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映画感想#54 「美しい夏キリシマ」(2002年)

監督 黒木和雄
脚本 松田正隆、黒木和雄
出演 柄本佑、原田芳雄、左時枝、牧瀬里穂、宮下順子、平岩紙、石田えり、寺島進、香川照之、甲本雅裕 他
2002年 日本 118分



"聖なるもの"のために戦う人間

1945年、宮崎で暮らす少年・康夫と周りの大人たちの物語。終戦間近ということもあり、戦争が常態化した日本で生きる人々の諦めと閉塞感が伝わってきます。

見終わった後は、何とも言い難い無力感が残りました。康夫が感じる戦争に対する違和感と、それをどうすることもできないやるせなさ。

天皇とイエスの存在の対比が面白い。
「聖なるもの」がなぜ聖なるものだと思うのかはわからない。「美しい」という感情に理由がないのと同じ。でも、その「聖なるもの」のために人は戦ってきたんだって。
当時の日本では、天皇が「聖なるもの」だったのかもしれません。
その聖なるもののために、人々は犠牲になっていくのでしょうか。聖なるものは、人の命より大事なのでしょうか。命を差し置いて、その戦いに勝つ意味はあるのでしょうか。
少年ならではの素朴な疑問に、改めて考えさせられます。

康夫の視点から、日本の勝利を信じ切った軍人や国民の姿が奇妙に見えるのは、そういうシンプルな問いに目を向けているからかも。

人が死んだり、裏切ったり、殺したり。そういうことが平気になってしまう世の中にはなってほしくないな。
霧島地方の瑞々しい夏の空気を感じながら、そう思いました。

☆鑑賞日 2015年8月5日
戦後70年特別企画 黒木和雄監督 戦争レクイエム」@岩波ホールにて


余談①〜黒木和雄の映画〜

宮崎出身の映画監督、黒木和雄。何本も見ているわけではないのですが、映画の登場人物たちの九州訛りが癖になる、自分の中のアンテナに引っかかっている映画監督です。
紙屋悦子の青春」(2006年/同監督)はテレビ放送で見たのですが、こちらも記憶に残る映画でした。日常の中に戦争が入り込んできて、生活を蝕んでいくような感覚が、冷静に淡々と描かれています。かといって、この「美しい夏キリシマ」もそうですが、暗くて冷たい雰囲気ではなく、どこか温かく人情味も感じられる。
これからの夏の時期、今年も戦争を題材にした特集上映には注目して、見ていこうと思います。

余談②〜柄本佑のこと〜

柄本佑はポルトガルの映画監督マノエル・ド・オリベイラのファンというのが、結構個人的には好きな理由でもあったりして。(オリベイラ良いですよね。)もちろん、個性的でかっこいいと思いますし。
本作がデビュー作のようですね。
記憶にある中では、「夜のピクニック」(2006年/長澤雅彦)で初めて見た気がします。昼間はゾンビだけど陽が沈むとハイテンションになるという、夜行性のヤバい高校生の役でした。まあ顔といい声といい、印象に残らざるを得ないくらいのインパクトです。
安藤サクラと夫婦というのも素敵。
お父上同様、年を取っても味の出る俳優さんですねえ。


ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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