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仕事ができるギャラリストってどんな人?

こんにちは。gallary ayatsumugiの友川です。いま私は固有の場所を持たずにギャラリーを経営しています。なぜこうした活動をしているのか、自分自身を振り返るためにも書き始めたこのマガジン。意外なほど注目いただき、アートの仕事の実情に関心を持ってくださる方が多いことに、我ながら驚いています。よかったら「こんな話をもっと聞きたい」などのリクエストもコメントに気軽にお寄せください。

さて、今回は「ギャラリスト」の仕事について。

仕事ができるとは、重いもの、形がいびつなものを安全に運べること

いわゆる百貨店画廊の延長線にあるようなBunkamura Galleryと、銀座の洋画商(セカンダリーギャラリー)のギャラリーヤマネでは、扱う作品も顧客層も違います。ただ、仕事で要求されることには共通点がありました。

ひとつは、作品を安全に運ぶこと。

展覧会の設営撤去、仕入れ、納品、棚卸し。様々なタイミングで、ギャラリストは作品を運びます。傷つけたり衝撃を与えたりしないよう、慎重に。そして、お客様の目の前で作品を扱うこともあるため、極力スマートに。

作品そのものはもちろん、作品を覆う額もまた決して安くはないのですから、額に傷をつけたりするのもNGです。何気なくやっているようで、さし箱に作品を入れる向き、黄袋の扱い方、作品の置き方、全ての所作に一定のルールもあります。

仕事ができるギャラリストほど、作品の扱い方に無駄がなく綺麗でした。重い作品でもさっと、スマートに運んでしまいます。屁っ放り腰な人は向いていません。スーツ姿で高額の作品をスマートに運び、ささっと設置できる人は、ほんとに仕事ができる人でした。

運ぶために、いかに包むか

作品を運ぶこと同様に、地味でも大切なのが、納品時の梱包作業です。作品を覆う額のガラスに一点の曇りのないよう拭き上げ、額の簡単な補修もして、輸送時にガタガタしないよう、詰め物をして箱に収め、周囲をぐるぐると巻いて輸送の準備をします。

Bunkamura Gallery時代は、かなりの作品数を販売していましたから、展覧会の会期後はお客様の配送希望日にあわせて、私も毎日のように梱包作業をしていました。

大量の配送準備をこなしていたおかげで、安全に作品を梱包するコツを完璧に掴み、ギャラリーヤマネに務めたころには毎回、専務氏に梱包のできをお褒めいただくまでになっていました。

ある日、海外向けのお中元の品を梱包して積み上げてあるのを専務氏が見て、漏らした感想は、「ドナルド・ジャッドみたい(笑)」でした。これは実は、今でも密かに私の自信になっています。

知識があるのは基本。おしゃべりが上手な人が好まれる。

輸送やら梱包やらと、ずいぶんと地味なことを書きますが、ギャラリストとは、アートとともに「特別な」「よい気分」を届ける役割も担うもの。その特別さは、ラグジュアリーなものに宿るのではなくて、日々の掃除だったり、片付けだったり、目に見えない部分で付与されるのではないかと感じています。ゆえに、輸送や梱包技術は本当に大事なスキルなのです。

もちろん仕事ができるギャラリストは知識が豊富でした。「作家や作品を知っているかどうか」は、もはや基礎でしかなく、仕事ができる人ほど、作品そのもののみならず、業界動向や作品をめぐる様々なエピソードを、より興味がそそられるよう、面白おかしく話してくれるものでした。

つまり、作品を目にしているお客様がいま必要としている情報、聞いたらより理解が深まって楽しいだろうなと思えることを、けして押し付けがましくなく、面白く話せるのが、優秀なギャラリストなのです。

私自身も、お客様が作品に感化されて想像を膨らませている時間に寄り添いながら、その方が気に入ってくれそうなエピソードや情報選んでお話しして、作品とのエンゲージメントを深めていく時間をご一緒するのを、いつもとても楽しく感じてます。

さて、「仕事ができるギャラリスト」像をまとめると、テキパキ動けて、綺麗好き。作業が正確で美しく、体力がある。そしてなにより、知的好奇心が旺盛でコミニケーション力が高いこと。でしょうか。

多方面に能力が必要とされる職種だからこその面白さがある仕事です。この仕事の魅力に気がつく人がより増えるとよいなと思います。



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