人がいる。

「紹介したい人?」

僕は思わず尋ねた。ふふん、とマスターは

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小説『磨心郷』4. 心の共有

小説『磨心郷』4. 心の共有

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音も無く、火は一体化した。

その瞬間、もの凄い速さで洪水まがいの水量の水流が、ぐおおおおおおおと音を立てながら頭に流れ込んできた。いきなり、世界が膨れ上がったような衝動。
トータスの心の中身が、現在から過去に向けて逆流しながらひどい勢いで流れ込んできたのだ。

それは相当、精神力を消耗する作業らしく、急激に疲れ果ててしまった僕はその負担に耐えかね

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小説『磨心郷』3. 踊るトーテムポール

小説『磨心郷』3. 踊るトーテムポール

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カウンターのテーブルの隅で、それは踊っていた。
体長30センチほど。
どこからどう見ても、トーテムポールとしか表現のしようの無い物体だ。

マッチの火を煙草に点けるのも忘れて、僕は楽しそうに踊るトーテムポールを見つめていた。それは、コミカルに僕の心を捉えた。左右に揺れながら。

暫くそれを見つめていると、やがて、マッチの火が所在無さげに、消えた。

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小説『磨心郷』2.「飲み屋のマッチ」

小説『磨心郷』2.「飲み屋のマッチ」

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僕はカウンターの入り口近くの椅子に座ると、バス・ペール・エールを頼んで店内を観察し始めた。
店内は薄暗く、よくあるイギリス風バーの体裁を整えたデザインである。見た目はありきたりだ。でも、空気が変わった色をしている。それは透明でもなく、完全に淀んでいるわけでもない。くすんでいるのに、すっきり感もある。不気味さは無いけど、怪しくないわけでもない。何故か

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小説『磨心郷』1.「Bar Bristol」

小説『磨心郷』1.「Bar Bristol」

※無料で全てが読める投げ銭制となっております。

心が、やつれていた。
心が、何も音を立てなくなっちゃいそうだ。
磨耗した心を鋭くさせるやすりが必要だった。

不快だ。
そして腐海だ。
僕はこの腐海に生きている。そして、この腐海を選んだのは自分自身だ。

会社という檻に自ら入り、やりたくもない仕事を押し付けられ、心を擦り減らしては働いている。
疲れを癒すものは、音楽と映画。週末は天国。月曜の朝は地

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私は、社会人1年目の24歳の時に夏場のコーラの飲み過ぎで1型糖尿病という病気を発症しまして、3週間ぐらい虎の門病院に入院したことがございます。その入院中に書いた未完成の小説がございますので、投げ銭制でこれから公開して行こうかと存じます。